前回の「クリティカル・ゾーン」は私の造語ですが、この【拘束】（Restraint）という概念は『咬合治療マニュアル』（Norman R. Arnold他）という本で知りました。

以前ご紹介したこのイラストが載っている本が、実はそれです。

ネットや本のどこを見ても、噛み合わせの説明で「拘束」という言葉を使っている歯科医の先生は他にいないのですが（私がたまたま知らないだけかもしれませんが）、これは非常に重要な概念だと思います。

拘束とは、このような状態です。

咬頭が、窩（か）にガッチリとハマっています。（用語については前回の記事を参照）

ピンクの部分では垂直方向に力が加わっていますが、青い部分では斜め方向に力が加わり、歯に《側方圧》が生じます。

さんざん書いてきましたが、側方圧は歯にとって諸悪の根源、極力無くすべきものです。それが青い部分で生じてしまうのです。

もっとも、これはかなり極端な例で、実際にこんな風だとまともに食事もできないと思います。

私の場合はこんな↓感じです。

まず、歯というのは毎回ピッタリと同じところで「着地」するわけではありません。多少のズレがあります。

上の図で、下の歯が実線の所で着地すれば垂直方向の力しか生じませんが、点線の所で着地すると青い部分で斜めに力が加わります。これも「拘束」です（私の解釈では、ですが…）。

私は今もときどき歯を削って微調整していますが、7割くらいはこういう拘束の修正をしています。

私はもともと左の歯が全く噛み合っておらず、右でだけ噛んでいたので、矯正する以前は、顎が右前方に2～3ミリずれてました。自分では気づかなかったのですが、後になって写真を見るとずれているのがわかります。

そして、ずれたままで矯正治療が終わりました。

その後自分で削るようになって、どんどん顎が本来の自然な位置に戻ってきているのです。

だから、上下の歯の位置関係が微妙に変わり、着地点も変わるので、どんどん拘束が発生するわけです（分かりますでしょうか…）。

理想はこういう形です。（※イメージを誇張して描いてます）

上の歯にある程度の平坦な部分があり、着地点が多少ずれても、垂直方向の力しか生じません。

いわゆる「アソビ」があるわけです。（『咬合治療マニュアル』では「自由域」という言葉で表現しています。）

このような理想形に近づけるには、やることは二つ。

① 窩を広げてやる。ある程度の広さを持った水平な着地点を作るイメージです。

② 咬頭の先をより鋭角にする。垂直方向に当たる頂点だけを残し、そこ以外では当たらないようにするイメージです。

※どちらの図もあくまでも「完成イメージ」です。一度の作業でこんなに大量に削ったりはしません。
こういう形をイメージとして持ちながら、ピンポイントでほんのちょっとずつ削っていくだけです。

それに、噛み合わせがほぼ治った今の私の歯が、実際にこのイメージ通りになっているかどうかも分かりません（取り外してじっくり観察できないので）。
多分なっていないと思います。それで別に構わない訳です。噛み合わせのつらい症状が消えればそれでいいんですから。
とにかく大事なのは、「クリティカル・ゾーンを削る時は、こういう完成イメージを持ちながら作業する」ということです。