あとがき・・・


 「経営者って簡単じゃないよな」
23歳で起業した時、そう思いました。これに対して、自分なりに出した答えは、「早くおじいちゃんの心をもてるようになろう」ということでした。他の人が寝たり、遊んだりしている間も、自分は働けばいいんだと。内面的に早く年をとろうと……。

 夢っていったい、何でしょう?
 僕は工業高校卒です。成績は下から数えた方が早かったし、仲間内でリーダー的な存在だったわけでもなければ、人より抜きん出た才能があるわけでもない、ごく平凡な学生でした。万引きして親が学校に呼び出されたり、カンニングがばれて停学になったりしたことはしましたが、不良だったわけでもありません。
 高校を卒業してからの就職先は、工場の作業員やトラック運転手といった力仕事。そんな僕でも23歳の時に起業することができました。あれから10年、会社は起業した時とは比べものにならないくらいに大きくなっています。
 これは夢のような話なのでしょうか。
 報道によると、新卒の就職活動がバブル期以来の売り手市場と言われています。しかし、これは大卒の人を中心とする話。一方で、ニートやフリーターといった若手失業者は約400万人もいるそうです。
「現代は夢や希望が持てない時代だ」という言葉をよく耳にしますが、夢や希望を持つこと、口にすることがタブー視される風潮がある気がします。
「そんな夢みたいなこと言って……もっと現実を見たら?」
 こんなセリフが返ってくるイメージがあるのは僕だけでしょうか。
 
「やりたいことが見つからない」「この先どうなってしまうんだろう」「いつかは起業したいけど、そもそも何をしたらいいのか分からない」
 将来にこんな漠然とした不安を持っている人は、たくさんいると思います。現に僕も昔はそうでした。そして、今も……。「成功者」と言ってくれる人はいるけど、起業する前と同じ不安を今も変わらず持っています。
 
 自分自身では成功者だと決して思っていません。目の前にあることを妥協せずにやり、人との出会いを大切にしてきた結果――「当たり前のことを当たり前にやった」――ただ、それだけのことで僕はここまできています。
 おかげで今回、かねてより大ファンだった倉科遼先生に、このような素晴らしい物語を書いて頂けたことは、自分のしてきたことへの自信につながりました。
 なお、改めて断わっておきますが、本書は僕の半生をモデルに倉科遼先生によって構成された、あくまでもフィクションであり、実在する人物、団体、企業名、所在地とは一切無関係であることをご了承ください。
 
 しかし、この物語の根底にある想いは同じです。凡人でも起業はできる。挑戦する前から無理だと諦めずに、何であっても興味があったらまず行動してみてください。行動する前に諦める人が多すぎる気がします。実行した人にしか成功のチャンスは与えられません。
 よくマスコミに登場するのは野心家で、自分の立てた目標に向かってアグレッシブに突き進むタイプ。でも、僕はそんなタイプではありません。明確な夢や目標がなくても絶対に成功できるはず。これが僕の持論です。現に明確な夢や目標がなかった僕でも、興味あることに行動を起こし、今では成功者と言ってくれる人もいるのです。
 学歴もコネもない僕にできることは、皆さんにもできると思っています。僕は本当に頭がよくないので、何が自分にできることで、何が自分にできないことなのかも判断できませんでした。僕自身に起きていることは、他の皆さんにも起きていることなのかとも思っていました。世の中をよく知らなかったので、そう感じていました。
 だから、何でも行動してみるしかなかった。酒が飲めないのにホストになって、その後、自分の店を持ちました。キャバクラの世界について、まったく知らないのにキャバクラの経営も始めました。
 一人では何もできません。デキの悪い僕を支えてくれる人たちのおかげで、今もこうして会社は続いています。失敗したり上手くいかなかったりすることは、成功したり向上したりするための通過点だと、いつも僕は考えています。
 自分一人ではできないことがたくさんあります。だからこそ、ほかの人の力、個性が必要になります。その人の個性を大切にすることができるから、その人に仕事を任せることもできます。その人に仕事を任せることができるから、自分一人ではできないことを会社ができるようになります。
 みんながいたから、会社は大きくなることができました。今日の一歩は思い描く未来へ必ず続いている。今踏み出す一歩が、明日のための一歩であると信じて歩き続けてきました。
 今回の出版のお話は、学歴もコネもない僕みたいな人間でも起業できたこと、誰にでもチャンスはあるということをみんなに知ってもらいたくて、お受けしました。特に、かつての僕のように、今の自分に悩んでいる人たちにそのことを伝えたくて……。
 本書を通して「自分も頑張ろう」「輝咲なんかに負けてられるか」、そんな風に思ってもらえたら幸いです。
 
 輝咲 翔