初手からの指し手
▲7六歩 △8四歩 ▲5六歩 △8五歩 ▲7七角 △5四歩
▲5八飛 △3二銀 ▲4八玉 △3一角 ▲3八玉 △5二金右
▲5五歩 △同 歩 ▲同 角 △6二銀 ▲7七桂 △6四歩
▲6六歩 △5四歩 ▲4六角 △6三金
・8手目△3二銀▲4八玉△3一角
△3二銀~△3一角が引き角戦法の独自の動きで、角道を開けずに美濃囲いに組むことで、先手の角の利きを緩和しつつ、堅い玉形を得ることができるという主張。
・13手目▲5五歩
△5二金右の局面が先手の分岐点。
本譜は(1)▲5五歩から5筋の歩を交換する最もオーソドックスな指し方。
(2)▲2八玉△6四角▲3八銀(場合によっては▲1八香の穴熊もある)と5筋の交換を保留する指し方もあるが、後手は△6四角から玉を移動する手が間に合い、十分な序盤になることが多い。5筋交換を保留する狙いのひとつは▲5七銀~▲6六銀から▲5五歩△同歩▲同銀と銀で角を圧迫することだが、△3一角▲5四銀△7四歩のように軽く指されて、5筋で交換した歩を△8六歩▲同歩△8八歩のような使い方をされてしまう。
(3)▲8八飛は有力。そもそも引き角戦法に対して、向かい飛車で後手の捌きを抑えつつ、穴熊に組んで堅さで勝つというのは、引き角戦法が藤井システム対策として用いられ始めたころからある発想(一例として▲藤井-△三浦、2002年11月・NHK。▲藤井-△羽生、2006年4月・朝日2など)で、本譜は飛車の動きで1手損だが、角道を止めずに済んでいるというメリットがある。一例として▲杉本-△浦野(2012年5月・王将)
なお、この意味で升田流向かい飛車(本譜の7手目▲5八飛に代えて▲8八飛)に引き角戦法は非常に相性が悪く、振り飛車の勝率がかなり高い。先手向かい飛車対引き角戦法の最近の実戦例として▲阪口-△浦野(2012年12月・竜王)。
・15手目▲5五同角
△5五同歩に▲同飛が初期の指し方だが、△6四角が気持ちのいい手で、▲5八飛(▲8八飛を含みにする意味)や▲5九飛から囲い合いになって一局の将棋。5筋の歩交換は将来、△5六歩と垂らされるような手も生むため、必ずしも先手の得になっているわけではない。▲5五同飛の一例として▲中田(功)-△飯島(2004年11月・王位)。
本譜の▲5五同角が△6四角を牽制する手で後手としてはこの手に対する対策が悩ましい。
・16手目△6二銀
後手は基本的には一方的に歩を持たれるのは不満のため、できるだけ△5四歩とは打ちたくない。
そこで▲5五同角に△6二銀を保留して、△6四歩~△5三角とした実戦例もある(▲5四歩に△6二角を用意する)が、▲7七桂~▲6六角とされて、△4二玉の瞬間に▲5四歩△6二角▲6五桂△同歩▲7五角の筋があって、後手は受けきれない(▲鈴木(大)-△真田、2011年2月・竜王)。
・17手目▲7七桂
▲7七桂が急戦志向の手で、▲6五桂や▲5五飛~▲8五飛の筋を見せている(▲広瀬-△真田、2009年12月・順位)。
・18手目△6四歩
(1)△8六歩と突くのは、▲同歩△同飛▲8八飛△8七歩▲8九飛があるため、後手失敗。次に▲7八金~▲8七金がある。
そこで(2)△6四歩と受けるのが普通の手。(3)△1四歩(▲2二角に△1三香を用意して、角交換に備える手)▲6六角△7四歩と理想形(△6四角~△4二玉~△3一玉~△2二玉~△7四歩~△7三桂)を目指した将棋もあるが、▲5五飛△6四角▲8五飛△同飛▲同桂△8三飛▲8六歩から△8四歩の瞬間に▲9三桂成とされて、後手が潰されてしまった(▲高崎-△真田、2011年2月・順位)。
・19手目▲6六歩
△6四歩にさらに▲6六歩とするのはさらに▲6五歩からの決戦を狙う手。
ここでは▲2八玉もありそう。△6三銀なら▲4六角△5四歩▲3五角△5三金▲5五歩△同歩▲同飛~▲8五飛があるので、どうせ△5四歩と打って駒組みを進めてくるとみれば、▲6六歩は後回しにできる。
・20手目△5四歩▲4六角△6三金(図)
▲6六歩には△5四歩▲4六角△6三金(△6三銀にはやはり▲3五角)から駒組みを進めるのが自然。
△5四歩と打たずに△4四歩!としたのが▲広瀬-△森内(2011年11月・王将)。実戦の進行を見る限り、▲4四同角には△4三銀から玉を囲おうという狙いのようで、1歩損をしても△5四歩~△6三金の形が嫌だったということを示しており興味深い。確かに1歩手持ちにしておけば桂頭を攻める狙いもあり、なるほどと思わされるが、やや勝負手気味といえる。この変化の場合は、▲6六歩と突いてある方が、▲6五歩から桂を捌きやすい意味がある。
【先手ペース】
図となると、先手ペースの戦い。▲8八飛とするのが普通だが、8筋は(▲8八飛や)▲7八金などですぐに受けなくても△8六歩▲同歩△同飛に▲8八飛があるため、別の手を指すこともできそう。
後手は一応、いきなり先手に潰される展開は避けることができたが、△5四歩と打たされて、金も6三の地点に行ってしまっている。もちろん、大きな差が付いているわけではないが、初めからこの形を目指すかと言われると疑問符がつく。
引き角戦法は2手目△8四歩を生かしている戦法といえ、持久戦になれば後手にも楽しみがあるのだが、角を動かしてからでないと玉の移動ができないのがネックで、早い動きを見せられると対応に精いっぱいで形が乱れてしまうのでなかなかうまくいかないのが現状だろう。
