(左) 旭日雄鶏図 1幅 伊藤若冲筆 絹本着色 縦109.2 横48.5cm 江戸時代 18世紀 
   エツコ&ジョー・プライスコレクション
(右) 鷲図 1幅 伊藤若冲筆 絹本墨画 縦102.0 横41.0cm 江戸時代 寛政10年(1798)
   エツコ&ジョー・プライスコレクション

2016年11月8日、「禅―心をかたちに―」の夜間特別内覧に参加させていただきましたので、レポートします。

なお、掲載の写真は「美術館より特別に撮影の許可を頂いた」ものです。

 

本展はこの日より後期展示。若冲作品は、前期では「旧海宝寺障壁画のうち群鶏図」が出展されていましたが、急遽後期より上記プライス夫妻コレクションから上記2作品。若冲さんは臨済宗・黄檗宗の禅に厚く帰依したとのことから、登板となったようです。

 

ところで「禅宗」とは無縁の生活をおくっていて、美術について初心者の私が何か付加価値のあるレポートができるものではないので、自分なりのトピックスにフォーカスして本展の魅力の一端をお伝えできればと思います。

 

まずは「白隠さんを軸に広げてみる!」こと。

本展はサブタイトルが「臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念」。日本における臨済宗を民衆に広め中興の祖といわれる白隠さんにフォーカスして展開してみるのがいいかもしれません。

 

達磨像 白隠慧鶴 江戸時代18世紀 大分・萬壽寺

右 達磨像 白隠慧鶴 明和四年(1767年) 静岡・清見寺

 

白隠慧鶴の達磨像。上記の作品は、本展のメインビジュアルに使われていて、代表作ともいえるものでしょう。のびやかで力強い筆致で一気に描いた達磨さんにはうまく描こうとか余計なものが一切削ぎ落とされてぎょろっとした目の達磨さんの気持ちだけがじんわりと伝わてきます。

ここに書かれている讃は「直指人心 見性成仏」。本展ではいろんな讃に出会えますが、最もぐっときました。

解説は「臨黄ネット」から引用しておきます。

http://www.rinnou.net/cont_04/zengo/060501.html

「直指」とは、直ちに指すこと。文字、言葉などの他の方法によらず、直接的に指し示すことをいいます。「人心」とは、感情的な「心」ではなく、自分の心の奥底に存在する、仏になる可能性ともいうべき本心・本性・仏心・仏性といわれるものです。ですから「直指人心」とは、自分の奥底に秘在する心を凝視して、本当の自分、すなわち仏心、仏性を直接端的にしっかり把握することをいうわけです。
 「見性」の見とは、ただ物を対象的に見るのではなく、対象そのものになり切る、一体、一枚になることです。性とは、直指人心、すなわち、仏心仏性を意味します。「成仏」とは、世間でいわれるように死ぬことではありません。仏陀(覚者)になること、覚った人間になることです。「見性成仏」は、すなわち、自分の奥底に存在する仏心仏性になり切って、真実の人間になることです。
 私たちは、何か求めるというと、他にいろいろと求めてウロウロしますが、禅は直接、自分の心に問いかけて、自分の本当の姿、仏心仏性を看て取れというわけです。言いかえれば、「直指人心、見性成仏」以外に、禅の悟りに至る道はないというのです。
 文字も、言葉も、経験も、祖師も、坐禅も、すべて覚者になるためには不必要だ! 自分の心に向かって究める以外に法はない、と断言しているのです。

 

左 慧可断臂図 白隠慧鶴 江戸時代 18世紀 大分・見星寺

 

白隠さんの慧可断臂図ですね。本展ではかの有名な雪舟等楊の国宝「慧可断臂図」も見ることができます。

慧可断臂図 雪舟等楊 明応五年(1496年) 愛知・齊年寺

 

雪舟の慧可断臂図は想像以上に大きくて迫力ありました。やはり現物を見ないとダメですね。縦183.8cm横112.8cmです。

 

さて内覧会にいらっしゃった龍雲寺のご住職・細川晋輔さんは、本展の公式サイトの「禅がZENZENわからない人のための部屋」でQに答えるかたちでいろいろなことを教えてくれてます。 http://zen.exhn.jp/zenzen/index.html

その中から慧可断臂図について言及されている箇所がすばらしいので引用します。

細川:雪舟(せっしゅう)の「慧可断臂図(えかだんぴず)」は僕が禅の道場に入門した22歳のときに現物を見たこともあって、初心を忘れずにいなければ、と身が引き締まりますね。
この画は禅宗の祖である達磨(だるま)さんに弟子入りをしたいと申し出たお坊さんの慧可(えか)が、その決意を表わすために自らの左手を切り落として差し出している場面です。

