仲間3人と海外旅行に行った、それは確か、バルセロナのバールでのこと。

 酒の勢いと異国の地での高揚や夕暮れの弛緩する時間の中で、映画の話をしようよ」と語り合うことにした。「これまで観た映画で一番印象に残っているのは?」がテーマに上がった。私は、ためらいなく「ミスターロバーツ」と答えた。その途端だった。旅の友の握手を求める腕が伸びてきた。「おぉ、お前もそうなのか!」その友の共感の熱量は普通ではなかった。映画のシーンの一々を語り始めては、魅入られた若い日の思い出を語り始め止まらない。そして再びの握手を強く握ってきた。

 帰国して、その旅の友と「ロバーツ会」と称しては、酒席を共にした。そこで分かったことは、感激のポイントが旅友と微妙に違うことだった。ジャックレモンの演技と魅力を「アパートの鍵貸します」の名演とともに語る友に対して、私は一も二もなくヘンリーフオンダ推し。

「荒野の決闘」から「12人の怒れる男」にいたる立ち姿の美しさに語りつくせないほどの魅力を語るのだった。

 後日、ロバーツ会の友から電話があった。「テレビで『ミスターロバーツ』が放映されるよ」との親切な連絡だった。もちろん、そのテレビは観た。そして、さらに後日、旅友とのロバーツ会で酒を飲んだ。「観たかい?」、「おぉ、もちろん」。答えたものの、お互いにそれ以上の感想が出てこなかった。「どうだった?」と忍び声で聞いてきたが「まぁな」と答えるのが精いっぱい。相手も同感だったのか、それ以上に言葉が出てこなかった。人生一番の印象をのこした映画も、それは、「あの時、あの日」限定のもので、再現は出来ないもの。もう一度、感激に浸りたいとおもっても、それは無理ということなのだろう。「昔の感激は封印しておくに限る」、ということなのか、きっと。