はじめに:朗報、しかし「最後のチャンス」に変わりなし

「特例承継計画の期限が迫っているけれど、まだ後継者が決まりきっていない……」

そんな悩みを抱えていた経営者の皆様に、大きなニュースが入りました。最新の税制改正大綱により、特例承継計画の提出期限が「2027年(令和9年)9月30日」まで延長されることとなりました。

当初の2026年3月末から1年6ヶ月の延長。「一安心だ」と思われるかもしれません。しかし、ここで注意が必要なのは、実際に株を贈与する「実行期限」は2027年12月31日のまま据え置かれているという点です。

つまり、計画を出してすぐに承継を完了させなければならない「超過密スケジュール」が予想されます。今回は、延長された今だからこそ見直すべき、税制活用のポイントと、保険によるリスクヘッジについて解説します。


1. 延長決定!新スケジュールで知っておくべきこと

今回の改正で、スケジュールは以下のように変わります。

項目 変更前 変更後(最新)
特例承継計画の提出期限 2026年3月31日 2027年9月30日
贈与・相続の実行期限 2027年12月31日 2027年12月31日(変更なし)

「出口」の期限は変わっていない

計画の提出期限が後ろ倒しになったことで、計画提出から承継実行(株の贈与)までの期間が最短で「3ヶ月」しかなくなります。

「とりあえず計画だけ出しておこう」では、その後の贈与手続きや、それに伴う親族間の調整が間に合わなくなるリスクがあります。延長された今こそ、「2027年末のゴール」から逆算した準備が必要です。


2. 税制優遇を「絵に描いた餅」にしないための3つの守り

事業承継税制は自社株の税金をゼロにする強力な「攻め」の武器ですが、それだけでは防げない経営リスクが3つあります。これらを生命保険という「盾」で守ることが不可欠です。

リスク① 猶予取り消し時の「利子税」リスク

特例措置は「猶予」であり、5年以内の後継者辞任や、業種変更など特定の事由で猶予が打ち切られます。この際、本来の税金に加えて「利子税」を上乗せして一括納付しなければなりません。

  • 対策: 万が一の納税復活に備え、換金性の高い生命保険(解約返戻金)を法人の資産として積み立てておき、キャッシュフローを確保しておく。

リスク② 「遺留分」という家族間の火種

自社株を後継者に集中させると、他の兄弟姉妹から「不公平だ。自分の取り分(遺留分)を現金で払え」と請求されるリスクがあります。

  • 対策: 先代が生命保険に加入し、受取人を「後継者」にする。後継者はその保険金を原資に、他の兄弟へ「代償分割金」を支払うことで、円満に経営権を確保できます。

リスク③ 2027年以降の「出口戦略」

特例措置を使って承継した後、将来的にM&Aや廃業を選択する場合、その時点で猶予されていた税金の支払いが発生します。

  • 対策: M&Aや廃業のタイミングで、会社から社長へ「退職金」を支給できるよう、保険で原資を準備しておく。退職金として受け取ることで、所得税の優遇を受けつつ、納税資金を確保でき、手残りの現金を最大化できます。


3. 【新・スケジュール】2027年までにやるべき5ステップ

今回の延長を受け、余裕を持って以下のステップを進めましょう。

  1. 【2026年前半】自社株の最新評価とシミュレーション

    最新の決算を反映した株価を把握し、対策が必要な額を算出します。

  2. 【2026年後半】後継者の確定と家族会議

    「誰に、いつ譲るか」を明文化します。ここを曖昧にすると、2027年の期限直前に紛糾します。

  3. 【2027年初頭】「守りの保険」の整備

    納税資金、遺留分対策、退職金準備。不足している保障を今のうちに手当てします。

  4. 【2027年春まで】特例承継計画の提出

    期限(9月)ギリギリは窓口が混雑します。早めに認定支援機関と連携しましょう。

  5. 【2027年12月まで】贈与の実行

    公証役場での手続きや贈与契約書の作成など、法務・税務の手続きを完了させます。


4. まとめ:延長は「先送り」のためではなく「確実な準備」のためにある

2027年9月までの延長は、国がくれた「最後の準備期間」です。

しかし、特例措置はあくまで「税金の先送り」に過ぎません。事業承継の本当の成功は、「税金がゼロになること」ではなく「承継後も会社と家族が安定し続けること」です。

税制という武器と、保険という盾。この両輪が揃って初めて、安心して次世代にバトンを渡すことができます。

「期限が延びたからまだ大丈夫」。そう考えて対策を止めてしまうのが、一番の経営リスクです。

当事務所では、最新の税制改正に基づいた承継シミュレーションと、リスクを最小限に抑えるための資金計画を一体となってサポートいたします。

正垣亮太税理士事務所

(本記事は2025年12月時点の税制改正大綱等に基づき執筆されています。個別の判断については必ず税理士にご相談ください)

はじめに:「決算直前」の節税、本当に間に合うのか?

