「宜ムベなるかな(いかにももっともなことであるなあ)」
晩秋、ほのかに甘い赤紫の実のなるアケビ科の低木「ムベ」。
この植物の語源が、天智天皇が発せられた一言だったという
ことをご存じだろうか。

.

琵琶湖のほとり滋賀県近江八幡市の北津田町には古い伝説が
残っている。蒲生野ガモウノに狩りに出かけた天智天皇がこの
地で、8人の男子を持つ健康な老夫婦に出会った。

.

「汝ら如何イカに斯カく長寿ぞ」と尋ねたところ、
夫婦はこの地で取れる珍しい果物が無病長寿の霊果であり、
毎年秋にこれを食するためと答えた。

.

賞味した天皇は「宜ムベなるかな(いかにもそのとおりだなあ)」と

得心して、「斯くの如き霊果は例年貢進コウシンせよ」と命じた。
その時からこの果実をムベと呼ぶようになった。

. .

10世紀の法典集「延喜式」31巻には、諸国からの供え物を
紹介した「宮内省諸国例貢御贄レイクミニエ」の段に、近江の国から
ムベがフナ、マスなど、琵琶湖の魚と一緒に朝廷へ献上されて
いたという記録が残っている。
                          日本経済新聞(2003/12/03)文化面参照