そして、練習が始まった。
一応最初は通して練習するらしい……。なので、最初はてんまだけが立っていた。うん、まぁ主役だもんね。
そして校長代わりのゆうきのナレーションが入る。

「昔、あるところにアリスというとても可愛い、イタズラ好きな女の子がいました。アリスは実は魔法使いで毎日魔法でイタズラをしてはお姉さんを困らせていて、今日もイタズラをしていました」

こ、この次がてんまのセリフだよね! てんま大丈夫なのかな……? いくら台本持ってるとは言え、いきなり女の子口調は難しいんじゃ?

「あ、あは、あはは……化粧品のお姉様を埋めてやったわー……?」
「てんま! それお姉様と化粧品逆だと思う! お姉さん勝手に化粧品にしちゃダメだと思うんだけど!」

あたしがてんまを止めると、てんまがハッとする。いくら緊張してる上に女役だからといってこれはないと思う。
……と、とりあえず続けるらしい。これ以上変なミスはいろいろヤバイよてんま……。

「え、えと……お母様の飼ってるアンコも放してやったし、お父様の大事な時計とトイレも魔法で合体させたし?」
「お母様が飼ってるのインコだろ!」

ダメだ、てんまの演技、突っ込みどころ満載だ……! 時計とトイレ合体は合ってるけど、あれ自分にも被害が出る気がするんだけど、どうなんだろう。
それ以前に時計とトイレを合体させた意味って何? 合ってるとこなんて文字数と最初の文字が「と」ってだけだよね。
って、そういやここでお姉さん役の杜若登場だ! 杜若ならなんとかなりそうな気がする。

「もう、アリス何してるのよ! これ以上私たちを困らせないで!」

……うまっ!? え、あれ杜若だよね……? いや見た目は杜若だけど。
そんなにてんまがいじめたかったのか……杜若……。

「お、お姉様……み、みみ見つかってしまったわね……? でも私はトイレのことが大好きだからイタズラしたいのよ!」
「てんま! アリスはトイレ好きな変態じゃないよ!?」

もうダメだ。てんまに女役をやらせるのは荷が重すぎる。
大体、トイレが大好きだからイタズラするってどういうことなの……。元のセリフは「自分の魔法が好きだから好きなように使ってるだけよ」だったよね? 何がどうなるとあんなセリフになるの?

「……これ以上続けてると日が暮れるから少し飛ばすわよ。アリスが小人と出会うところやりましょう」

見かねたゆうきが新たな指示を出す。賢明な判断だと思う。
小人ってことは、ゆうきも出るんだよね。

「あ、あああああらあんなとこに変な小人がいるわー……! イタズラしちゃいましょう……?」

……さっきよりはマシかな……。さっきは変な言い間違いばっかりしてたし。
そのあとてんまが実際に変身をして、小人に魔法を仕掛ける……フリをした。魔法は使ってるけど、当たらないようにしてあるのだ。

「うわああああっ」

小人役の女子全員が叫ぶ。……まぁ、叫ぶだけなら皆できるよね。
そういや次のセリフゆうきだっけ……。

「誰だ、こんな悪質な嫌がらせをするのは!」
「あ、あはは……アンタたちみたいなヤツはイタズラのし甲斐があるわ……!」
「ふざけるな! って、魔法を使ってイタズラしてるし、この森にいるし……こいつ、あのアリスなんじゃないか?」

何この女子軍の上手さ。怖い。そしててんまの下手くそさが目立つね。

「アリスって、噂じゃ住む場所なくて困ってる上にホントは魔法使ったらいけないらしいよ」
「そ、そそそそこ! うう、うるさいのよ!?」

さっきから思ってたんだけど、何で疑問形なんだろう。書いてあること読めばいいだけじゃん……。

「そうだ、アリス。ここは取引をしよう」
「とっ、ととと取引?」
「もし今のお詫びとして毎日料理や掃除をしてくれるなら、私たちの家に、一緒に住まわせてやろう」

と、そんなこんなで小人とアリスのシーンが終わる。
なんていうか、ホント劇当日大丈夫なんだろうか……。