「今期の利益が予想以上に出てしまった。何か節税できる方法はないか?」

12月決算の法人様からこのようなご相談を受けることが、毎年この時期に急増します。

しかし、多くの節税策は「期の途中から実行」することが前提です。そんな中、決算間際でも検討できる数少ない手段が「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」です。

ただし、令和6年(2024年)の制度改正により、安易な脱退・再加入には重いペナルティが課されるようになりました。また、年末ギリギリの手続きには「落とし穴」もあります。

本記事では、令和7年12月現在の最新ルールに基づき、駆け込み活用の注意点と法人保険との使い分けについて徹底解説します。

1. 経営セーフティ共済とは?「掛け捨てゼロ」の資金保全ツール

経営セーフティ共済は、中小機構が運営する公的制度です。

本来は「取引先の倒産に伴う連鎖倒産」を防ぐための制度ですが、実務上は「短期的な利益の繰り延べ」と「簿外資産の形成」を目的に利用されています。

制度の基本スペック

  • 掛金月額: 5,000円〜20万円(増額・減額可能)

  • 掛金総額の上限: 800万円

  • 損金算入: 掛金の全額を損金(経費)に算入可能

  • 解約手当金: 40ヶ月(3年4ヶ月)以上の納付で、掛金総額の100%が戻る

  • 貸付制度: 無担保・無保証人で掛金総額等の範囲内で借入可能


2. 年末駆け込み加入の「前納制度」とシビアな期限

ここが最大のポイントです。経営セーフティ共済には「前納制度」があり、向こう1年分(12ヶ月分)を前払いすることで、その年の損金計上額を最大化できます。

【シミュレーション例】

  • 月額掛金: 20万円(上限)

  • 前納: 12ヶ月分を一括払い

  • 当期の損金算入額: 20万円 × 12ヶ月 = 240万円

    ※厳密には「当月分+向こう1年分」で最大13ヶ月分(260万円)の損金化も可能ですが、手続きの難易度が上がります。

⚠️ 12月25日申込では「間に合わない」可能性大!

「年末ギリギリでも240万円落とせる」というネット記事を見かけますが、新規加入の場合、これは非常に危険です。

多くの金融機関では、新規申込時の窓口納付は「初回1ヶ月分のみ」とし、残りの前納分は後日の「口座振替」となるケースが一般的です。口座振替が翌月以降になれば、今期の損金にはなりません。

今期に240万円を損金にする条件

  1. 現金一括納付: 申込時に、金融機関窓口で「1年分(240万円)を現金で支払う」手続きが受理されること。

  2. 期限: 金融機関の年内最終営業日ではなく、中小機構への書類到着期限を逆算する必要があります。

結論:

確実性を期すなら「12月10日前後」がタイムリミットです。

本日(12月中旬)以降に手続きをする場合は、「初回から1年分を現金で窓口納付できるか」を必ず取引銀行に確認してください。これができない場合、今期の損金は「1ヶ月分(20万円)」にとどまる可能性が高いとお考えください。


3. 法人保険との決定的な違い

「保険より共済の方がいいのでは?」という疑問に対し、明確な使い分けを解説します。

項目  経営セーフティ共済  法人生命保険
損金算入  全額損金  一部損金(商品によるが現在は資産計上割合が高い)
返戻率  40ヶ月以上で100%   商品や時期により70%〜90%程度(ピーク時)
上限額  800万円まで  実質無制限
保障機能  なし(貸付のみ)  死亡保障・就業不能保障あり
出口戦略  解約時は全額益金  解約時は一部益金(ピーク時期の管理が必要)

現在の法人保険の立ち位置

かつてのような「全額損金で100%戻る保険」は現在ほぼ存在しません。現在の法人保険は「節税」というよりも、「キャッシュフローを平準化し、万が一の際の事業資金を確保する」ために活用します。


4. 税理士が教える「正しい使い分け」と「出口戦略」

【重要】令和6年改正による「再加入ペナルティ」

もっとも注意すべき点はここです。

以前は「解約して益金を出し、すぐに再加入して損金を作る」という手法が横行していましたが、令和6年10月以降、「共済を解約した場合、その後2年間は再加入しても掛金を損金にできない(損金不算入)」という制限が設けられました。

これにより、「頻繁な出し入れ」は事実上不可能になりました。

これからの賢い活用パターン

  • パターン① まずは共済で800万円を貯める

    全額損金・100%戻りのメリットは依然最強です。まずはこの枠を埋め、簿外に800万円の資金プールを作ります。

  • パターン② 「長期的な出口」を計画する

    「2年ペナルティ」があるため、解約は慎重に行う必要があります。「社長の退職時(退職金支給)」や「大規模修繕」「設備投資」など、明確な赤字要因(大きな損金)があるタイミングまで、じっくり寝かせておくのが正解です。

  • パターン③ 800万円を超える部分は「保険」で補完

    共済の枠を超えて資金対策や保障が必要な場合は、法人保険を組み合わせます。保険には「2年ペナルティ」のような再加入制限はありません。


5. 今すぐ動くための3ステップ(12月中旬版)

「今期の損金に間に合わせたい」という方は、明日すぐに動いてください。

ステップ1:銀行への事前確認(最重要)

取引銀行の窓口に電話し、以下の2点を確認してください。

  1. 「経営セーフティ共済の新規申込をしたい」

  2. 「今期の損金に入れたいので、申込当日に現金で1年分(または希望月数分)の前納が可能か?」

    ※ここで「初回は1ヶ月分のみです」と言われた場合、1年分の損金化は諦めるか、対応可能な別の銀行を探す必要があります。

ステップ2:必要書類の準備

  • 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)※3ヶ月以内のもの

  • 法人税の確定申告書(直近1期分)の写し

  • 納税証明書(その1)※求められる場合があります

  • 法人の実印・銀行印

  • 現金(掛金分)

ステップ3:窓口で手続き

銀行窓口は年末にかけて激しく混雑します。予約なしでは対応してもらえない場合もあるため、必ずアポイントを取ってください。


まとめ:制度を正しく理解し、令和7年の利益を守る

経営セーフティ共済は、依然として強力な制度ですが、「とりあえず入って、すぐ解約すればいい」という時代は終わりました。

また、年末ギリギリの「1年分損金化」は、銀行の手続き可否に大きく依存します。

「自分の会社の場合、今から間に合うのか?」

「共済と保険、どうバランスを取ればいいのか?」

当事務所では、最新の税制改正を踏まえた、御社に最適な「守りの財務戦略」を提案いたします。

間違った節税で後悔しないために、年内最終営業日までにぜひ一度ご相談ください。

(本記事は2025年12月14日時点の法令・制度に基づき執筆されています。)

 

はじめに

 

皆さま、こんにちは! 税理士の 正垣です。😊

 

先日、「令和8年度(2026年度)税制改正大綱」が発表されましたね!

