…好き…だよ。


伝えられればどんなに楽だろう
でも俺は決めたんだ
この場所で、此処から


貴方だけを見つめていると…











『なあ、飯に行かないか?』

その言葉に何の躊躇いも無く頷き
二人連れ立った居酒屋で
美味しいお酒と、美味い料理を前にして
仕事の話とたわいも無い会話で盛り上がり
気付けば夜も深くなっていた




『…そろそろ』
『ぅあ、…もうそんな時間か』

時間を忘れるくらいに楽しかった宴も終わり
慌てて取り出した財布は仕事をする事無く
また自分のポケットに収まる


『ご馳走様でした、…っ、』
『ふっ、…まあな』

頭を下げた俺の髪のくしゃっとした感覚に
顔を上げた先に見たのは照れ笑いの顔


『相変わらず律儀だね、お前は』

俺にはいいのに、…と貴方は言う
教えたのは貴方でしょ?…と俺が言う


『……まあな』

先輩、後輩としての事だけじゃ無く
人としての礼儀や感謝の気持ち
僅かな接点でも繋がった人への心配りと
社会人として数え切れないほどの事を
貴方は教えてくれた、それは俺の宝物


『…ぱっとしねえな』

その声に惹かれ顔を向けて息を飲む


 …綺麗。

夜空を見上げる横顔の頬から項に掛けて
ほんのりと赤みを帯びた白い肌に
思わず手を伸ばしてしまいそうになる

それで無くとも二人並んで歩く道すがら
ほろ酔い気味の貴方と時折触れる指先を
掴まえそうになっていたのに


『夜空も、…俺も』

空を見上げたまま漏れ聞こえた呟きに
胸の奥がぎゅっと縮んで痛む
潤んだ瞳は何を思い、誰を想うのか
違う想いほど余計につらいのだと
俺には良く分かるから


『……な?、ははっ…』

胸の内では泣いているのに
力無くそれでも無理に微笑む貴方を
抱きしめたい、奪ってしまいたいと
募る想いは泣きたいくらい愛しい
俺の想い人


『大丈夫だよ、…きっと』

今も、この先も俺は
貴方のことを此処から見つめているから


『お前は、…それでいいのか?』
『……え、…』

いつの間にか強い眼差しに捉えられ
絡んだ視線を外すことが出来ない


『俺は…お前を…、気づけよ、潤』
『…翔……さん…?』








あの夜から
俺の見つめる先には必ず貴方が居る
ただ見つめていただけの眼差しは
想いを乗せ貴方へと注がれる

…そして、
想いを受け取り柔らかく微笑む貴方





『…好きだよ』
『……ん…』

腕の中、身動ぐ体を抱き寄せ目を閉じた
誰よりも瞳綺麗な恋人



《想い人 J×S 終》





2024.5.2  KAKO