日活ロマンポルノリブートプロジェクト第4弾、園子温監督「アンチポルノ」。2月3日、武蔵野館にて上映後の監督と主演の冨手麻妙さんChim↑Pomのエリイさんのトークセッション付きで鑑賞。
恥ずかしながら園監督の作品を見たこともなければ主演の冨手麻妙さんについては名前すら知りませんでした。むしろエリイさんの方が新宿歌舞伎町廃墟ビルでの展覧会等その作品や活動を知っているという感じの私がこの作品について情報発信するのはおこがましいのですが。
 
結論から言えば、とても痺れるカッコいい作品。
原色の黄色のアトリエ、真っ赤なトイレットルームに園監督がイメージの源泉として挙げられていた「時計じかけのオレンジ」のような奇抜でオシャレなメイクやファッション。この舞台装置で冨手麻妙さんがダイナマイトボディを揺らし跳ねながら絶叫する。筒井真理子さんがものすごい艶っぽい裸体をさらして従順な秘書からベテラン女優に豹変してドスの効いた声で罵倒する。
以下ネタバレになるのでご留意願いたいのですが、この作品で冨手麻妙さんと筒井真理子さんはほぼ同じセリフを吐きます。観客としてはWパンチを食らったかのように効くんですね。そしてなぜか心地よいのです。
以下記憶ベースなので正確ではないかもしれませんがこんなようなセリフを。
 
私を閉じ込めているすべての忌まわしいくそみたいな自由を
くそみたいな下水に流してやるわ。
この国の表現の自由などという使えないやつをくその中にぶち込んでやる。
この国の女はみんな自由に苦しめられている。
この国の自由に騙されて、表現の自由を謳歌していることになっているけど、誰一人として自由を使いこなしてなんかいないわ。
この国の女は誰一人として自由を使いこなしていないのよ。
自由に傅いて、自由の奴隷になって、自由に振り回されて、自由になったふりをしなくてはいけないの。くそみてーな自由を味わって!お前は売女か!
 
そして冨手麻妙さんに上から大量にぶっかけられる鮮やかな色の絵の具。これが混じり合ってくそみたいな色になって、まさに大量のくそにまみれて、「出口はどこ?」とのたうち回ってエンディングを迎えるのです。
 
原色のきれいな部屋が糞まみれになってしまうのですが、ものすごくフェイク。糞といっても臭いがないくそは反吐を催させることは決してないから。筒井真理子さんを犯す人もフェイク。ペニスを付けた女性だから。家族もフェイク。ちんぽを持ち込まないから。現実だってフェイク。映画の撮影や舞台のように場面転換できるから。
そしてアンチポルノというタイトルが示すようにこの映画見ても、欲情は全く刺激されません。裸や性行為の映像はふんだんなのに欲情から最も遠いところにあるフェイクポルノ。
で残ったのは何かといえば、冨手麻妙さんと筒井真理子さんの存在感ってことなのでしょう。疑うのなら大スクリーンで見てください。何度でも見たくなりますから。
 
ちなみにエリイさんの口癖は「くそ」ということで園監督に伝染ってこの映画では「くそ」というセリフが頻繁に登場したとのこと。
確かに引用したセリフもくそがいっぱいだし、その他にも、この国の男がくそとか、この国の男が作ってきた自由がくそとか、この国の男が夢見る世界がくそとか、痺れるくそが満載。
 
蛇足ながら、「アンチポルノ」というタイトルにかけて、反☓☓を教えてくださいという司会者の質問に、2012年からUSAに入国できないエリイさんが「反壁」と言っていたのが印象的でした。メキシコ国境に作った作品のことにも言及してましたね。
 
 
もうひとつ補足。この後の「『一条さゆり 濡れた欲情』上映&トーク」では、冨手麻妙さんと井端珠里さんのいろんな話を伺えてすごく楽しかったのですが、旧日活ロマンポルノ作品で、冨手さんは「ピンクのカーテン」、井端さんは「赤い髪の女」を20歳頃に見ていたとのこと。やはりいい女優さんはポルノ映画というレッテルに惑わされずにズバッと入っていくなぁと感動しました。これからもこのお二人には注目です。