読者の皆様こんにちは。最近は真面目に本が読めていない雁木師でございます。今日は将棋ポエムの作品紹介です。それでは早速、作品を発表したいと思います。
「悪手」
その一手を
指したとき
僕は気づいた
これは駄目だと
でも駒は
手から離れた
戻ることは
できない
勝てるのに
まだ頑張れるのに
その一手を
僕は悔やむ
だけれども
諦められない
諦めない
諦めきれない
大事な将棋を
不意にした僕は
怒りを鎮めて
盤に向かう
今回の作品はいかがだったでしょうか。ここからは、作品と将棋用語の解説に入ります。
まずは作品の解説から。今回は将棋用語の1つ「悪手」を題材にして作品を作ってみました。「悪手」は読んで字のごとく、将棋における悪い手。その悪い手を指してしまった棋士の心情を読んでみたというのが今回のコンセプトです。
悪手と聞いて思い浮かぶのが、藤井聡太竜王名人が八冠独占達成を決めた王座戦五番勝負第4局。実際に対局中継をご覧になられた方はご存知かと思いますが、永瀬拓矢九段が最終盤で王手を間違えてしまったことで形勢が一気に逆転。チャンスをつかんだ藤井竜王名人が的確に永瀬玉を寄せきって、王座を手繰り寄せました。
このときの永瀬九段のしぐさもご記憶の方も多いかと思います。11/22(水)発売のNumber1085号の記事でも書かれていますが、自身の敗着に気づいた永瀬九段は「身をよじり、頭を掻きむしった」と表現されるほど、後悔の感情を前面に出されていました。いや、後悔というよりは私から見ると自分自身への怒りにも見えた気がします。
実は最後の文章
「大事な将棋を
不意にした僕は
怒りを鎮めて
盤に向かう」
は、あのときの永瀬九段のしぐさをイメージして書いてみました。大事な将棋は言うまでもなく、負ければ唯一持つタイトルを失うという状況の対局です。怒りを鎮めてはあのときのしぐさから再び盤に向き合うまでを表現したものです。特にこの第4局は前述したように、王手を間違えるまでは永瀬九段が勝勢というところまできていたので、前半の
「勝てるのに
まだ頑張れるのに」
という言葉にフィットすると個人的に思うのです。
さて、悪手を指してしまっても粘らないといけない状況というのはあると思います。それを込めた文章は
「だけれども
諦められない
諦めない
諦めきれない」
この文章をひらめいたポイントは、団体戦にありました。プロ棋士の団体戦と言えばABEMAトーナメントが浮かぶ方も多いと思います。また、後述しますが来年には地域対抗戦という新企画もスタートします。将棋に限らず、団体戦に参加されたことがある方は簡単に諦めることができないという状況に立たされたということもあるのではないでしょうか。
私も大学時代に、将棋サークルの団体戦に参加しました。絶体絶命の状況下で勝利をおさめ、チームのピンチを救った記憶は今も覚えています。ABEMAトーナメントだと、プロ棋士が普段見せない表情を見せることも多いです。普段は個人で戦う将棋界ですが、団体戦でチームの思いを背負って戦う姿に興奮と感動を覚えたことは数知れず。いつの時代も、チームで戦う姿というのは競技の枠を超えて燃えるものがありますね。
このように、たとえ悪手を指しても簡単に諦められないという状況では、粘りを発揮する棋士も多いです。
今回の作品は、口語自由詩に分類されます。用いた技法は特にありませんが、工夫としては諦めの「三段活用」で悪手を指しても粘らないといけない部分を強調しています。
※今回の参考文献はこちらから。
ここからは、初心者の方にもわかる将棋用語の解説です。今回は「手」にまつわる将棋用語を紹介していきたいと思います。前回の将棋ポエムでの近況でも軽く触れましたが、将棋には「手」にまつわる用語が多いです。代表的なものを触れていきたいと思います。
「好手」…形勢を良くする指し手。勝敗を決定づけるような手に用いられることが多い
「疑問手」…勝敗に直結するほどではないが、形勢を少し悪くする手
「悪手」…形勢が悪化するような指し手
「最善手」…局面において、手番側が最も良い形勢となる手
「妙手」…パッと思いつかないような手だが、非常に良い手
「軽手」…軽快で軽妙な好手。一方で「軽い手」「手が軽い」は相手にあまりダメージが与えられていない指し手を意味する
「勝負手」…形勢の悪い側が、相手に間違えてもらうことで形勢を良くしようとする手
