「めちゃくちゃ苦いけど飲み切った……」

「これでそのうち痛みが軽くなりますわ。まぁ治療ではありませんから無理はなさらないで」

「わかった……ありがとう」

 

いまだに口の中が苦いけど、ずっと痛いままよりはいいよね……菖蒲に感謝しないと。それにしても、菖蒲が休みってことは杜若もそうだよね? 杜若はどうしたんだろうか。

 

「菖蒲一人でここにいるけど、杜若はどうしたの?」

「あぁ、寮で留守番ですわよ。まぁそのうちどこか行くでしょうけれど」

 

勝手にどっか行くってそれはもう留守番ではないのでは……? でも確かに杜若が大人しく留守番してるところは想像つかないかもしれない。でもどうせ二人とも休みなら杜若の方がよかったな。杜若ならあのクソ苦い薬も工夫してマシにしてくれていたことだろう。

そんなことを考えていたら、その杜若がここにやってきた。

 

「おい姉ちゃん! なんだよこれはっ!」

「騒々しいですわね。静かにしてくださる?」

「これが静かにしてられるか! なんだよこの請求書! オレの名前で勝手に化粧品頼んだだろ!」

 

菖蒲……弟に対して何をしているのさ。そりゃ杜若も怒るよ。だが、菖蒲は怒っている杜若を見てもまったく動じていないようだった。

 

「あら、私はそんなこと存じ上げませんわ。あなたが頼んだのではなくて?」

「オレがこんなもの頼むわけないだろ! もういい、姉ちゃんの財布からこの分の金とるからな!」

「人の財布を勝手に触るのはやめてください!」

 

……姉弟喧嘩はよそでやってくれないかな。それにしても、頼んだ内容はどう見ても女性が使う化粧品なのになんで堂々と自分じゃないと言い切れるのか。相変わらず菖蒲はとんでもない人物だ。

 

 

 *

 

 

その後この姉弟の口喧嘩は殴り合いに発展し、杜若が負けてしまい床に伏せていた。菖蒲はどれだけ馬鹿力なのだろう……ゆうきと張り合えるかもしれないね。そしてどう考えても菖蒲が悪いのに、杜若かわいそうだな。

 

「信じられませんわ、人の財布を盗もうだなんて!」

「いや……人の名前で勝手に品物買う方が信じられねーよ……」

「そうだよ菖蒲……杜若がかわいそうだよ」

 

あたしがそう言うと、菖蒲がこちらを向いていきなりニッコリと微笑んだ。さっきまでめちゃくちゃ怒っていたのに、急に微笑まれるとすごく怖いのだけれど。

 

「いいのですわ、だって杜若だっていろいろと悪事を働かせているんですもの」

「なっ……姉ちゃん何言って……」

「あら、いいのかしら? あのことをショートに言っても……」

 

菖蒲がものすごくあくどい笑顔を杜若に向けている。杜若は一体何をやらかしたのだろうか。何か弱みを握られているのか、杜若の顔が一瞬で青ざめる。

 

「分かった! 払う、払うから、言わないでくれ!」

「ふふっ、最初から大人しく言うことを聞いていればいいのですわ」

 

高らかに笑う菖蒲と顔を真っ赤にして目尻に涙を浮かべる杜若。この二人のどちらかと一緒にいることはそれなりにあるけど、実は二人揃ってるところに居合わせることがあまりない。普段からこんな感じなんだろうか……。

 

「戻ったぞ……って、なんで人が増えてるんだ?」

「あら、てんま戻りましたのね。それでは私は植物魔法学校へ戻りますわ」

「サンキュー菖蒲」

 

あぁ……この姉弟喧嘩を見ている間にてんまが戻ってきてしまった……。そして菖蒲は戻るついでに杜若を思い切り踏んづけていく。これはあまりにもヒドすぎるのではなかろうか。

 

「か、杜若……大丈夫?」

 

あたしが杜若に近付くと、急に杜若が抱き着いてきた。驚いたものの、もしかしたら実の姉にあんな対応をされてショックを受けているのかもしれない。そう思って振り払うのはやめた。

 

「杜若どうしたの?」

「ショート、助けてくれよ……あの悪魔を何とかしてくれー……」

 

悪魔って……あの姉にしてこの弟ありだな……。この二人ってこんなに仲悪かったっけ? 初めて会った時そんなイメージなかったけどな……。

 

「でも菖蒲帰っちゃったし……菖蒲はあたしの言うこと聞く人じゃないでしょ……」

「よし、分かった! じゃあ今から反抗期突入だ!」

「どういうこと!?」

「手始めに今日は植物魔法学校には帰らないことにする! ということで泊めてくれないか?」

 

……それは反抗期なの……? よく分からないけど、部屋に泊めるくらいまぁいいか。お客さん用の布団くらい寮の中にあるだろうし。

そんなことを考えていたら、いつの間にかてんまは部屋を出ていたらしく再びへの中に入ってきた。

 

「お前らは何をやっているんだ……」

「てんまは黙ってろ! なぁショート、いいか? オレこのまま帰っても絶対怒られるからさ……」

「あたしは別に構わないけど……」

「本当か!? ありがとなショート、よろしくな!」

 

杜若がさらにぎゅうっと抱き着いてくる。それを見ているてんまはなんだかご立腹の様子。何かあったのかな? とはいえ、今日まだほとんど関わりないし、原因なんか見当もつかないけど……。

 

「お前今日は大人しくしてろって言ったのになんでベッドから出てるんだよ!」

「えぇー、大丈夫だよ。菖蒲から激マズ鎮痛薬もらってかなり痛み引いたし」

「そういって昨日悪化したんだろうが!」

 

……そう言われると、何も言えないかも。確かに昨日は調子に乗って悪化させたんだった・……。そりゃ怒るか……ていうかてんまが怒ってる原因あたしじゃん。

 

「ていうか、なんで杜若がここにいるんだよ」

「えー? オレ今日ここに泊まるんだよ」

「はぁ!?」

 

何故か得意顔の杜若。あたしも最初は少し驚いたけど、そこまで驚くことだろうか。りんねとかだってたまに用事があるとかで別の魔法学校の学生寮泊まったりしているみたいだし……そこまでおかしくはないような。いや、今回は理由がおかしいけど。