本物の狩りの話。








急ブレーキを強く踏んだ。

小柄な鳩とおぼしき鳥が、間抜けにも、いきなり車の前にフワンと降り立ったからだ。

埃っぽい田舎道。

あ、びっくりした!


と、隣にフワリともう1羽、カラスが降りてきた。狭い道幅に、小鳩とカラス。

仲良く並んでこちらを見ている。


カラスはぴょんぴょんとホップステップ、鳩に直角に並び、いきなりバクンと大きな口を開け、鳩の首に噛みついた。

あっ!


カラスはそのままブンブンと頭を振り回す。

羽をパーに開いた鳩は、されるがまま。

咥えた箇所から、鳩の長い首が「くの字」に折れた。

絶命したようだ。


カラスはパッと獲物を咥えなおし、サッと道路わきの民家の屋根に飛び上がる。

もう路上になにもいないが、私は胸がドキドキ、アクセルが踏めない。


屋根の上のカラスは、念のため、もういちどブンと頭を振った。

物理の法則に従って、鳩だった肉の塊は、円弧を描いた。


さて、獲物は大きい。

これをどう運ぼう。

さぞ持ち重りがするのだろう。

さりとて、そのへんに置いておいたら同業者(?)に取られてしまう。

カラスは何度か咥えたり降ろしたりして思案し、時々車の中の私を睨む。

盗りゃしませんよ。


やがて意を決したように飛び始めた。重いのだろう、低空飛行だ。しかもトロい。

無事に巣まで持ち帰れたら、今日はカラスのうちはたいへんなご馳走だ。

ニンゲンの生ゴミなんかを漁るより、よほどいい。


子ガラスは、栄養をうんとつけて、強く賢く育つだろう。

きみの親御さんはとても立派なカラス。


小柄な鳩の両親は、帰ってこない子鳩を探すだろうか。

それとも、弱肉強食の世界ではそんなことは日常茶飯事、

すぐに忘れてしまうだろうか。