はじめに:朗報、しかし「最後のチャンス」に変わりなし
「特例承継計画の期限が迫っているけれど、まだ後継者が決まりきっていない……」
そんな悩みを抱えていた経営者の皆様に、大きなニュースが入りました。最新の税制改正大綱により、特例承継計画の提出期限が「2027年(令和9年)9月30日」まで延長されることとなりました。
当初の2026年3月末から1年6ヶ月の延長。「一安心だ」と思われるかもしれません。しかし、ここで注意が必要なのは、実際に株を贈与する「実行期限」は2027年12月31日のまま据え置かれているという点です。
つまり、計画を出してすぐに承継を完了させなければならない「超過密スケジュール」が予想されます。今回は、延長された今だからこそ見直すべき、税制活用のポイントと、保険によるリスクヘッジについて解説します。
1. 延長決定!新スケジュールで知っておくべきこと
今回の改正で、スケジュールは以下のように変わります。
| 項目 | 変更前 | 変更後(最新) |
| 特例承継計画の提出期限 | 2026年3月31日 | 2027年9月30日 |
| 贈与・相続の実行期限 | 2027年12月31日 | 2027年12月31日(変更なし) |
「出口」の期限は変わっていない
計画の提出期限が後ろ倒しになったことで、計画提出から承継実行(株の贈与)までの期間が最短で「3ヶ月」しかなくなります。
「とりあえず計画だけ出しておこう」では、その後の贈与手続きや、それに伴う親族間の調整が間に合わなくなるリスクがあります。延長された今こそ、「2027年末のゴール」から逆算した準備が必要です。
2. 税制優遇を「絵に描いた餅」にしないための3つの守り
事業承継税制は自社株の税金をゼロにする強力な「攻め」の武器ですが、それだけでは防げない経営リスクが3つあります。これらを生命保険という「盾」で守ることが不可欠です。
リスク① 猶予取り消し時の「利子税」リスク
特例措置は「猶予」であり、5年以内の後継者辞任や、業種変更など特定の事由で猶予が打ち切られます。この際、本来の税金に加えて「利子税」を上乗せして一括納付しなければなりません。
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対策: 万が一の納税復活に備え、換金性の高い生命保険(解約返戻金)を法人の資産として積み立てておき、キャッシュフローを確保しておく。
リスク② 「遺留分」という家族間の火種
自社株を後継者に集中させると、他の兄弟姉妹から「不公平だ。自分の取り分(遺留分)を現金で払え」と請求されるリスクがあります。
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対策: 先代が生命保険に加入し、受取人を「後継者」にする。後継者はその保険金を原資に、他の兄弟へ「代償分割金」を支払うことで、円満に経営権を確保できます。
リスク③ 2027年以降の「出口戦略」
特例措置を使って承継した後、将来的にM&Aや廃業を選択する場合、その時点で猶予されていた税金の支払いが発生します。
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対策: M&Aや廃業のタイミングで、会社から社長へ「退職金」を支給できるよう、保険で原資を準備しておく。退職金として受け取ることで、所得税の優遇を受けつつ、納税資金を確保でき、手残りの現金を最大化できます。
3. 【新・スケジュール】2027年までにやるべき5ステップ
今回の延長を受け、余裕を持って以下のステップを進めましょう。
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【2026年前半】自社株の最新評価とシミュレーション
最新の決算を反映した株価を把握し、対策が必要な額を算出します。
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【2026年後半】後継者の確定と家族会議
「誰に、いつ譲るか」を明文化します。ここを曖昧にすると、2027年の期限直前に紛糾します。
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【2027年初頭】「守りの保険」の整備
納税資金、遺留分対策、退職金準備。不足している保障を今のうちに手当てします。
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【2027年春まで】特例承継計画の提出
期限(9月)ギリギリは窓口が混雑します。早めに認定支援機関と連携しましょう。
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【2027年12月まで】贈与の実行
公証役場での手続きや贈与契約書の作成など、法務・税務の手続きを完了させます。
4. まとめ:延長は「先送り」のためではなく「確実な準備」のためにある
2027年9月までの延長は、国がくれた「最後の準備期間」です。
しかし、特例措置はあくまで「税金の先送り」に過ぎません。事業承継の本当の成功は、「税金がゼロになること」ではなく「承継後も会社と家族が安定し続けること」です。
税制という武器と、保険という盾。この両輪が揃って初めて、安心して次世代にバトンを渡すことができます。
「期限が延びたからまだ大丈夫」。そう考えて対策を止めてしまうのが、一番の経営リスクです。
当事務所では、最新の税制改正に基づいた承継シミュレーションと、リスクを最小限に抑えるための資金計画を一体となってサポートいたします。
正垣亮太税理士事務所
(本記事は2025年12月時点の税制改正大綱等に基づき執筆されています。個別の判断については必ず税理士にご相談ください)