7月5日、新宿末広亭で中入り後、神田松之丞の講談・小間物屋政談を聞いて、心震える感動を覚えたが、そのわずか10日後、大阪の一心寺南会所ホールで、それを『さらに超える体験』をした。満席。


春野恵子の浪曲・樽屋おせんに、圧倒された。


松之丞の講談は臨機応変な語り口で、とても現代的なドラマを作り上げ、大衆を興奮の中に投げ入れるが、春野恵子は、それ以上だ。


樽屋おせんは、大店の御寮んさんに嫉妬され、夫から浮気を疑われ、大店の旦那と逃げてゆく話。


この大店の御寮んさんが嫉妬するシーンの感情の揺れの激しいことったら❗️目はむくは、口はゆがめるは、腹の底からおせんを罵倒して、ニヒルに笑う。それもすべて品の良い表情で❗️


春野恵子の語りの部分、啖呵とよぶが、では、各人になりきり、声もなりきった声で、一人演劇のように、芝居を変えていく。基本、浪曲はそういうものだが。つまり、超一流の声優が何人か集まって、ドキュメントを演じているように見えて、それが何と一人で演じている凄さったら❗️ザ・一人芝居。


語りのリアリズムと、迫真の表情演技を駆使し、その頂点では、鬼気迫る勢いで、感情を高まらせるのだ。 

これこそ、現代的なドラマそのものと言える。浪曲というジャンルを超えて。


ほぼ松之丞が、快調なテンポでドラマを盛り上げ、現代的な語りの世界をこしらえるのに近い。


現代的な講談と、現代的な啖呵で酔わせる浪曲の世界。


で、春野恵子の浪曲には、そこにプラス、浪曲アリアと言える節が加わるのだ。いわゆる、歌。

数年前まで、彼女の節には、時たま、音程のズレがはさまって聞きづらいこともあったが、今や、歌い慣れたのだろう、声に余裕がでて、安心して聞き惚れるレベルに向上した。


大阪の漫才落語講談浪曲を見渡して、いま現在、一番ハイクオリティで、感動を呼ぶ芸人は、春野恵子だと私は信じている。マジです。本当です。


とにかく、こんな素晴らしい芸が、すぐ近く、大阪に生まれているのだから、皆んなに見てほしい。知ってほしい。

浪曲・樽屋おせんに関しては、もう成熟に近づいている。

もう、春野恵子を追いかけるしか、ないぞ。


春野恵子の師匠は、春野百合子。人間ドラマを浪曲で作り出した師匠に憧れ、大阪へ。頭を丸坊主に刈って、本気をアピールし、入門を許された。

春野百合子は、西鶴近松の悲恋ストーリーものの新作浪曲を創造して、浪曲に恋物語ジャンルを確立した偉大な人。


師匠の偉大さを強調しながら、百合子と恵子の、樽屋おせんの浪曲を比べると、啖呵の違いにすぐ気づく。 

百合子の啖呵は、新派調で、恵子の啖呵は、現代演劇タッチ。


まだ恵子の芸歴は短い、と分かりつつ、樽屋おせんに関しては、もう百合子の世界をこえて、恵子独自の浪曲をこしらえあげた。と断言できる。


百合子が作った悲恋ものは、映画なら、溝口健二が川口松太郎、依田義賢と組み、近松秋成ものを確立した実績と同じと言えるほど、偉大な功績である。


ほかの出演者

⚫︎京山幸乃、寛永三馬術大井川乗り切り。澄んだ声でよく響き、節が心地よい。

⚫︎天光軒満月、菊池寛・父帰る。

⚫︎真山一郎、歌謡浪曲・俵星玄蕃。

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