~子どもが抱えるあらゆるニーズに応えるために~
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DVD No.8 健全なシステムとは(17:24)
健全なシステムでは、オープンで、率直で、密なコミュニケーションがあります。そのため支援チームは、まず組織内の全員に周知すべきコミュニケーションプランをたて、組織の内外両方のステークホルダーに通知するための資料を用意します。
健全なシステムは、組織の記憶というものを蓄積し、引出し、そこから学びます。重要なのは、組織としての記憶と同時に、組織の一人一人が組織の記憶を持っているということです。つまり、その組織で長く勤めるほど、去るにあたって、引き継ぐべき重要な知識を知らない間に蓄積しているのです。
辛い記憶は厄介です。組織に何か悪いことが起こった場合、個人に起こったことが組織にも起こります。忘れよう、なかったことにしようとするのです。悪いことが起こると職場は一日二日その話題でもちきり、しかしそのうちに上司がやってきて、「さあさあ、もう十分だ、仕事に戻りなさい。」という。でも、そんなに簡単じゃない。危険なのは、むしろ、辛い記憶からの解離現象が起こることです。すると組織は、いつまでもその亡霊に苛まれる結果になります。
悪いことが起きたときほど、新しい学習と計画が必要です。そこから何を学んだのか、これから何を変えたらよいのか、うまくやれているかを振り返って確認するための計画をたてるのです。トラウマに対応する組織は、記憶を活かし続けます。記憶を思い起こし、どうしてこんなことが起きたのかを振り返ります。組織ができたときのビジョンについてはもう分からないとしても、組織のトラウマの歴史については知りたいのです。私たちが関わった組織には、100年以上の実績のあるところもありました。長い時間が経過しているからといって、もはやその歴史が今の組織に影響を及ぼしていないわけではありません。何を失ったのか、どんな失敗をしたのか、どう対応したのか、どんなふうにうまくいったのか、組織の歴史を振り返ります。
個人のクライアントに関わる場合と同じです。これは組織レベルで取り組むこと、率直なコミュニケーションへの取り組みの一つです。健全なシステムは学習する組織でもあります。学習する組織という概念の産みの親ピーター・センゲの言葉にこんなものがあります。「学習する組織において、リーダーは設計者であり、世話役であり、教師である。」
リーダーは、職員が自分の能力を常に向上させ、複雑な問題を理解し、ビジョンを明確化し、共有されたメンタルモデルをよりよくするような組織を構築します。すなわち、リーダーは学習の責任者なのです。社会的学習への取り組みと言っていいでしょう。ネルソン・マンデラの言葉通り、教育こそが、世界を変えるための最も強力な武器なのです。しかしそのためには人をどう教育するか知っていないといけません。これはトレーニングというより、むしろ再教育と言った方がいいでしょう。
関連の最新科学の成果をどうやって教育するか、簡単なことではありません。トラウマと逆境に関する科学、社会神経科学、精神神経科学などのれっきとした科学、学問ですから、皆に理解させるのは大変です。トラウマに対応できる組織は、社会経験からの学習を重視し、ルーティンとして葛藤マネジメント方略を用い、その葛藤を新たな学習に役立てます。
そして難題には常にクリエイティブで統合的な解決を追求します。トラウマに対応できる組織は、経験から学び、たとえ好ましくない変化であろうと対応します。順応できないといけません。
学習は組織全体で共有されます。組織全体にはすぐに思い浮かべることがないような人も含まれます。例えば保守管理をする人、食堂で働く人、経理や総務のスタッフなど、全員です。どの人にも関わることですから。そして学習したことを活かして変化を起こしてほしいのです。もし学習したのに同じことを何度も繰り返しているなら、それは学習ではなく、実際には学んでいないのです。その時は学校の子どもと同じように、どこが分からなかったのか戻って考える必要があります。そうすると、コミュニティメンバーは人間の行動は実は理にかなっていることが理解できるようになります。一人一人の経験について、十分に文脈を理解すれば理解可能なのです。
