読者の皆様こんにちは。訳あって資格の勉強が滞り気味の雁木師でございます。今日は、将棋ポエムの作品発表を指せていただきたいと思います。では早速作品を発表します。
「評価値」
恐ろしい
たった一瞬で
流れが変わる
恐ろしい
勝っていたのに
負けとなる
恐ろしい
AIというものは
恐ろしい
容赦なく
運命を分けていくのだから
恐ろしい
だから評価値は
恐ろしい
解説:今回の作品はいかがだったでしょうか。ここからは作品と将棋用語の解説です。まずは詩の解説から。今回は、「恐ろしい」という言葉を何度も使用しました。これは「反復法(リフレイン)」と呼ばれる技法で、後ほど解説する評価値の恐ろしさ、怖さを表現したくてこの技法を用いてみました。反復法はその名の通り、同じ言葉を何度も使用すること。繰り返し使用することで、その意味を強くしたりリズムを持たせる効果もあると言います。
前回解説した詩の分類でいえば、今回も「口語自由詩」というタイプです。定型詩に近いタイプに仕上げようかと思いましたが、表現の幅が狭くなることを恐れて自由詩という形をとりました。今回は五音調の「恐ろしい」を軸として、俳句調のリズムを目指した感覚を残しています。私の詩のタイプは、どうも定型詩に近い口語詩という中途半端なスタイルのようで…。まだまだ表現力の弱さがにじみ出ているなという感覚です。
※今回の詩の参考文献はこちらのサイトから。
続いては、将棋初心者の方向けの将棋用語の解説です。今回はAIと評価値についてです。現代将棋では、どちらも欠かせない用語です。将棋のAIは日進月歩で進化を遂げています。私はそこまで詳しくはありませんが、最近ではコンピュータ同士で将棋を指す大会もかなり盛況のようです。コンピュータに人工知能を取り入れて将棋を学習させ、局面に応じて最善手を見つけるということも当たり前の時代になりました。現在活躍するトッププロ棋士も、個人差はあるようですが、AIを導入しているコンピュータを研究に活用されている方がほとんどと聞きます。
AIやコンピュータ将棋にスポットライトが当たったきっかけは今から10年ほど前、現役のプロ棋士がコンピュータソフトに初めて負けたことが始まりとされています。将棋電王戦という非公式戦において、佐藤慎一四段(対局当時)がコンピュータソフトponanzaに敗れたことは、当時の将棋界において衝撃でした。
コンピュータソフトはさらなる進化を続け、ついには当時の名人(佐藤天彦九段)にも勝利するまでに至りました。2017年に棋士とコンピュータソフトとの戦いは幕を閉じ、将棋界はコンピュータとの向き合い方を模索する時代に突入することになります。
さて、その中で生まれた用語が評価値です。評価値という言葉はコンピュータ将棋の台頭とともに現れた用語の1つです。将棋の局面を数値で評価するものです。ニコニコ生放送での将棋中継で取り入れられたのをきっかけに定着し、現在ではABEMAや囲碁将棋プレミアム主催の棋戦である銀河戦、NHK杯でも導入されています。
評価値がもたらしたメリットとしては、形勢判断が確実に分かりやすくなったことでしょうか。将棋の中継を視聴していると、画面に数値が表示されたバーを見たことがあるという方もいらっしゃるかと思います。これが評価値の表示する形勢判断です。評価値放送がない時代の将棋中継は、棋士の解説を聞くだけでは局面の形勢判断の理解が容易ではないこともありました。しかし、評価値という概念が登場して将棋中継は様変わり。普段将棋を指さない「観る将」の方にも、AIが示す形勢判断でより分かりやすくなり将棋中継が楽しめるようになりました。
一方でデメリットとしては、AIが局面を評価することにより将棋を指す(もしくは観る)人間側が、AIに依存もしくは思考が停止してしまう可能性を秘めていることです。最近、将棋関連のTwitterを見ているとこのようなツイートを目にすることも増えました。
「大盤解説会でスマホを持って評価値のことばかり話す人がいる」
確かに、評価値の存在は「観る将」にとっては大きなアイテムではあります。しかし、解説の棋士の先生が真剣に局面を検討しながらファンの方々にお話されているのに、一部の方がそのような行為をすることで、せっかくの自分で考える機会をフイにされてしまうのは残念と感じても仕方がないと言えます。
かつて将棋界では、プロ棋士が対局中にスマホを使用しているのではないかという疑惑が世間を騒がせたこともありました。当該棋士となった三浦弘行九段は数カ月の出場停止を経て復帰することができましたが、タイトル戦の挑戦権をはく奪されてしまう事態にまで発展。当時の将棋連盟の対応や、三浦九段を非難した、またが疑惑を告発したとされる棋士の方々にも批判が集まりました。これもAIや評価値がもたらした弊害と言えるかもしれません。
最近の報道ではチャットGPTの存在がいろんな意味で話題ですが、囲碁や将棋の世界はその先駆けでAI時代に突入し、棋士もファンもAIがもたらした恩恵と弊害にどう向き合うかが課題になっていると言えます。
ちなみに私は古いタイプの将棋ソフトをPCに取り入れています。使用しているのは「水匠4」という将棋ソフトです。かつて、旧ブログ時代に角頭歩や右玉戦法の分析には積極的に取り入れてみましたが、私の使い方(向き合い方)が悪かったのか棋力向上には至っていません。現在も将棋倶楽部24での棋譜の分析には使用していますが、私はAIに教えてもらうより自らの道を突き進むタイプなのかもしれません。
