51 朝の海
一連目で「朝の海」を「雄大に美しく輝きわたっている」と描写したあとの二連目。
ここで立停ろう、眼に映るのは真の自然であって、
(立停った一瞬には本当にそうだった)
常にわたしが見ている幻影、記憶の中にいつもある
悦楽の偶像ではないのだと思ってみよう。
「立停ろう」と「立停った」の対比、あるいは呼応というのだろうか、これがおもしろい。同じ音が繰り返される。
この「立停ろう」は一連目の書き出しにも書かれている。つまり二連目は、いまはやりのことばで言えばメタ風景である。
ことばがことばについて言及するとき、どうしてもずれが生まれる。「立停まろう」「立停ろう」「立停った」と動くとき、そこには「時差」も入ってくる。そこが、とても刺戟的だ。
その「ずれ」は「現実」と「記憶」の差異のようにも思える。
一連目には書かれていないのだが、二連目最終行の「悦楽の偶像」を手がかりにすれば、その海には誰かが歩いていた(あるいは泳いでいた)かもしれない。その肉体(裸)はやはり「美しく輝きわたっている」だろう。あるいは、そういう肉体を見た記憶が、一瞬、蘇ってきたということかもしれない。
そのために立ち停まった。
あれは「真の自然だった」と思い返すのだ。海、空、陸を従える「自然」の核心だったと思い返しているのかもしれない。
池澤の註釈。
珍しくカヴァフヘスが自然を扱っていると思うと、それが第二聯で見事にひっくりかえされる。彼はいかに美しい自然をも一瞬しか見得ない官能の幻視者である。
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