 

今回の改正は、自由民主党と日本維新の会の連立という新しい枠組みの下、「強い経済」を目指したかなり踏み込んだ内容になっています。

 

特に、中小企業の経営者さまや、これから開業を控えている方にとって「これは追い風だ!」と思えるポイントがいくつかありました。

 

プロの視点で、ブログ読者の皆さまに関係の深いところをギュギュッと絞って解説します!🔍

 

① 「年収の壁」が178万円に!採用がラクになる?

一番の注目は、いわゆる「103万円の壁」の引き上げです。

 

✅ 所得税の負担開始ラインが「178万円」へ(令和8・9年の時限措置) ✅ 基礎控除自体も58万円→62万円にアップ!

 

これ、経営者にとっては「パート・アルバイトスタッフの就業調整」に悩まなくて済むようになる、という大きなメリットがあります。💡

 

「税金がかかるからこれ以上働けない」というブレーキが外れるため、人手不足解消のチャンスですね。

 

② 備品購入の「即時償却」が40万円に拡大!

新規開業時や設備投資を考えている方に、最高のニュースです。✨

 

これまで、30万円未満のパソコンや備品などは、買った年に一括で経費にできる「少額減価償却資産の特例」がありました。

 

今回の改正で、この上限が 「40万円未満」 に引き上げられます!

 

✅ 高スペックなPCや厨房機器、オフィス家具 これらが一括で経費に落としやすくなるため、節税しながらキャッシュフローを改善できます。これは大きいですね!🚀

 

③ 中小企業こそ「賃上げ・研究開発」の主役に

大企業向けの賃上げ減税が厳しくなる一方で、中小企業へのサポートは継続・拡充されます。

 

✅ 賃上げ促進税制は維持! 人手を確保するために給与を上げた分、しっかり税額控除が受けられます。

 

✅ 赤字でも安心「研究開発税制」の繰越制度 「今は赤字だけど、将来のために新しいサービスを開発している」というスタートアップの方に朗報です。使い切れなかった税額控除を3年間繰り越せるようになります。

 

まとめ:令和8年度は「攻めの投資」の年!

今回の改正案を見ると、国は「中小企業に投資をして、給料を上げて、どんどん成長してほしい」というメッセージを強く出しています。📢

 

「うちの場合はどうなるの?」 「どのタイミングで備品を買うのが一番お得?」

 

など、具体的なシミュレーションが必要な方は、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。😊

 

一緒に、この変化をチャンスに変えていきましょう!

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 もし役に立った!と思ったら、「いいね」や「フォロー」をお願いします✨

 

はじめに

 

「社長、この領収書は『交際費』ですか?それとも『会議費』ですか?」

経理担当者の方からこう聞かれて、即答できずに悩んでしまったことはありませんか?

交際費、会議費、福利厚生費……。

似たような支出でも、「どの科目で処理するか」によって、税金の計算(損金算入できるかどうか)が大きく変わります。

今回は、判断に迷いやすい経費の分類と、最新の税制改正(1万円ルール)を含めた損金算入のポイントについて、わかりやすく解説します。

 

1. そもそも「交際費」とは?

 

税法上の「交際費等」とは、以下の条件を満たすものを指します。

  1. 相手: 得意先、仕入先、その他事業に関係のある者

  2. 目的: 接待、供応、慰安、贈答など

  3. 行為: 飲食、旅行、観劇、ゴルフ、お歳暮など

基本的には、事業を円滑に進めるための「おもてなし」にかかった費用です。

しかし、税法では「交際費は原則として損金(経費)にならない」という厳しいルールがあります(ただし、中小企業には特例があります。後述します)。

そのため、「交際費以外の科目に落とし込めるかどうか」が節税の鍵となります。

 

2. 「交際費」から外せる3つのケース

 

交際費のように見えても、要件を満たせば「全額経費(損金)」として認められるものがあります。代表的なのが以下の3つです。

 

① 会議費(社外の人との飲食含む)

 

令和6年4月1日以降、税制改正により基準が緩和されました。

社外の人との飲食であっても、**「1人あたり1万円以下」**であれば、交際費から除外して「会議費(または交際費以外の科目)」として全額損金に算入できます。

  • 旧ルール: 1人あたり5,000円以下

  • 新ルール: 1人あたり1万円以下

  • 注意点飲食費に限ります(お中元やお土産代などの贈答品は対象外)。

  • 社内の人間だけの飲食は対象外です。

  • インボイス制度への対応も含め、「いつ・誰と・どこで・いくらで・人数」を記載した書類の保存が必須です。

もちろん、通常の会議で出すお茶やお弁当代も「会議費」となります(この場合は金額基準ではなく、常識の範囲内であるかが判断基準です)。

 

 

② 福利厚生費

 

「社内の従業員」全員を対象とした飲食や旅行などは、福利厚生費になります。

  • 例: 忘年会、新年会、社員旅行

  • 条件: 役員だけでなく従業員も対象で、常識的な金額であること。

 

③ 広告宣伝費

 

不特定多数の人に対して宣伝効果を意図して配布するものは、広告宣伝費になります。

  • 例: 社名入りのカレンダーや手帳、来店記念品など

 

3. 【図解】判断フローチャート

 

