何にしても初体験というものは、一握りの些細な達成感と、山盛りの後悔の念と、そして隠し味程度の捲土重来の消極的な気概とが入り混じった心持になるものである。某ファッション系業界紙を退職して丁度、10日が過ぎた。フリーランスとしての初仕事が、このブログである。書き終わった後、冒頭の文章に書いた心持になっているかも知れない。新たな自己表現の場として、ファッション業界の様々な時事ネタを書いていければと考えている。最初のうちは、「あんな事を書かなければ良かった」と後悔しきりの日々が続くだろうと予測しつつ。


 さて、2008年9月に発生したリーマンショック(日本だけの呼称だが)後は、政府と大手マスコミの“官製不況”も後押しし、日本国内の消費が大きく冷え込んでしまった。お金は持っているのだが、将来の不安が大きいため、消費を差し控えている状態が続き、現在もその傾向は変わっていない。その副産物として物価の下落が加速し、日本市場はデフレーションの典型的な症状を呈している。ファッション業界も例外ではなく、ネットや雑誌などで紹介される読者モデルの選んだアパレルブランドに「ユニクロ」や「しまむら」が名を連ねる時代になってしまった。厳密には、「ユニクロ」や「しまむら」は“実用衣料”であるが、ファッションブランドとして認知されるようになった。このことは機会を改めて書きたいと思う。


 今回、話題にしたいのは上代(売り値)価格が徐々に下がってきたことである。販売力を背景にした強い発言力を持つ大手の小売店が納入メーカーに上代設定を下げた商品を卸すように要求し、その結果、大手アパレルメーカーは利益を削ってそれに応えざるを得なくなった。そのしわ寄せは、メーカーの下請け、専業メーカーやその工場に及び、日本の繊維産地は益々、疲弊の度合いを増していった。その間、大手マスコミは安い衣料品が登場したと言って、ファストファッションや“激安”と呼んで話題性はあるが質の悪い商品をもてはやし続けた。この2年間で、業界関係者がみんなこぞって、消耗戦を繰り広げていたわけである。目先の売り上げを意識するあまり、自らの首を絞めていたことになる。これは特に小売店の現場担当者がサラリーマン化して、前年の実績を何とか確保したいという心理が働くことが大きく影響しているように思われる。同情できる一面もある。安く売ることで確実に消費者の利益につながる。しかしそのことで、利益を圧迫しては元も子もない。


 しかしこの間、上代を極力維持し、高品質の商品を提供する良識ある業界関係企業も多く存在した(し、今も存在する)。努力を続ける小売店や専業メーカーも多数存在するが、いかんせん売上規模や社会に及ぼす影響力が小さい。マスメディアの前ではそのほとんどの情報が埋もれてしまい、ほとんど目立たない。市場原理だと言ってしまえば、それまでだが。


 したがって、フリーランスとしての当面の仕事の1つは、こうした過小評価されている“良質”の企業やブランドを掘り起こし、応援することである。小売店やアパレルメーカーでも、良識のある企業はたくさんある。しかし、「品質に優れた商品」を作ってさえいれば売れるという時代は過ぎ去ってしまった。良識のある企業であっても、“売れる”質の良い商品を作らなければならなくなった。これは考えようによれば、チャンスである。


 ただ安いだとか、日本初だとかという単純な切り口でファッション業界を取り上げることのないように、初回のブログで自戒したい。誤った時のため、先に言い訳しておくというわけではないが。今後、どんな間隔で書いていくかも決めていない。まあ、ぼちぼちの船出である。以後、お見知りおきを…