私たちはまた、人を傷つけるのは、実は自分を傷つけるのだと学びました。自分や他人への暴力、それは痛みの症状です。暴力をふるう人は、本当は助けを求めているのです。許されないようなことをしている人は、「私は問題を抱えています」と伝えようとしているのです。
助けてほしいと。
態度がひどいとその裏にあるものはなかなか認識しづらいですが、コミュニティ全体としては、痛みを最小化し、報復の起こる前に埋め合わせをしなくてはなりません。人は報復を求める性質を持っています。誰かに傷つけられたら相手にも傷を負わせようとする。誰かに親切にされたら相手にも親切にしようとする。これは基本的な社会的プログラミングと言われるものです。これは人を傷つけるだけでなく非常に危険なことです。必ず報復したいと思うのが人間ですからそれが人間としてごく自然なことなのです。
トラウマに対応できる組織は、誰もが全てに完ぺきではないと分かっています。ですから特別なニーズに対応できる専門家を雇います。組織という集団では危険に対処するため最良で最も公正な方略を決定し、すべての専門家が同じ認識を共有すべきです。このイラストの、教育、児童福祉、司法、メンタルヘルスはすべて縦割りです。それぞれ異なる言語で話し、異なる反応をし、同じ基礎知識を共有していません。そこを変える必要がある。なぜなら、もしこれら全てのシステムに関わっている人がいたら、その人はそれぞれの専門家から矛盾するメッセージを受け取ることになってしまいます。なので、将来的にはすべての専門家が同じ認識を共有し、同じ言語を話し、同じ目標を目指すことが重要です。学習はもちろんそうですが、忘れることもまた学習の一部なのです。ヨーダが言ったように健全なシステムは忘れることもしています。
トラウマに対応する組織が問うべき重要な三つの問いがあります。これからも続ける必要があるのは何か、うまくいっていて役にたちミッション達成に有用なのは。じゃあ何をやめないといけないのか、もうできない、心地が悪い、自分がやっていることと矛盾しているのでできない、偽善者になってしまうから、もう続けられない、そしてどんな新しいことを
学ぶべきなのか、何を始めないといけないのか、新しい取り組みが必要なのかをどうしたら分かるのか、この3つの問は、実施段階でとても重要な問いなのです。
トラウマに対応する組織は社会的学習に熱心です。その標準的な操作手順と、その方針手順を認識し、それらが組織のミッションや価値観と整合性があるかを確認します。そして先ほど申し上げたとおり、全ての価値をすべてのプロセス、どんな組織にも生じる人事に関する実践に適応していくのです。
また、健全なシステムは社会正義を重く受け止め、有限実行します。つまりトラウマに対応する組織とは、人権についての組織なのです。子どもを含めたあらゆる人の人権についての組織なのです。
現時点でアメリカは世界で唯一国連の子どもの権利条約を批准していない国です。私はそれが、この国がどこにいて、どこに行くべきかについて、重要なことを示唆していると思います。なぜなら個人の問題は政治の問題なのです。
トラウマへの暴露は、人々を阻害させ、意味や目的の感覚を感じられなくさせてしまうということを私たちは知っています。今の環境では多くの人がそのように感じていると思うのです。だからこそ、私たちは互いに責任があり、責任を持つのだと言う概念に立ち戻るべきです。
誰でも常に自分のニーズとより大きな集団のニーズとのバランスをとらなければなりません。私たちはいまだかつてないほど相互につながっているのです。
健全なシステムは、仲間と一緒に働き、変化を起こし、問題を解決します。サンクチュアリではそれを「セルフ」と呼んでいます。安全Safe、感情Emotion、喪失Loss、そして未来Futureの頭文字です。コンパスになっているのは方向性を指し示すのであって、達成すべき段階を意味するものではないからです。これはシンプルで誰でも使え、トラウマと逆境から立ち直るための根本的な領域について、数多くのアイデアを与えてくれます。
安全を確保し、自分の感情の管理の仕方を知り、喪失と変化に向き合わなくてはならない。
しかし明確な未来が見えなくては、向き合うことはできません。だから、効果的な問題解決と問題整理のために、そのコンパスを動かし続けて下さい。これが成長と変化へのコミットメントへとつながっていくのです。