「緩手」…最善を逃しており、それと比較すると狙いが中途半端で厳しさに欠けること
※参考文献はこちらから。
ただ、私の文章や文献の解説などを読んだだけでは手の意味などは分かりにくいかと思います。そこで、私の自戦譜をもとに解説していきたいと思います。先週の将棋倶楽部24の実戦からです。まずは問題の局面をご覧ください(後手番が私です)。
この局面の評価はソフトにかけて見ると互角。ただ、お互いに玉の堅さには自信がないと言えるでしょう。ここで手番は後手。私は☖2六角と王手をかけました。
私はこの手を勝負手と判断しましたが、ソフトの評価は先手優勢に。つまり、結論から言えば悪手だったのです。2八の飛車で角を取らなければ大丈夫です。実戦も☗3七歩と受けられてしまい、以下☖3五角と角を転回して攻め筋を変えることになります。もし、2八の飛車で角を取ってしまうと…。
なんと☖6八金で先手玉が詰んでしまいます。この場合、☗2六同飛が「頓死」「大ポカ」「大悪手」などと表現されてしまい、悪手のはずの☖2六角が「毒まんじゅう」と表現されていたでしょう。
将棋では、「好手と悪手は紙一重」という表現があります。最近はAIの進歩もあり、観る将の専門の方でも形勢の把握が分かりやすくなったという声を聞きます。しかし、それまではプロ棋士の解説がなければ形勢判断が分からないということもありました。それゆえか、一見好手に見えた手が実は悪手だったということや逆に疑問手がいい手と判定されることも多かったと聞きます。
AIによってプロの対局が分かりやすくなった一方で、自分で局面の評価を判断して選択する力が下がっていく危惧もあると言います。参考までに、元奨励会三段で現在はオンラインで将棋講師をされている石川泰さんが、ご自身のYouTubeチャンネルで上達を妨げる将棋ソフトの間違った使い方について解説されています。興味のある方、棋力向上を目指している方はぜひご視聴いただければと思います。
さて、今回の作品とあわせて読んでいただきたい作品がございます。以前、当ブログで発表させていただいた「評価値」という作品です。
「評価値」という作品が将棋を見ている人間の心情を表現したものなら、今回の「悪手」は評価値にかけられた棋士の対局の心情かもしれないと思います。最も、対局中の棋士は評価値など意識している余裕はありませんが…。
ぜひ、「評価値」と「悪手」の作品を読み比べていただいて将棋の世界を楽しんでいただけると嬉しいです。ご意見やご感想、リクエストなどもお待ちしています。
近況:「地域対抗戦」
来年のABEMA将棋チャンネルはこの企画からのスタートです。
「ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治」
日本将棋連盟100周年企画として、「地域を背負う」をコンセプトに開催される団体戦です。8つの地域ブロックごとに、「我こそはこの地域を背負いたい!」という棋士が「地域チーム」の監督として就任。監督となった棋士は、自身が率いるチームの棋士の中から4人の「大会出場登録棋士」を指名。監督を含めた5人の棋士で戦い抜きます。
所属する「地域チーム」はすべての棋士が所属地域を自ら選択する「地域エントリー制」を採用。自身の出身地や育った場所、すんでいる地域などから、自ら所属する地域チームを選択することが可能という仕組みです。
対局のルールはABEMAおなじみのフィッシャールール。今回も持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算で切れたら負け「AbemaTVルール」を採用しています。今回もスピーディーな展開が楽しめる内容です。それでは、今回の監督棋士をご紹介しましょう。
チーム北海道・東北…当時の史上最年少タイトル獲得で将棋界に新時代の扉をこじ開けた。かつては「忍者」とも「お化け」とも呼ばれる変幻自在の指し回し。現在は北海道研修会の幹事を務める。北海道札幌市出身、屋敷伸之九段。
チーム関東A…もはや説明不要の将棋界のレジェンド。タイトル獲得数99期は他の追随を許さない。今年の6月には日本将棋連盟の会長に就任も将棋への情熱は衰えず。埼玉県所沢市出身、羽生善治九段。
チーム関東B…初代永世竜王に輝き、永世棋王の称号も持つ「魔太郎」。羽生世代から藤井聡太まで幾多の猛者たちと対峙してきた立派な名棋士。復権をきっかけをこの大会で掴むか。東京都葛飾区出身、渡辺明九段。
