近藤さんのことは全く知りませんでしたが、会社に近いのでヴァニラ画廊にはたまに寄っていて、たまたま近藤さんの展覧会のタイトルに惹かれ、その勢いで会田誠さんとの酒飲みトークセッションにも参加。トークセッションでは、我々にもワイン、日本酒等の他、おつまみとして近藤さん手作りの野菜の炊合せをいただきました。筍、人参、隠元、大根が昆布のうまみでしっかりと味が滲み込んでとても美味。ごちそうさまでした。ということでトークの中身は酔ってほとんどうろ覚えなのですが、近藤さんのタトゥは18歳のときに入れたこと、丑年なので梵字の丑を入れたこと、肩の見事な牡丹は自分の要望でなく彫り師さんの意向とかいうことだけが妙にはっきり頭に残ってます。
 
近藤さんは、広島から上京時は渋谷でマンバをやっていて、その後キャバクラ嬢に。その時のお客である社長のちょっと怪しい会社で軟禁状態で絵を描く業務に従事、その会社が倒産して開放されるとともに、手さぐりでアーティストの道へ踏み込み、今に至る・・・・。表現力がなくてこういうまとめではあまり伝わらないのですが、会場で「人生曼荼羅細見双六図」(2016 415 x 330mm)を丁寧に読んでみてください。近藤さんの詳細なキャリアがわかってすごく面白いですよ。
 
近藤さんの作品は、オリジナルをパロっているというかオマージュみたいなものがあるのですが、大好きですね。絵もビビッドでステキ。例えば黒田清輝「智・感・情」から「血・天・井」、バルテュス「夢見るテレーズ」から「巨匠をよろこばす股を冷やす」、マルセル・デュシャン「泉」から「泉」、狩野一信「五百羅漢図」から「萬婆羅漢図」と「歌舞伎羅漢図」。耳なし芳一を「新 Tale of the Heike ~すぐに使える英会話~」にというのも。
オリジナルを知っていると面白さ倍増で、会場にいた人が羅漢さんがキャバ嬢ににやけている「歌舞伎羅漢図」を見て「これは一信の五百羅漢図の第何幅がオリジナルでここに山下裕二さんがいたり・・・」などと連れの人に解説していましたが、そういうふうにいろいろ語りたくなるんですね。
ここでハッと気づいたのは、ああ近藤さんの「媚ビ術」に嵌った!と。美術関係者はもちろん美術通といわれるようなひとのスノビッシュな性感帯をぐりぐり刺激してまさに媚びだと。
そういえば「媚ビ術」について近藤さんはこう言ってました。
 
「媚び術研究---侘び、寂び、媚び---23歳の頃、お前は媚びないからダメなんだ、と上司に言われた。一瞬、媚びてみようかと思った。でもやめた。そして、絵描きになろうと思った。それでも、制作を続けているうちに、ふと気付いた。結局、目を背けた社会とも、どうしようもなく繋がっていることに。媚びたことのない人なんか、一人もいないんじゃないか。媚びないと言われた私が、絵で媚びるとはどういうことだろう、と考えた。
巨匠に媚びる。海外に媚びる。
お偉いさんに媚びる。未来に媚びる。
私の絵が「媚び術」で「古美術」になる。
身も蓋もない「未来の古美術」になる。
かつて千利休がそうしようとしたように。
そんな事を密かに目指しているのです。」
 
でもこの鑑賞者に媚びる作品って気持ちがいいんですね。気持ちがいいけどその内そこにあまり見たくない自分に対峙させられるという怖さもあるんです。
 
今回の展覧会ではメイン会場には美術作品が並んでいるのですが、もう一室ではスケッチブック等に書きまくったマンガや日記がいっぱい展示してあって、これがすこぶる面白いんです。絶対に笑えます。会場は小さいですがぜひ時間を確保してじっくりこれを見ることをオススメします。媚ビ術に嵌まって抜け出せなくなるかも。
 
【開催情報】
近藤智美展 媚び術研究
1月23日(月)~2月4日(土)
@銀座ヴァニラ画廊
平日    12 時~ 19 時    土・日・祝    12 時~ 17 時