お手元の領収書をどの科目にすべきか、簡単な判断基準を表にまとめました。

判断のポイント 相手 内容 金額(1人あたり) 科目(例) 損金算入
会議の実態あり 社内・社外 お茶・弁当 常識の範囲内 会議費 〇(全額)
接待・飲食 社外あり 飲食 1万円以下 会議費 〇(全額)
接待・飲食 社外あり 飲食 1万円超 交際費 △(限度額あり)
贈答・ゴルフ 社外あり 物品・プレイ代 金額問わず 交際費 △(限度額あり)
社内行事 社内のみ 飲食・旅行 常識の範囲内 福利厚生費 〇(全額)
個人的利用 家族・友人 飲食・旅行 - 役員賞与など ×(否認リスク大)

※ 正確には「交際費等から除かれる飲食費」ですが、実務上は「会議費」等の科目で処理し、交際費と明確に区分経理するのが一般的です。

 

4. 中小企業における「交際費」の損金算入ルール

 

「じゃあ、1万円を超えたら全額税金がかかるの?」というと、そうではありません。

資本金1億円以下の中小企業の場合、交際費になっても以下のどちらか有利な方を選んで経費(損金)にすることができます。

  1. 年800万円まで全額損金(定額控除限度額)

    • 多くの会社はこちらを選択します。年間800万円までの交際費は経費になります。

  2. 接待飲食費の50%を損金

    • 交際費のうち「飲食代」の50%を経費にできます。接待等の飲食費だけで年間1,600万円を超えるような多額の支出がある企業向けです。

つまり、「1人1万円以下の飲食は『会議費』で全額経費」にし、「それ以外の接待や贈答は年800万円枠の『交際費』で経費」にするのが、最も無駄のない節税対策となります。

 

5. よくある「これって交際費?」Q&A

 

  • Q. 取引先へのお中元(5,000円)は「会議費」になりますか?

    • A. なりません。 1万円(旧5,000円)以下の基準で除外できるのは「飲食費」のみです。物品の贈答は金額にかかわらず「交際費」となります。

  • Q. 接待ゴルフの際、ランチ代だけ抜き出して「会議費」にできますか?

    • A. 難しいです。 ゴルフに伴う飲食は、ゴルフ接待(一連の行為)の一部とみなされ、原則として全額が「交際費」となります。

  • Q. 二次会に行きました。一次会と合算して判定しますか?

    • A. 別々に判定可能です。 お店を変えて二次会に行った場合、それぞれの店舗ごとに「1人あたり1万円以下か」を判定できます。

 

まとめ:グレーゾーンの判断は専門家へ

 

交際費等は税務調査でも非常に細かくチェックされる項目です。

「とりあえず会議費にしておこう」という安易な処理は、後から否認されるリスクがあります。

特に以下の3点は必ず守ってください。

  1. 誰と行ったか(参加者名)を必ず記録する

  2. 人数をごまかさない(割り勘計算のために人数を増やす等は脱税行為です)

  3. 1万円以下の飲食費は、会計ソフト上で「交際費」とは別のコード(会議費など)で入力する

「このケースは経費になるの?」と迷われた際は、自己判断せずにぜひ顧問税理士にご相談ください。適切な処理が、会社のお金を守ることにつながります。

はじめに

 

こんにちは、税理士の正垣です。

先日、ある保険代理店の経営者様からこのようなご質問をいただきました。

「これから人を増やしたいのだけれど、雇用の仕方や、外交員報酬などの区分について教えてほしい」

この質問、言葉はシンプルですが、実は保険代理店経営における「最も重要かつ、リスクの高いテーマ」の一つです。

「社会保険料の負担を抑えたいから、外注(個人事業主)扱いにしたい」

「消費税のインボイス制度も絡んで、どっちが得かわからない」

そんなお悩みを抱えている経営者様へ向けて、今回は「雇用(給与)」と「業務委託(外交員報酬)」の決定的な違いと、税務調査で否認されないためのポイントを解説します。


 

1. そもそも何が違う?「給与」と「外交員報酬」

 

保険営業マンを採用する場合、大きく分けて2つの契約形態があります。

まずは、それぞれの特徴を整理しましょう。

項目 ① 雇用契約 (従業員) ② 委任・請負契約 (完全歩合の外注)
会社が払うお金 給与 外交員報酬 (事業所得)
社会保険 加入義務あり (会社半額負担) 加入義務なし (本人負担)
消費税 不課税 (仕入税額控除なし) 課税仕入れ (※インボイス登録要)
源泉所得税 給与所得の税額表で計算 (報酬額 - 12万円) × 10.21% で計算
仕事の進め方 会社の指示に従う (時間拘束あり) 結果に対して責任を持つ (自由度が高い)

経営者様からすると、②の「外交員報酬」扱いにできれば、社会保険料の会社負担がなくなり、支払った報酬にかかる消費税を控除できる(節税になる)ため、メリットが大きいように見えます。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

 

2. 税務署はここを見る!「実質判定」の怖さ

 

契約書に「業務委託契約書」というタイトルをつけて判子を押せば、自動的に「外交員報酬」として認められるわけではありません。

税務調査では、契約書の名称ではなく、「実際の働き方(実態)」を見て判断されます。

もし、実態が「従業員」に近いのに「外注(外交員報酬)」として処理していた場合、税務調査で「これは給与です」と認定(給与認定)されるリスクがあります。

 

▼ 「給与」とみなされやすい危険なケース

 

以下の項目に当てはまる数が多いほど、「実質は雇用(給与)」と判断される可能性が高まります。

  • 時間の拘束がある

    • 毎朝9時の朝礼への参加が義務付けられている。

    • 出退勤の時間を管理されている。

  • 指揮命令が強い

    • 「〇〇へ行って営業してこい」など、具体的な業務命令がある。

    • 会社のマニュアル通りに動くことを強制されている。

  • 経費を会社が負担している

    • 営業にかかるガソリン代、交通費、駐車場代などを会社が支給している。

    • 名刺やPC、電話などを会社がすべて無償貸与している。

  • 固定給の割合が大きい

    • 成果に関わらず、生活を保障するような固定額が毎月支払われている。


 