セルフはこうしなければならないといった順序や段階がないので、どんな場面でも活用できます。ちいさな5歳の子どもさえも、セルフがどんなものかを説明できます。家族、スタッフ、組織全体にとって、セルフは非常に強力なツールとなります。教師にも役立ちます。実際教室で広く使われています。子どもたちの置かれている状況が把握できます。その子にどうしてあげたらよいのか、その教室内の葛藤をクラス全員とどうやって解決すればいいのか、学級全体としてうまくやれているか、皆はセルフをどう思っているのか、何かを変えなければならない、やり方を変えなければならない、どうやって安全に感情を制御し、何をあきらめなくてはならないのか、あるいは目的に照らせば諦める価値があるのか、すべて成長と変化をめざす取り組みの一部です。
セルフを使うにあたって、考えるべき重要な問いはなんでしょう。その人にとって、自分自身にとって、その学級にとって安全を脅かす問題とはなにか、感情マネジメントに関わる問題は何か、喪失の問題は、その人、又はクラスが被った喪失の問題は何か、変化を起こすには、どの喪失を再認識しなければならないのか、そしてなぜ変えるのか。
人が抗うのは変化ではありません。喪失です。人は喪失が嫌なのです。失わなければならないものを認識することで、自分、あるいは自分を含む周囲の人が変わることで得られる利益は何かというビジョンが得られるのです。
私たちが地上チームとして喪失の概念にたどり着いたのは、随分後になってのことでした。それは本当に重要なことでした。もし痛みをともなう喪失の問題に対処しないまんまだと本当に変化することはできません。喪失は私たちが見過ごしていた重要な要素でした。同時に、健全なシステムはいいことがあった時に、その楽しみ方を知っているものです。お祝い事は定期的に、どんな小さな変化や改善も見つけてお祝いし、よりよい未来を志向しましょう。また笑いは万能薬です。
笑って楽しんで遊ぶという要素を大切にしましょう。私たちはこれをサンクチュアリモデルと呼んでいます。これは組織が変わるための青写真であって、レシピではありません。
トラウマインフォームドな価値について、もう一度繰り返しましょう。人生のすべての局面で安全と感じられること。そのためには非暴力と多面的な思考ができる必要があります。
感情的知性が必要です。なぜなら、個人や集団の意識と無意識の両方を理解しなくてはいけないからです。
人間は試行錯誤を通じて学ぶ存在なので、社会的学習が必要で、また相互の信頼関係の中でこそ、最良な学びができます。情報を偽りなく、オープンで風通しのよい状態に保つため、コミュニケーションをオープンにしておくこと。秘密は病を生み出します。権力の更なる濫用を避けるため、民主的であることを目指さなければなりません。複雑な問題に対処するためには幅広い参加が必要です。良いアイデアがどこから出るか分からないからです。
個人のニーズや欲求と社会全体の福祉とのバランスをとるために、社会的責任を果たす姿勢が求められます。成長と変化には強い決意が必要です。変化には喪失が伴うので、それに代えても価値があるのだという認識をしっかりと持っていなければ実現できません。
ですから、もうお分かりでしょうが、トラウマに対応し乗り越える組織は強い心を持たない者には向きません。欺瞞の蔓延する時代に真実を伝えることは革命的な行為になります。
私たちは今、自分たちの抱えている問題やこれからやってくる問題の大きさを否認し続ける時代に生きているのです。
皆さんには、たとえ声が震えようとも、真実を話すことをお勧めします。
ガンジーは言いました。「彼らはまずあなたを無視し、次にあざ笑い、そして闘いを挑むだろう。しかし、最後にあなたが勝利するだろう」と。
バスラフウ・ハーベルは、「真実と愛が嘘と憎しみを克服する」と言いました。もう一人の私のヒーローは、デモクラティック・セラピューティック・コミュニティの創設者の一人、マックスウェル・ジョーンズです。彼は1953年にこう言いました。「メンタルヘルスの分野では、精神療法や精神衛生に最も注目が寄せられているが、健全な人格を育成する文化全体の設計はほとんどない」と。
このことがあらゆる支援者が今後取り組むべき課題なのです。自らのキャリアを築いている支援者の皆さんの課題、それが我々のすべきことであり、ぜひしてもらいたいと心から願っているのです。