細川:今回の「禅展」で見られる作品は美術的な優劣を競っているわけではなくて、みんなを幸せにしたくて誰もが腰を上げ、筆をとられたものっていうのがいいんですよねえ。白隠さんが描かれた「慧可断臂図」は、雪舟バージョンとのビフォアアフターになっていて、慧可が腕を切り落とす前を描いています。上にある文章は、「肘(ひじ)を切るなんて、せっかく親からもらった体にもったいないことをして」って書かれているんですけど、これも白隠さんの優しさとういうか、「なんで肘断っちゃったんだろうねえ」っていう風に終わっているのがおもしろいんですよね。

 

白隠さんの慧可断臂図は今にも腕を切り落とそうとする緊張感ある絵に対して、腕なんか切らなくてもなぁみたいな力みが抜けた感じが何か大事なことを言い表しているようでとても気に入りました。

 

左:円相図 白隠慧鶴 江戸時代 18世紀 東京・永青文庫

 

白隠さんの円相図。円相は禅僧が弟子を指導するために用いたもので悟りの象徴として描かれたりしたそうです。面白いのはこの絵の讃。「遠州浜松よい茶の出処、むすめやりたや、いよ茶をつみに」。茶摘みに娘を手伝いにいかせようかって意味だと思いますが悟りとどう結びつくのかさっぱりわかりません。

 

円相図としては本展では沢庵宗彭のものを見ることができます。これは画工にきっちり引かせた完全な円に沢庵さんが点を打ったもの。深くてわかりませんが、こういうなんでもありっていう感じがいいですね。

左: 円相図 沢庵宗彭筆自賛 正保二年(1645年) 大坂・南宗寺

 

本展は、でっかい絵(屏風・障壁画)がいっぱいあるのでそのめったに体感しえない絵の大きさに浸るっていう楽しみ方もあります。本展第五章「禅文化の広がり」の最終コーナーにまとめて展示してあります。

 

後期では主たるもので6点ありますが、展示されている部分だけでの幅の広さによってカウントダウンしてみます。ちなみに全て重要文化財です。

 

まず第6位。460.8cm。

「萬福寺東方丈障壁画のうち 五百羅漢図」(池大雅筆    8幅    江戸時代・明和9年(1772)頃    京都・萬福寺)。

展示されているのは4幅。本来8幅なので9mあまりあります。

 

第5位。572cm。

「天授庵方丈障壁画のうち 祖師図」( 長谷川等伯筆  16面のうち8面  安土桃山時代・慶長7年(1602)  京都・天授庵)

展示されているのは4面、本来は16面あるので23m弱の大作です。

 

第4位。565.2cm。

「南禅寺本坊小方丈障壁画のうち 群虎図」(狩野探幽筆   17面のうち8面   江戸時代・17世紀   京都・南禅寺)

これも展示は4面だけなので実際は17面あり幅24mでこの中では最大。

 

第3位。720cm。

「龍虎図屛風」(狩野山楽筆   6曲1双   安土桃山〜江戸時代・17世紀   京都・妙心寺)

 

第2位。723.6cm。

「竹林猿猴図屛風」(長谷川等伯筆   6曲1双   安土桃山時代・16世紀   京都・相国寺)

 

第1位。954cm。

「大仙院方丈障壁画のうち 四季花鳥図」(狩野元信筆   8幅   室町時代・永正10年(1513)   京都・大仙院)

 

 

やはり狩野元信いいですね。こういう時間と空間をまるごと捉えてこれほどの大きさで描ききる感じがすごい!

 

ということで、盛り沢山な本展ですが、切り口を決めてそれから広げてみるっていうのがいいかもしれません。「国宝・重要文化財」特化とか「怖い禅師ベスト10」とかまだまだいっぱい切り口はあります。1回では消化しきれませんので2度3度行ってみる価値はあると思います。

禅トークや写禅語といったイベントも開催してますので参加してみるのもいいかもしれません。

11月27日(日)までなのでぜひお早めに!

 

【開催概要】

会  期    2016年10月18日(火) ~11月27日(日)
会  場    東京国立博物館 平成館(上野公園)
開館時間    9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜日および10月22日(土)、11月3日(木・祝)、5日(土)は20:00まで開館)
休館日    月曜日
観覧料金    一般1600円(1400円/1300円)、大学生1200円(1000円/900円)、高校生900円(700円/600円)
中学生以下無料