それにしても、あの二人でもう挨拶は終わりって……あっさり終わっちゃったな。これで学校行くまでもうすることないのか……なんだか緊張感に欠けるかも。

挨拶も終わったのであたりを見渡すと、テツの姿がなかった。

 

「あれ……? テツいなくなっちゃったのかな」

 

とはいえ、勝手にうろちょろするわけにもいかないし、しばらくここで待っていよう。

始まりと終わりの扉の横にもたれかかった瞬間、扉が開きだす。

 

「えっ……?」

「アンタ誰? っていうか邪魔なんだけど」

 

扉から濃い水色の髪の男の子が現れ会って早々に悪態をついてくる。

なんて失礼な人なんだろう。というか、この人誰……!?

 

「初対面の人に向かって失礼ね! アンタこそ誰なのよ!」

「オレは今日からほしぞら魔法学校に転入することになってるから来ただけだ」

 

えぇ!? この失礼男も転入生なの? ってことはこいつもこの学生寮に住むってことだよね……いやだなぁ。転入早々嫌な目にあうなんてついてないなぁ……。

 

 

 *

 

 

――――といった感じで出会ったその瞬間から嫌な男という感じだ。あれ以来ずっとてんまとは仲が悪く、ほぼ毎日会うたびケンカしているような状態。

あぁ、なんか出会った頃のことを思い出したら余計にイライラしてきた……。今度こそ上手く仕掛けてやるんだから!

 

「おいコラどこ行くんだ。お前あれだけじゃなかったのかよ……!」

「あっ、ヤバ!」

 

てんまに言われたその瞬間、部屋の窓を開け放つ。

そう実は画びょうだけじゃなく、てんまの制服に油性の黒ペンで盛大に落書きしていたのだ。おそらくそれに気付いてこっちに来たのだろう。

でもここで捕まるわけにはいかないので、部屋に置いてある荷物を拾って開け放ったドアから飛び降りて外に出る。

 

「……いったた……」

 

上手く着地することができず、思い切り足を捻ったようだ。だがここにいたらてんまに捕まってしまうので痛む足を無理やり使って学校へ向かうことにした。

寮に住んでいる他の三人はまだ着いておらず、教室には数人いる程度だった。

 

「はぁ……やっと着いた」

 

ため息をつきながら自席につくと、目の前にクラスメートのホイップがやってきた。

 

「あらショート、なんだか今日は朝からボロボロですわね」

「あはは……寮でちょっといろいろあってね……まぁいつものことだから大丈夫!」

「そ、そうですか……他の三人はどうなさったの?」

「たぶんまだじゃないかな? あたし一人で来たからさ」

 

特にてんまは遅く来てほしい。早く来たら面倒くさいし……まぁいつもギリギリに来るからまだ来ないよね。

そう思っていたのに、ホイップがある方向を指さしながら言う。

 

「あら、てんまは来ているみたいですわね」

「えぇ!?」

 

なぜ一番来てほしくない人が一番最初に来るのだろうか。しかも始業時間までまだ時間があるから絶対文句言われる……!

かといって、正直もう足が痛すぎて逃げる余力は残ってない。終わった……!

 

「……おい、よくもやってくれたな……!」

「何のことかな? ていうか、教室の中では上着脱ぐって知ってる?」

「誰のせいでこうなってると思ってるんだ!」

 

怒鳴るてんまを更に煽っていく。てんまの相手をするのは面倒だけど、上着の下で落書きだらけの制服を着ていると思うと笑えてくる。

 

「ちなみに油性だよ!」

「お前ふざけんなよ! お前も同じ目にあわせてやる!」

 

てんまがそう言いながらカバンからペンを取り出そうする。

まずい、制服に落書きされるなんて嫌だ! 逃げなきゃ、そう思って勢いよく席を立って逃げようとした――――が、先ほど足をひねっていたことで激痛が走り、あたしはそのまま倒れた。

 

「いったぁ……! そうだ、さっき足捻ったんだった……!」

 

あまりの痛みに涙が出そうになる。もはや立ち上がることすらしんどいレベルだ。けど、このままここでこうしているわけにはいかないし……。

そう思っていると、てんまがあたしのそばでしゃがんだ。

やばい! 落書きされる……! 目をギュっと瞑るが、あたしの予想と反する行動をされる。

 

「どうせそれさっき窓から降りたときにやったんだろ」

「えっ? そ、そうだけど……」

「どんくさいやつだな」

「失礼な……!」

 

てんまは笑いながらあたしの足を見る。いつもと違い、優しい手つきで捻ったほうの足の上靴を脱がせ、靴下を下ろす。

なんか、変な感じだ……。

 

「うわっ、お前どんな転び方したんだ? 赤く腫れてるぞ」

「……たぶん、寮から学校まで走ったのもあるかも……」

「やっぱお前って本当にバカなんだな。ったくしょうがねぇな……」

 

バカじゃない、そう言おうとしたら急に体が宙に浮いた。目線もいつもより高くなっていて、てんまにおぶられていることに気付く。

 

「ちょ、ちょっと! 何するの!」

「その足じゃ歩けないだろ」

「大丈夫だよ、これくらい……!」

「無理してこれ以上悪化したらどうすんだよ。いいから大人しくしてろ、バカ」

 

そう言ってそのまま職員室まで連れていかれる。おぶられている間、あまりに心臓がドキドキするから、それがてんまに聞こえるんじゃないかと不安で仕方が無かった。

でもなぜか、それが嫌じゃないのが不思議だ。