さて、改めてこの作品の特徴は将棋におけるAI、評価値の存在の恐ろしさを表現した作品です。この作品を書いたきっかけは3月に行われた棋王戦第3局でのこと。この将棋は最後の最後まで形勢が二転三転の大熱戦の末、174手で渡辺明棋王(当時)が藤井聡太竜王に勝利したのですが、藤井竜王が得意とする最終盤で詰み筋を間違えてしまい渡辺棋王に勝ちが転がり込むという内容に多くの将棋ファンが驚きと一分将棋の怖さを思い知らされた内容でした。
私もこの対局は最後の部分をABEMAで視聴していましたが、最後の最後九分九厘藤井竜王の勝ちと棋王奪取を確信した矢先の失着に思わず叫んだことを覚えています。事実、ABEMA中継での評価値はその時点では藤井竜王に99%というパーセンテージが表示されていました。しかし、藤井竜王は詰み筋を間違えてしまった時点で勝ち将棋が一転して負け将棋に。今度は渡辺棋王に99%というパーセンテージに変わってしまったのです。
私がこの時に感じた評価値の恐ろしさ、AIの怖さはここにあると感じ、思わず1つの詩の作品に仕上げようという気持ちに駆り立てられました。「勝っていたのに負けとなる」という表現はそんな対局から生まれたのです。人間から見たら分からない局面も、AIにかけてみたらバッサリ断言してくる恐ろしさもこの作品の中に表現しています。
さて、今回の作品はいかがだったでしょうか。もしご意見やご感想、こうしたテーマで作ってほしいというリクエストなどがございましたらコメントでお寄せいただけると嬉しいです。リクエストに関しましては、可能な限り作品化を目指してまいります。
近況:5類移行
5/8(月)より、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが2類相当から5類に引き下げられたことに伴い、社会全体が元通りの生活へ向けて動き出しています。将棋界でも、3月中旬にマスクの着用を義務付けた臨時対局規定を廃止。5/8からは感染症罹患に伴う措置に戻しています。
中継などを見ていると、マスクを外して対局に臨まれる棋士の姿が戻ってきました。また、イベントもほぼ通常に近い形で復活しているものあると聞きます。
私の職場でも、3月末に感染対策を取りながら利用者様をお花見のため外出させるなど、少しずつではありますがかつての光景が戻りつつあります。しかし、施設内ではマスク着用は義務。面会はよほどの事態でない限りは原則窓越しを継続しています。他にも様々な規定はありますが、感染爆発の際はプライベートもかなり自粛を求められていた時期もあったので、人並ではないにせよ行動制限が緩和されつつある流れは少しの勇気づけられます。
私自身も勇気を振り絞り、5/11(木)にお休みを利用して、かつての将棋の遠征先にお邪魔してきました。行こうと思ったきっかけは、職場での休憩中に私が同僚の方に話したこんな言葉でした。
「コロナになるのが怖くてイベントみたいなものは極力控えています」
するとその方はこう応えました。
「コロナを恐れていたら何もできないよ」
私はこの言葉で今回の遠征を決断しました。
遠征先に行くのはコロナ禍前にお邪魔して以来でおよそ3年半ぶりでしたが、席主さんは暖かく迎えてくださいました。世間話もそこそこに、気づいたら将棋盤を挟んでました。
席主さんとは2局指して1勝1敗。ほかには遠征先の常連さんお2人と対局して、合計で2勝3敗。通算で3勝4敗でした。
対面での対局自体も久しぶりで対局時計をまともに押せるかが不安でした。でも気づいたら、普段のネット将棋より真剣に考えていたような気がします。普段のネット将棋で手を抜いているわけではありませんが、どうも集中しきれていない自分がいたので、その点では今回の遠征は収穫があったような気がします。
帰宅後、遠征先が運営されているLINEにてお礼のメッセージを送ったところ、席主さんからこんな言葉が返ってきました。
「あの将棋は完敗です」
私は思わずうれしくなりました。その将棋は席主さん相手に自分の得意戦法で全力でぶつかり勝ちました。勝ちを確信した時は羽生善治九段ほどではありませんでしたが、思わず駒を持つ手が震えたことを覚えています。かつてはその席主さんと遠征のたびに対局を重ねてきましたが、負けることのほうが多かったので勝って安堵のあまり放心したような気がしました。
この遠征先にはコロナの状況次第ではありますが、またお邪魔できればいいなと考えています。そのためにも、まずは資格の勉強をしっかり合格という形で終わらせて、コロナ対策を施しながらの毎日を続けていくことを大事にしたいと思います。
願わくば大会の参加にも復帰したいですが、そこは職場の状況次第で判断になるかと思います。やはり介護施設に勤務している以上、感染症に罹患するリスクは以前ほどではないものの警戒を緩めてはいけないのかとも思いますし…(臆病者の発想ですみません)。いずれにせよ、元通りの生活も油断してはいけないということに変わりはありません。皆様もどうか、気を付けながらの日常を過ごしていただけたらと思います。
さて、長々と話してきましたが今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。