チーム中部…今ではすっかり「師匠」のイメージ。しかし、振り飛車の進歩に貢献した実績は大きい。名古屋を拠点に普及を続け、ついに弟子は前人未到の頂へ。東海勢躍進の礎を築いた愛知県名古屋市出身、杉本昌隆八段。
チーム関西A…その対局姿、佇まい、そして高速の寄せ。観る者をうならせる美しい将棋は、時代を超えて愛される。関西将棋界の歴史はこの人抜きには語れない。兵庫県神戸市出身、谷川浩司十七世名人
チーム関西B…史上初の双子同時四段昇段。奨励会幹事時代は熱血漢で、多くの有望株を鍛えた。出身は神奈川県も、今では立派な関西の顔。有望な弟子も育っている。畠山鎮八段。
チーム中国・四国…その個性的な将棋で棋戦優勝は8回を数える。「ちょいワル」な局面も華麗にひっくり返す技は、多くのファンの度肝を抜く。監督となって、どんなチームを作りあげるか。広島県広島市出身、山崎隆之八段。
チーム九州…その男、決してあきらめない。かつては王位戦に強く、またの名を「地球代表」。弟子を思う熱い気持ちは、誰よりも強い。燃え上がる九州男児の意地を見せるか。長崎県佐世保市出身、深浦康市九段。
以上、監督棋士8名のご紹介でしたがいかがでしょうか。いかにも地域の特性が出ているのではないでしょうか。そして先日には地域エントリー棋士も発表。藤井聡太竜王名人はチーム中部へのエントリーが発表されました。
そのほかの棋士のエントリー状況はこちらからご確認ください。
それではここで、各地域の有力棋士を見ていきます。
チーム北海道・東北…登録棋士は15名。エース候補はやはり広瀬章人九段(北海道)。若手では岡部怜央四段(山形)が注目株。また、奨励会を経ないでプロ棋士になった小山怜央四段(岩手)も指名されるか注目です。
チーム関東A…登録棋士は25名。様々な年代に実力者が揃う布陣です。若手では佐々木勇気八段(埼玉)、中堅では阿久津主税八段(埼玉)、ベテランでは丸山忠久九段(千葉)、藤井猛九段(群馬)が有力か。羽生九段の指名に注目が集まります。
チーム関東B…登録棋士は48名。こちらも、若手からベテランまで層が厚い陣容です。指名確実は永瀬拓矢九段(神奈川)と伊藤匠七段(東京)。出身地別ではダントツに多い2県だけに、誰を選びたくなるか思わず迷ってしまいそうですが、渡辺九段の構想はいかに。
チーム中部…登録棋士は20名。藤井聡太竜王名人と豊島将之九段(ともに愛知)はほぼ間違いなく指名されるでしょう。中堅では澤田真吾七段(三重)。若手では、服部慎一郎六段(富山)が有力か。実力者と個性派が入り混じった陣容。優勝候補のチームと言えるでしょう。
チーム関西A…登録棋士は20名。こちらは兵庫勢の層が厚いです。稲葉陽八段、久保利明九段、出口若武六段などが有力候補か。京都勢は佐藤康光九段、西田拓也五段が指名候補となりそうです。
チーム関西B…登録棋士は22名。絶対的エースは斎藤慎太郎八段(奈良)でしょうか。千田翔太七段(大阪)、大橋貴洸七段(和歌山)も有力です。意外とベテラン棋士が多い布陣。サプライズの指名はあるでしょうか。
チーム中国・四国…登録棋士は10名。少数ながら糸谷哲郎八段(広島)、菅井竜也八段(岡山)といった実力者や、徳田拳士四段(山口)、藤本渚四段(香川)といった若手有望株もいる精鋭軍団と言えます。個性派をどうまとめていくか。山崎八段の指名に注目です。
チーム九州…登録棋士は10名。佐藤天彦九段(福岡)と佐々木大地七段(長崎)が指名の軸でしょう。若手では古賀悠聖五段(福岡)に注目。こちらも少数ですが、結束力で対抗していきたいところです。
ここまで、地域別の有力棋士を見てきましたがいかがだったでしょうか。また、地域エントリーの発表と併せて、各チームのXも開設されています。ぜひ、チェックして楽しんでみてください。また、ルール詳細は前述のABEMA地域対抗戦の公式サイトからご確認いただけます。
というわけで、ますます注目を集める新企画「地域対抗戦」。初回放送1/6(土)は監督会議から始まります。ぜひ、お気に入りの棋士がチームに入ったかを確認してみてください。そして、対局の放送も楽しみに待ちたいと思います。
さて、長々と話してきましたが今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。