3. もし「給与認定」されたらどうなる?(追徴課税の恐怖)

 

「外交員報酬(外注費)」として処理していたものが、税務調査で「これは給与だ」とひっくり返された場合、経営へのダメージは甚大です。

  1. 消費税の追徴

    これまで「課税仕入れ」として控除していた消費税がすべて否認されます。過去数年分を一気に支払うことになり、数百万円単位のキャッシュアウトになることも珍しくありません。

  2. 源泉所得税の追徴

    「外交員報酬」の源泉徴収(一律10.21%など)と、「給与」の源泉徴収額の差額に加え、納付漏れに対するペナルティ(不納付加算税・延滞税)がかかります。

  3. 社会保険料の遡及徴収

    税務署の情報が年金事務所等に共有された場合、過去にさかのぼって社会保険料の加入・支払いを求められるリスクも発生します。


 

4. まとめ:契約前の事前相談が必須です

 

新しく人を採用する際、コスト削減を考えるのは経営者として当然のことです。

しかし、「実態は社員のように働かせたいけれど、税金や社保は安く済ませたい」という考えは、非常に危険です。

  • 雇用として採用する場合:

    社会保険の手続きや、給与計算のフローを整える。

  • 完全歩合の外交員(個人事業主)として契約する場合:

    指揮命令系統をなくし、経費負担を明確に本人持ちにするなど、契約書と実態を一致させる。インボイス登録の有無も確認する。

この区分けは、個別の事情によって判断が非常に難しい部分です。

後から「こんなはずじゃなかった」とならないよう、契約を結ぶ前に、ぜひ一度当事務所へご相談ください。御社の状況に合わせた最適なプランをご提案いたします。

はじめに:「とりあえずお母さんに」が悲劇の始まり

「相続税はお母さん(配偶者)が相続すれば、1億6,000万円までかからないと聞きました。だから今回は全部お母さんに相続させて、税金をゼロにしましょう」

一次相続(父親が亡くなった時など)の際、このように安易な遺産分割をしていないでしょうか? 確かに、目先の税金はゼロになります。しかし、これは問題を解決したのではなく、「雪だるま式に問題を大きくして先送りした」に過ぎない可能性があります。

数年後、お母さんが亡くなった時(二次相続)に、子供たちを襲うのが「驚愕するほど高額な相続税」です。 今回は、資産家を悩ませる「二次相続の落とし穴」のメカニズムと、それを生命保険で賢く回避するテクニックについて解説します。


1. なぜ「二次相続」で税金が激増するのか?

二次相続が怖い理由は、以下の「3つの税制不利」が重なるからです。

  1. 「配偶者の税額軽減」が使えない 一次相続で最強だった「1.6億円または法定相続分まで無税」という特例は、二次相続(母の死去時)では使えません。真正面から課税されます。

  2. 法定相続人が減り、「基礎控除」が下がる 基礎控除額は「3,000万円+600万円×人数」で決まります。母が亡くなることで相続人が1人減るため、控除額(非課税枠)が600万円減り、税率が上がりやすくなります。

  3. 財産が合算される 父から相続した財産に、元々母が持っていた財産(へそくりや実家の遺産など)が上乗せされます。遺産総額が膨らみ、超過累進税率によって高い税率が適用されます。

結果として、「トータル(一次+二次)で見ると、一次相続で少し税金を払ってでも子供に分けておいた方が、数千万円も安かった」というケースが頻発するのです。


2. 子供を守るための「保険活用」戦略

では、どうすればよいのでしょうか? 一次相続の段階で二次相続までシミュレーションを行うのが大前提ですが、ここで生命保険が強力な調整弁となります。

戦略①:納税資金のダイレクト準備

二次相続の最大の問題は「現金不足」です。不動産などの遺産はあっても、税金を払う現金がない。 そこで、一次相続で現金を相続した配偶者(母)が、その現金を使って生命保険(一時払い終身保険など)に加入します。

  • 契約者: 母

  • 被保険者: 母

  • 受取人: 子

こうすることで、母に万が一のことがあった際、子供の手元に「納税資金としての現金」が即座に届きます。銀行口座が凍結されても、保険金はすぐに受け取れるため、納税資金として非常に優秀です。

戦略②:非課税枠の「再利用」

父の相続で生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使い切っていても、母の相続ではまた新たに母の分の非課税枠が発生します。 母が現金をそのまま銀行預金として持っているのではなく、保険に変えておくことで、二次相続時の評価額を圧縮し、無駄な税金を削ぎ落とせます。


3. 「小規模宅地等の特例」の判断も慎重に

ご自宅の土地の評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」。 これも「とりあえず同居している母で」使いがちです。しかし、母が高齢ですぐに二次相続が発生しそうな場合、あえて同居している子供がこの特例を使って一次相続で自宅を取得する方が有利なケースがあります。

母の資産規模を膨らませず、将来の高い税率での課税を回避するためです。 どちらが有利か、この判断には高度な税額シミュレーションが不可欠です。


まとめ:相続は「二回セット」で考える

「一次相続の手続きは税理士なら誰でもできるが、二次相続対策まで見越して提案できるのがプロ」と言われます。 目先の「とりあえず無税」という甘い言葉に飛びつく前に、一度立ち止まってください。

  • 今回、税金をゼロにしたら、次はいくらかかるのか?

  • その時、子供たちは現金を払えるのか?

  • 今のうちに、お母さんの財産を保険に移すべきではないか?

