第50話 底抜けの闇
見とれて声も上げられない私たちの前の神秘には、
かつて無機質だった面影がまるで残っていなかった。
助手は懐中電灯を向ける。
閉じ込められた空気の粒が生き物のように揺れるのがわかる。
意識は完全に、その万華鏡に吸い込まれていった。
「硝子は、固まったように見える後も、ずっと液体のままなんだ。
長い時間、それこそ人が誕生して滅びるまで経って始めてわかる位
ゆっくり、静かに息づいてる。」
私たちはしばし時を忘れて、硝子の世界を感じていた。
第49話 流体
棒の幾何学的な動きが硝子の糸に意思を与える。
重力に合わせる必要性も、細さが異なるものお構いなく、
計算された凝固速度通り、まるで本来あるべきだった位置に軟着陸を遂げる。
パチッと繋がりを断ち切られたタクトが瞬時に振り下ろされる。
電熱ファイバーに持ち替え、輪郭があらわになった硝子の表面に初刀を撃ち込む。
ゆっくりと、機嫌を損ねないように、針のごときファイバーで硝子を撫でていく。
まさに流れに身を任せる水鳥。
光の屈折が変わることで彩が増す。
眠るように固まった後も動き出さんばかりだった。
第48話 way
マシュマロが乗ったホットチョコレートを頂きながら耳を傾ける。
「まずは慣れるために、ここにある歯医者にあるような
鉄のコップを飾り付けてみよう。
硝子が固まるまで20分。
ハケで軽く下地を塗り、棒に硝子を巻き付けて、
飴細工の要領で立体的に形を作るんだ。」
そう言うと、壷から手際良く七色に輝く硝子をくるっと棒にからませ、
コップに跳ね回らせる。
「「「おおぉ!」」」
感嘆の声を上げる私たち。
第47話 カッサンドラ
「師匠と私は再生芸術家として主に富裕層の嗜好品と
博物館用の展示物を作っているんだ。
今日は製作過程を体験してもらいたく招待させてもらったんだが、
鉄と年代物の硝子を融合させて作品を完成させるのを目標にしてほしい。
そのためにまず割れて使い物にならなくなった数世紀前の
ベネチアングラスをちょうど今師匠が融解させている。
実際踏んでもらう工程はパンフレットを基に説明する。」
