谷川俊太郎『別れの詩集』(3) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎『別れの詩集』(3)(「谷川俊太郎 お別れの会」事務局、2025年05月12日発行)

 「ねむるまえ」。「つきへいってみた/つきはしずかすぎて たいくつだった」と書いたあとの二連目。

そこでおとこは まちののみやへいった
おとついけんかした ともだちがいたので
さけをおごって なかなおりして
いっしょにてんごくへ いってみた
てんごくは ひどくこみあっていて
ともだちと はぐれてしまった
おとこはあくびをひとつして ねむりこんだ

 「てんごく」ということばがあるから、『別れの詩集』に収録されているのだろうが、こういう編集はあまり楽しくないなあ。死と無関係な作品があってもいいんじゃないかなあ。
 私はすでにどこかで書いたが、

空を越えて ららら 星の彼方 
行くぞ 俊太郎 ことばのかぎり

こころやさし ららら 詩歌の子
十万 言語だ 谷川俊太郎

 というような「替え歌」をみんなで歌い、「いつまでも元気でね」とお別れしたかったなあ。
 脱線したが。
 この詩は「てんごくは ひどくこみあっていて」は、いいなあ。笑ってしまうなあ。地獄だって、とても込み合っていると思う。
 死んだら何もなくなると私は思っている。天国へも地獄へも行かないだろう。消えるだけだろう。もし、死んだあと天国や地獄や(ダンテが書いているように煉獄へも)、ひとが行くなら(あるいは魂が行くなら)、そりゃあ超満員だね。こんなにひとだらけでは生きていけない、早く死んでくれ、とだれかは言うかもしれない。私は人込みが苦手だから、もし天国や地獄へ行かなければならないのだとしたら、それこそ死ぬよりつらい気持ちになるかもしれない。

 「この人はもう」にも「死」ということばが出てくる。「この人はもう死んだのか嘘みたい」と書き始められ、

この人が朗らかに笑っていた姿をもちろんぼくは覚えている
そのときの腕の振りかたや
おでこのしわの
思い出

けれど死んではいないのに返事をしなかったあの時のこの人と
草ぼうぼうの庭は
思い出ではないから
今でもぼくはこの人が何か言ってくれるのを待っている

 「思い出ではないから」が、とてもいい。
 私は谷川俊太郎と何回か会ったことがある。それはもちろん(と、ここで谷川のまねをしてみる)、思い出ではない。いま読み返している、この谷川の詩も、思い出ではない。




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