当事務所では、「一次・二次トータル税額シミュレーション」を行い、家族全体の手残りを最大化する遺産分割案をご提案します。

(※2025年11月23日現在の法令に基づき執筆されています)

はじめに:父が認知症になったら、保険はどうなる?

「認知症になると銀行口座が凍結される」。この話は多くのメディアで取り上げられ、常識となりつつあります。 しかし、「生命保険の契約も実質的に凍結される」というリスクについては、まだあまり知られていません。

契約者(親)が認知症になり判断能力を喪失すると、原則として契約内容の変更や解約ができなくなります。その結果、以下のような困った事態に陥るリスクがあります。

  • 受取人の変更: 妻が先に亡くなったので長男に変えたいが、意思能力がないため手続きできない。

  • 解約して介護費用に: まとまったお金が必要だが、本人の意思確認ができず解約できない。

  • 給付金の請求: 本人が入院しても、自分で請求手続きができない。

こうした事態を防ぐためには、「生前の手続き(指定代理請求)」「死後の渡し方(生命保険信託)」の2つの仕組みを正しく理解し、使い分けることが重要です。今回は、認知症リスクから大切な保険契約を守り、想いをつなぐ仕組みについて解説します。

 

1. まず確認すべきは「指定代理請求人」の指定

認知症になり、本人が保険請求や解約の判断ができなくなった時に備える第一の防衛策は、「指定代理請求特約」です。

これは、あらかじめ家族などを「代理人」として登録しておくことで、被保険者本人に代わって給付金を請求できる制度です。原則として指定代理請求人は解約手続きはできませんが、近年では一部の保険会社・商品に限り、介護状態等の要件を満たした場合に、解約返戻金の受領を認める運用が行われるケースもあります。まずは、「指定代理請求人が誰になっているか(あるいは設定されているか)」を確認することが、認知症対策の第一歩です。


2. 「生命保険信託」とは何か?(死後の備え)

指定代理請求が生前の備えであるのに対し、「生命保険信託(せいめいほけんしんたく)」は、「死亡保険金を受け取る権利と管理を、信頼できる信託銀行などに託す仕組み」です。

通常、保険金は受取人が一括で受け取りますが、信託を利用することで、契約者(親)の想いに沿った柔軟な渡し方が可能になります。 特に、契約者本人が認知症になった後でも、「信託契約」に基づいて当初の設計通りに資産が管理・分配されるため、「遺された家族の生活を確実に守る」という点で大きな力を発揮します。


3. 信託の活用メリット①:障がいのある子や、金銭管理が不安な家族への配慮

認知症対策に加え、「誰に、どう渡すか」を細かく設計できるのが信託の強みです。

例えば、障がいのあるお子様や、金銭管理が苦手な相続人に多額の保険金を一括で渡すと、すぐに使い切ってしまったり、詐欺に遭ったりするリスクがあります。 生命保険信託を使えば、「毎月10万円ずつ、20年間にわたって振り込む」といった、年金のような受け取り設定が可能になります。 これは通常の生命保険契約だけでは実現が難しい、信託ならではの機能です。


4. 信託の活用メリット②:二次相続以降の受取人指定(後継ぎ遺贈型)

通常の生命保険では、受取人が死亡した場合、その権利は「受取人の相続人」に移ります。契約者が「次は誰に渡したい」と決めることはできません。 しかし、信託を使えば「次の次」まで指定できます。

【例:子のいない夫婦のケース】

  • 希望: 「妻に渡したいが、妻が亡くなった後は、妻側の親族ではなく、自分の血縁である甥に渡したい」

  • 信託の活用: 第1受益者を妻、第2受益者を甥に設定することで、資産の流れを確実にコントロールできます。


5. 契約のタイムリミットは「元気なうち」

指定代理請求人の変更も、生命保険信託の契約も、あくまで「本人の判断能力があるうち」にしか手続きできません。 成年後見制度を使えば後からでも対応できる場合はありますが、手続きが煩雑で、柔軟な資産活用(孫への贈与など)は難しくなります。

「最近、物忘れが増えてきたな」と感じてからでは、手遅れになる可能性があるのです。


まとめ:保険は「入って終わり」ではない

保険契約は、何十年も続く長い契約です。その間に、契約者自身の能力や、家族の状況は刻々と変化します。

  • 「自分(親)の介護費用を保険から出せるようになっているか?(指定代理請求の確認)」

  • 「自分が亡くなった後、家族が困らない渡し方になっているか?(生命保険信託の検討)」

この2つの視点で点検を行うことが大切です。 当事務所では、家族信託の専門家や保険のプロと連携し、「認知症対策としての保険契約見直し」をサポートしています。 大切な資産が「凍結」されてしまう前に、一度現状の確認をしてみませんか?

(※2025年11月23日現在の制度に基づき執筆されています)

はじめに:その110万円、本当に「孫のため」になりますか?

「相続税対策として、孫に毎年110万円を贈与したい」 相続対策の第一歩として、非課税枠(暦年贈与)を使った現金の生前贈与は王道中の王道です。

しかし、現金をそのまま渡すことには、贈与する側(祖父母・親)にとって2つの大きな不安がつきまといます。

  1. 浪費の懸念: 「渡したお金を、孫が車の購入や遊興費ですぐに使ってしまわないか?」

  2. 否認のリスク: 「単にお金を移動しただけで、税務署に『名義預金(実質は親の財産)』とみなされないか?」

この2つの悩みを同時に解決するスマートな方法が、「現金を渡して、その手で生命保険に入ってもらう」というスキームです。今回は、現金の代わりに「保険」を活用するメリットと、税務否認を防ぐための具体的な手順を解説します。

 

1. 「使わせない」贈与の仕組み

仕組みはシンプルです。親が子(または孫)にお金を渡すところまでは同じですが、その使い道を「生命保険料の支払い」に限定させます。

【具体的な手順】

  • 契約者: 子(または孫)

