「――――てんまのバカッ!」

 

とある日の昼下がり、学生寮内にあたしの叫び声が響き渡る。

あたしの目の前には怒鳴りつけた相手であるてんまがおり、そのてんまもまた怒ったような表情をしている。

 

「バカにバカとか言われたくないんだけど。お前のほうがバカだろ!」

 

てんまも負けじと怒鳴りつけてくる。

正直言っている意味が分からない。なぜあたしがバカと言われなくちゃいけないんだ。

 

「二人とも朝からなんなの? ケンカなら外でやってよ……」

 

呆れた表情をしてこちらにやってきたのはりんね。

そしてその後ろからゆうきがやってきた。

 

「この二人のことだからどうせくだらないことよ。聞くだけ時間のムダだって」

 

失敬な! 超最重要事項なんですけど!

とはいえ、当事者以外からすればケンカなんて迷惑なものなのは間違いない。だがあたしはその当事者なのだ。言いたいことは言わないと気が済まない!

 

「絶対にてんまが悪い! あたしの筆箱にイタズラ書きしたでしょ! 油性ペンで書くから消せないじゃん!」

「いやお前のほうが悪いだろ! オレの靴に画びょう入れやがって!」

「うるさい! 男が細かいこと気にするな! あたしがてんまの方が悪いって思ってるんだからてんまが悪いの!」

「どういう理屈だ!」

 

第一そんな細かいことを気にしていたらモテないだろう。……いや、てんまは何してもモテないから関係ないか。

かわいそうなヤツだなぁ……なんか哀れに思えてきたよ。

 

「お前なんか失礼なこと考えてるだろ!」

「そんなことないよ~! てんまが何したってモテないなんて思ってないって~!」

「全部喋ってんじゃねぇか! お前殴るぞ!」

「やだ~! 女の子殴るなんてサイテー!」

「誰が女の子だ!」

 

あたしたちがケンカを続けていると、横からりんねのため息が聞こえたと思ったら、りんねの手刀が頭頂部に直撃する。

 

「喧嘩両成敗! どっちも悪いんだから早くお互い誤って静かに過ごしなさいよ!」

「うぅ……ごめんなさぁ~い」

 

痛む頭頂部をさすりながらりんねに謝罪をする。

なんだか初めてここに来た時のことを思い出すなぁ……。

 

 

 *

 

 

――――期待を胸に、ほしぞら魔法学校へ転入することになったその日。学生寮に到着すると、目の前にかなり強面な男性が立っていた。

あまりに驚きすぎて、声すら出なかった。

 

「お前がショートか?」

「へっ? ……あっ、はい!」

 

思わず返事をしたが、あたしの名前を知っているこの人は誰なんだろう。

あたしがそう思っていることを感じ取ったのか、その人は名乗ってきた。

 

「オレはこの学生寮の管理人、テツだ。まぁ寮のことで分からないことがあれば聞いてくれ」

「は、はい……よろしくお願いします」

「学校へ行くまでまだ時間があるから寮内の生徒に挨拶でもしてきたらどうだ?」

 

テツに促され、他の人の部屋に挨拶へ行くことになった。

でも、他の人の部屋がよく分からない……そう思っていたところ、ちょうど前に人がいた。

 

「あの、すみません。今日からほしぞら魔法学校に通うことになったショートです。よろしくお願いします」

「今日から来る子ね、聞いてるわ。あたしはりんねよ、よろしくね」

 

そう言ってりんねは微笑んだ。第一印象は、すごく優しそうな人といった感じだ。一番最初に会ったのがテツだったから、余計にそう感じるのかもしれないけど。

 

「あの、この学生寮ってほかにどれくらい人がいるんですか?」

「えーっと、ショートを含めて三人ね、今は」

 

三人……!? 少ない、って思ったけど他の学生寮がどれくらいいるのか分からないから少ないのかどうか分からないかも。

でも、りんね以外にもう一人挨拶したら終わりってことだね。

 

「そのもう一人の方ってどちらにいらっしゃるんですか?」

「あぁ、あの扉の横の扉の部屋よ。あと、これからクラスメートになるんだから敬語なんか使わなくてもいいわ」

「あっ……ありがとう! 行ってみるね」

 

笑顔で見送ってくれるりんねに手を振り、もう一人の子がいる部屋を目指す。

あの扉、というのは先ほどあたしが出てきた扉だ。始まりと終わりの扉というらしい。変わった名前だ。

 

「すみませーん、誰かいますか?」

 

もう一人の子の部屋の扉をノックして問いかける。

すると、部屋からドタンッという音がしたかと思ったらゆっくりと扉が開いた。

 

「もう何よ……りんね? 今日早くな……ってアンタ誰?」

 

部屋の中から寝起きの姿で出てきた人が怪訝そうな目であたしのことを見る。

はっきり言ってしまうと、さきほど見たりんねとあまりに対照的で驚く。りんねはしっかりした風だったのに、この人はまったくそういう風には見えない。

 

「あの、あたしショートって言います。今日からほしぞら魔法学校へ通うことになってます。その前に学生寮の皆さんに挨拶しようと思って……」

「あ~……そういやなんか聞いたかも。あたしはゆうきよ、よろしく。あたしはまだ寝るからじゃあね」

「あっよろしくお願いします」

 

……せっかく起きたのにまだ寝るのか。今日学校行く日だよね? 何時まで寝るつもりなんだろう……。