右玉の魅力と大きなカン違い | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんにちは。雁木師でございます。今日は、戦術書をご紹介します。これまでにも戦術書はいくつか紹介してきましたが、特定の戦法に特化した書籍を紹介するのは今回が初めてです。今回取り上げる戦法の書籍は「右玉」についてです。

「マイナビ将棋BOOKS

変幻自在!

現代右玉のすべて」

をご紹介します。

著者は青嶋未来五段、マイナビ出版より昨年5月に出された書籍です。ここで、著者の青嶋五段のプロフィールをご紹介します。

 青嶋五段は、2015年に四段昇段(プロデビュー)。四段昇段を決めた第56回三段リーグ(2014年度後期)にて16勝2敗の成績をマークしました(これは三段リーグの最多タイ記録です)。初参加の第74期順位戦C級2組では、9勝1敗の成績で通過するという「1期抜け」を達成して五段昇段。第44回将棋大賞では勝率1位賞(.750)と連勝賞(12連勝を2回記録)を受賞され、将来が期待される若手棋士の一人です。得意戦法は、振り飛車穴熊と今回紹介する右玉。他にも様々な戦型を指す、オールラウンダーです。

 そんな青嶋五段はチェスが趣味とのこと。しかも日本でもトップクラスの腕前を持ち、同じくチェスが趣味の羽生善治九段と対戦したというエピソードもあります。現在は、竜王戦は5組、順位戦はC級1組に在籍されています。

 では、書籍の構成に移ります。5章による構成で、4つの章で具体的な右玉の形を解説し、最終章の第5章では「右玉のセオリー」と題して、1~3ページごとにテーマを設けて局面を解説しています。また、合間には「コラム」として、三段リーグのことと趣味のチェスについて書かれています。この書籍で紹介されている右玉は「風車右玉」と「矢倉右玉」で、どちらも角交換をするパターンとしないパターンで分けて解説しています。第1~4章の構成は各章3~4つの節に分けて解説しています。必ず第1節は序盤の駒組みの手順を紹介しているので、右玉の初歩から学びたい方でも大丈夫です。

 大きな特徴は、後手番目線での形勢判断の評価です。よって、全て後手番が右玉を持つ形で解説されています。これは、後手右玉だと、持久戦になった際に千日手を狙えるというメリットがあるからと言われています。千日手とは同じ手順が4回繰り返されること。連続王手の手順による千日手は王手をかけた側が負け、それ以外の手順の千日手は先後を入れ替えて指し直し(もしくは引き分け)になります。右玉は飛車を最下段に引いて、相手の攻める筋に飛車を回り込む手が多く、千日手になりやすいと言われています。私も右玉は対振り飛車のみですがよく指します。千日手に持ち込んだり、一歩間違えたら千日手になるなという変化は読んだことが何度もあります。

 またこの書籍で紹介されている右玉は、相手が居飛車できた場合の右玉側の対策が書かれています。具体的には、矢倉や角換わりの将棋になった時の対応が書いてあります。対振り飛車の時とは当然対応策や駒組みが変わってきますので、私も実戦で指す際は気をつけないといけないと思います。

 実際に読んでみた感想は、私の右玉感覚は今となっては邪道なのかなと思うようになりました。もっとも、対振り飛車にしか使わないので「完全なる右玉党」ではありませんが…。

 私は今でこそ対振り飛車相手に右玉を使いますが、それ以前は一時期ですが一手損角換わりの変化で右玉をよく使っていました。明確な理由は定かではありませんが、一手損角換わり腰掛け銀の先後同型(現在流行している☖6二金・8一飛型ではなく、☖5二金・8二飛型の先後同型)の形になった際によく負けていたこと、大学のサークルの先輩がよく採用しているのを見かけてマネしたくなったというのがあったかなと思います。しかし、当時はサークル内で振り飛車が流行っていたこと、私も当時相居飛車では角換わりから横歩取りにシフトチェンジして実戦を重ねていた経緯があり、一手損角換わりからの右玉はあまり指さなくなりました。だからこそこうして右玉の本が出たのは、また時代が逆戻りする感覚になりそうな気がしました。

 ただ、変化を見てみると従来の「受け」だけではなく「攻め」の変化も多いので、昔の「受け」「千日手狙い」という感覚を変える必要があるのかなとも思います。最近の将棋のトレンドは「堅さ」から「バランス」への変革にあると言います。そのトレンドの中で右玉という戦法も見直されているのかなとも思います。

 

 そして私は、こうした右玉の書籍を紹介するうえで自分の将棋を再度確認することにしました。すると、私はとある大きなカン違いに気づいたのです。そのカン違いとは…、私は将棋倶楽部24の結果報告の際、何回か「糸谷流右玉」を指しているとこのブログで公言してきましたが、とある文献を調べた結果、私が指していた右玉は「糸谷流右玉」ではないことが分かりました。実際の局面を使って解説したいと思います。

この図は糸谷流右玉の実戦譜として知られる対局です。2006年に行われた、糸谷哲郎四段対中原誠永世十段(肩書は当時)の対局を再現したものです。

 そして、次の図が私の24での棋譜です。後手番の右玉側が私です。

 私はこの2つ目の図の局面の後手の戦型を「糸谷流右玉」だと思っていました。しかし、将棋連盟のホームページで連載されているコラムにて、この図の局面とよく似ている局面が紹介されていました(日本将棋連盟HP:将棋コラム【玉の囲い方 第57回】)。しかもそれは昭和50年頃に指されていたということで、こんな古くからある戦法を「糸谷流右玉」と認識していたとは…。私は恥ずかしくなりました。

    今後は対振り飛車で右玉を紹介するときは▲6七銀・6八金・7七桂の形になるとき以外は「糸谷流右玉」とは明記せず、単純に「右玉」と紹介します。今まで私が「糸谷流右玉」が指せると思われた方、私の長年のカン違いで誤解を与えてしまい、申し訳ありませんでした。


    さて、話を今回の書籍に戻します。この書籍は右玉に特化した書籍です。右玉は受けの棋風の方向けと言われていますので、受け将棋が好きな方、棋風を変えてみたいという方は読んで損はないと思います。また、右玉に悩まされているという方も、対策本として有効ではないかと思います。

    この書籍を読んで将棋が好きになった、将棋が強くなったというお声をいただければこれほど嬉しいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで将棋が好きになる、将棋が強くなることを祈念して今日は終了したいと思います。本日も最後までお読みいただきありがとうございました。