  • 被保険者: 子(または孫)

  • 保険料支払: 親から贈与された現金で、子が自分の口座から支払う

こうすることで、贈与された110万円は即座に「保険積立金」という形に変わり、簡単には引き出せなくなります。10年、20年と積み立てて、満期や解約時に初めてまとまったお金として受け取れるため、「将来のための強制貯蓄」としての性格を持たせることができるのです。

2. 税務署への強力な「証拠」になる

税務調査で最も揉めるのが「名義預金」の問題です。通帳と印鑑を親が管理していたり、子が贈与の事実を知らなかったりすると、せっかくの贈与が否認され、過去に遡って相続税が課税されます。

しかし、保険を活用すると、贈与の実態が客観的に証明されやすくなります。

  • 契約行為の存在: 保険契約には本人の自署や意思確認が必要です。子が契約者になっている以上、「知らなかった」という言い訳は通用しません。

  • 資金の流れの透明化: 「親の口座→子の口座→保険会社」とお金が移動し、さらに保険会社から「控除証明書」が毎年子の元に届くことで、管理実態が明確になります。

このように、保険契約そのものが「贈与が成立していることの動かぬ証拠」の一つとして機能するのです。

3. 資産運用の効果も期待できる

現金のままタンス預金をしていても資産は増えませんが、貯蓄性のある保険(一時払終身保険や養老保険、変額保険など)であれば、運用益によって支払った額よりも増えて戻ってくる可能性(※)があります。

非課税枠(110万円)の範囲内で資産を移転しつつ、さらに運用効果も享受できる。まさに「守り」と「攻め」を兼ね備えた贈与と言えます。 (※商品によって元本割れリスクや為替リスクがあるため、商品選定は重要です)

4. 2025年現在の注意点:この2つは絶対厳守!

いくら保険を活用しても、手続きや理解が間違っていれば税務署に否認されます。特に近年の税制改正を踏まえ、以下のポイントは必ず守ってください。

① 「持ち戻し期間」の延長に注意(7年ルール)

2024年以降の贈与から、相続開始前「7年間」の贈与は、相続財産に加算されるルールへ段階的に移行しています。「110万円以下だから完全に無税」と思い込まず、一日でも早く贈与を開始することが最大の対策となります。

② 「連年贈与(定期金)」とみなされない工夫

「最初から1,000万円あげるつもりで、あえて10回に分けただけ」とみなされると、初年度に総額に対して課税されるリスクがあります。これを防ぐため、以下の対策を行いましょう。

  • 都度、贈与契約書を作成する: 「今後10年払う」という約束はせず、毎年「今年は贈与する」という契約をその都度結ぶ。

  • 時期や金額を少し変える: 毎年全く同じ日に同じ金額ではなく、状況に応じて柔軟に変えることも有効です。

  • 子の口座・印鑑は子が管理する: これが最も重要です。親が通帳を握っていると、すべて水の泡になります。


まとめ:愛のある贈与は「形」に残す

ただ現金を渡すだけが愛情ではありません。「将来、結婚資金に使ってほしい」「家を建てるときに使ってほしい」。そんな願いを込めるなら、簡単には使えない「保険」というパッケージに包んで渡すのが、親心としても、税務対策としても正解です。

当事務所では、「贈与契約書の作成サポート」と、7年ルールを考慮した「最適な贈与プランのシミュレーション」を行っております。賢い生前贈与を始めたい方は、ぜひご相談ください。

(※2025年11月23日現在の法令に基づき執筆)

はじめに:遺言書より確実な「想い」の残し方

「かわいい孫に、直接お金を残してあげたい」「籍は入れていないが、長年連れ添ったパートナー(内縁の妻・夫)の老後を守りたい」

このような想いを実現する手段として、生命保険は非常に優秀です。遺言書を書かなくても、受取人に指定するだけで、ご自身が亡くなった後に確実に、かつ速やかに現金を渡すことができるからです。

しかし、税金のルールは非情です。法定相続人以外(孫や内縁のパートナーなど)が保険金を受け取る場合、「税金が通常より高くなる」というペナルティが待ち受けています。

今回は、この「2つの税務リスク」と、それでも保険を活用すべきケースについて解説します。

 

1. リスク①:伝家の宝刀「非課税枠」が使えない(※原則)

生命保険最大のメリットである「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠。実はこれ、原則として受取人が「相続人」である場合にしか適用されません。

  • 一般的な孫(代襲相続・養子縁組を除く): 相続人ではありません。

  • 内縁の妻・夫: 相続人ではありません。

  • 子の配偶者(嫁・婿): 相続人ではありません。

したがって、彼らが受け取った死亡保険金は、「1円目から全額が相続税の課税対象」となります。(※受け取った金額は、他の相続財産と合算されて税額が計算されます=遺贈扱い)

【重要:孫養子の場合は例外】 もし孫と「養子縁組」をしている場合は、その孫は「法定相続人」となります。そのため、孫養子であれば「非課税枠」を使うことができます。ただし、後述する「2割加算」の対象にはなるため注意が必要です。

「保険なら税金がかからないと聞いたのに、話が違う!」というトラブルは、この「受取人が相続人かどうか」の確認不足から生まれます。

2. リスク②:税額が1.2倍になる「2割加算」

さらに厳しいルールがあります。それが「相続税の2割加算」です。

日本の税制では、配偶者や一親等の血族(子・父母)以外の人が財産を受け取ると、計算された相続税額に20%を上乗せして支払わなければなりません。

【2割加算の対象になる主な人】

  • (※養子縁組をしていても、代襲相続人でない限り対象)

