――――あれから数十分、オレたちは他愛もない会話を繰り広げていた。
……勿論、オレが男……いや、てんまだということがバレないように。
ていうか、今回はっきりしたけど、コイツ恋愛ごとにもクソ鈍いけど、他のことにもこんなに鈍いんだな!
そりゃあ三年間気付かなくても何もおかしなことはない!
なんて考えてたら、アイツが突然とんでもないことを言い始める。

「――――それでね、てんまっていうバカがね、昔女の子の格好してたって聞いて――……」

やめろ言うな黒歴史を掘り起こさないでくれ。
というかオレがてんまなんだよ……言わないし言えないけど。
……しかも、今まさに女の子の格好してますけどね。

「うーん……それにしてもソラちゃん可愛いよね。羨ましいなぁ。
 それだけ可愛いと、やっぱり彼氏とかいるの?」
「えっ……!? い、いない……よ」

いるわけないだろ男なんだから。……彼女もいないけど。
っていうか、可愛いって言われても嬉しくない……。

「そうなんだ……まぁきっと誰かがソラちゃんの良さに気付いてくれるよ!
 あたしなんかより可愛いし、いい子だと思うから!
 ……って彼氏いたことないあたしに言われてもって感じだけどね、あはは!」
「は、ははは……」

いや、彼氏できたらビックリですけどね。まずオレがビックリ。
……そろそろ、聞いても、いい……かな。

「じゃ、じゃあ好きな人とかは……いない、の?」
「へ!!?? な、何で!?」

いることは知ってるけどな……。というかそこまで慌てられると、好きな人がいることを知らなかったとしても、察することくらいはできるな……。
どんだけ動揺してんだこいつは。

「……いるんだね……」
「うっ……い、いるけど……! でも、あたし嫌われてると思うし」

……? 嫌われてる? オレもアイツも知ってる男子の中で、アイツのこと嫌ってる奴なんかいたか……?
あさひとは仲いいし……。コハネともすぐ仲良くなってたし……。
イトと杜若はむしろ好きってくらいだし……オレのことは関係ないけど。……関係ない!
……てか、それってつまりオレらの知らない人とか……なのか?
そんなん聞いたことないけど……。

「そ、その人って、どんな人……なの?」
「え? うーんと……別にカッコいいとかじゃないし……意地悪とかもしてくるけど、たまに優しいんだ」

カッコいいわけじゃないのかい。いやホントに誰だよ。
もし、杜若だとしたら……杜若が、コイツに告白したとき、付き合ってただろうし……。

「結構前から一緒にいたけど、最初は全然好きじゃなくて、むしろ嫌いだったの」
「嫌い……?」
「うん。でもね、ある時その人のこと好きって気付いてからずっと好きで、今では一番大切な人……かもしれないね。嫌われてるだろうけどっ!」

――――そう言い切ったコイツの表情は、どこか儚げで、今にも吸い込まれてしまいそうな、綺麗な笑顔だった。
誰だか分からないけど……そこまで、好きなのか……。

「そう、なんだ……でも、どうして嫌われてるって思うの?」
「意地悪されるって言ったけど、あたしも意地悪しちゃったから……かな。割とたくさん意地悪しちゃったし……」

なるほど……でもその理屈でいくと、お前もそいつのことどんどん嫌いになる一方なのでは。
まぁ、そいつがどんなやつか分かんないから何とも言えないけど。