  • 兄弟姉妹

  • 内縁の妻・夫

  • 第三者

例えば、本来の相続税が100万円であれば、孫や内縁の妻は120万円を支払う義務が生じます。 特に孫養子の場合、「非課税枠は使えるが、税額は2割増しになる」という複雑な計算になるため、事前のシミュレーションが必須です。

3. それでも「孫・内縁」に保険を残すべき理由

税金面では明らかに不利ですが、それでも私たちがこのスキームを推奨するケースがあります。

① 一世代飛ばしの資産移転(孫への贈与)

たとえ2割加算されても、父から子へ、子から孫へと2回相続税を払うより、「祖父から孫へ直接」渡した方が、トータルの税負担が安くなる場合があります(世代飛ばし)。特に資産規模が大きい家では有効です。

② 内縁パートナーへの「唯一の法的保護」

内縁の妻・夫には、法律上の相続権が一切ありません。遺言書がなければ1円ももらえませんし、遺言書があっても法定相続人(前妻の子や兄弟など)と揉める可能性があります。 生命保険金は「受取人固有の財産」となるため、遺産分割協議に巻き込まれず、確実に現金を渡せる数少ない手段となり得ます。ここでは税金の損得よりも、「確実に守る」という機能が優先されます。

4. 保険会社ごとの「ルール」に注意

最後に実務的な注意点です。実は、どの保険会社でも孫や内縁のパートナーを受取人にできるわけではありません。

  • 孫: 多くの会社で可能ですが、「2親等以内」などの制限がある場合も。

  • 内縁の妻・夫: 「同居期間〇年以上」「生計を一にしている」「戸籍上の配偶者がいない」など、加入時の審査が非常に厳しい傾向にあります。

いざという時に「受取人になれない」と言われないよう、事前の確認が不可欠です。

まとめ:コストを払ってでも「渡したい」か?

法定相続人以外への保険活用は、単なる節税策というよりは「税金を多く払ってでも、特定の人に資産を移転させるためのコスト」と捉えるべきです。

  • 2割加算されても、手元にいくら残るのか?

  • 遺言書を書くのと、保険にするのと、どちらが安全か?

当事務所では、複雑な家族構成における相続税シミュレーションを行っております。「誰に残すのが一番幸せか」、数字を見ながら一緒に考えましょう。

(※2025年11月23日現在の法令に基づき執筆されています)

はじめに:親の借金を継がずに、お金だけ残せるか?
「亡くなった父に多額の借金が見つかった。相続放棄を考えているが、父が掛けていた生命保険も諦めないといけないのか?」
相続の現場では、このような切実なご相談をよく受けます。
結論から申し上げますと、「相続放棄をしても、死亡保険金を受け取ることは可能」です(※契約形態によります)。
これは、借金などの「負の遺産」から逃れつつ、生活再建のための「現金」を確保できる、法律で認められた数少ない防衛策です。
しかし、そこには税金計算上の大きな落とし穴があります。今回は、相続放棄と生命保険の複雑な関係について解説します。

1. なぜ放棄しても受け取れるのか?(民法の話)
相続放棄とは、プラスの財産(預金・不動産)もマイナスの財産(借金)も、「最初から相続人ではなかった」ものとして一切引き継がない手続きです。
普通に考えれば、保険金も財産の一部に見えます。しかし、法律(民法)の解釈は違います。
•     預貯金・不動産:亡くなった人の財産(=遺産)
•     死亡保険金:受取人に指定された人が、契約に基づいて保険会社から受け取る権利(=受取人固有の財産)
つまり、受取人が「長男」など特定の個人に指定されていれば、その保険金はそもそも「遺産」ではないため、相続放棄の影響を受けずに受け取ることができるのです。

2. ここが落とし穴!「未請求の入院給付金」に注意
死亡保険金は受け取れますが、注意が必要なのは亡くなったお父様が入院していた場合の「入院給付金」や「手術給付金」です。
これらは「お父様本人の財産」とみなされます。もし、相続放棄をする予定の人がこれらを代わりに請求して受け取ったり、使ったりしてしまうと、「遺産を処分した」とみなされ、相続放棄が認められなくなる(単純承認)リスクがあります。
また、死亡保険金であっても、受取人が「特定の誰か」ではなく「相続人」といった曖昧な指定や、古い契約で「既に亡くなった祖父母」などになっている場合はトラブルの原因となります。必ず契約内容を確認しておきましょう。

3. 受け取れたけど、税金はどうなる?(税法の話)
ここからが税理士の領分です。
「民法上は遺産ではない」と言いましたが、「相続税法上は遺産(みなし相続財産)」として扱われ、課税対象になります。さらに、相続放棄をした人には税務上の不利な扱いがあります。
非課税枠が使えない
通常、生命保険には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があります。
しかし、相続放棄をした人は、この非課税枠を使うことができません。
基礎控除は使える
ただし、保険金を含めた遺産の総額が「基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)」の範囲内であれば、相続税はかかりません。
つまり、非課税枠は使えないが、基礎控除は使えるという点を押さえておくことが重要です。

まとめ:事前の「受取人確認」が命綱
もし、ご両親に借金の心配があるなら、元気なうちに以下の2点を確認してください。
•     生命保険に入っているか?(相続放棄後の唯一の生活資金になる可能性があります)
•     受取人は誰になっているか?(古い契約で「既に亡くなった祖父母」や「相続人」といった曖昧な指定になっていないか?必ず現在の「配偶者」や「子」の氏名に指定変更しておくこと)
相続放棄は、家庭裁判所への申述期限(3ヶ月以内)がある時間との勝負です。
「借金があるかもしれないが、保険はどうなる?」と不安な方は、手続きをしてしまう前に、まずは当事務所にご相談ください。

(※2025年11月23日現在の法令に基づき執筆されています)