厚生労働省ホームページに、R2年~R3年の、不服申立て第二審の裁決集が
掲載されているため、その中の、障害年金がらみだけの事件について、
上から順に、裁決の概要と感想など書いていきます。
文中「」は裁決書の引用です。
障害厚生年金
敗訴判決確定後の、障害認定日再請求 →棄却
概要
1.前回請求にて障害基礎年金障害認定日遡及請求するも、
認定日等級不該当により不支給決定。
審査請求棄却、再審査請求棄却により、提訴。地裁で請求棄却判決。
控訴するが高裁でも棄却判決し、判決確定。
なお、地裁では、
・裁定請求で提出したA診断書における記載は裁判所の認定した請求人の障害の状態と概ね一致。
・新たに出したB診断書については、カルテにはB診断書に記載されている程度の状態であったような
記載はうかがわれず
・A診断書→B診断書の変更した合理的理由ないため、B診断書で判断することは困難
としました。
2.再度の障害認定日請求。診断書はB診断書を提出。
裁定請求では障害の状態に該当しないとして不支給処分。
審査請求棄却後の、再審査請求。なお、審査請求棄却内容は不明。
3.審査会は、障害の程度という争点は判決理由中判断であるが、
当事者双方が主張尽くした上での判断であるから、再審事由がない限り信義則上拘束され、
本件は再審事由がないから、判決に拘束されるため、棄却。としました。
感想
おもいっきり民事訴訟法の話、ですね。
既判力(民事訴訟法114条1項)の客観的範囲は、「訴訟物」の判断のみ生じて
既判力には生じないのが原則だけれど、訴訟物ではない「理由中判断」についても
紛争の蒸し返しにあたる場合は、信義則(民事訴訟法2条)上、拘束される、
というもので、
今回は、「障害の程度」は訴訟物ではなく理由中判断だから、既判力ではなく
信義則上の拘束力、となったのです。
ちなみに、今回は前訴請求が裁判まで行って判決確定だから
既判力や信義則というのが問題になるわけで、
裁判まで行ってなければ、少なくとも既判力はでてこない、です。
(旧法)発病日はいつか(統合失調症)→容認
概要
カルテに記載の発病時期は、家族が本人の異変に気づきながら長期間受診させなかった
責任を問われるのを避けるために真実と異なる時期を伝えた。
しかしながら実際の発病時期については、
家族の証言と会社上司の証言で、会社在職中であると審査会が認定しました。
感想
請求人や代理人の立場としては、
カルテを見て、がっかり・・・、となりそうですが、
そのカルテ内容を打ち破る、詳細に陳述した証言を集めることの大事さを感じますね。
第三者のみならず家族の証言だって有効になりえるのです。
私自身も初診日に関して、第三者の証明のみならず家族の証明書もつけたりしています。
ちなみに、
障害認定日当時の、障害の程度は、ウ2が3343444、ウ3(4)で1級です。
感音性難聴・社会的治癒→棄却
概要
裁決書は伏せ字だらけで、推測になってしまうのですが、
小1のとき、担任教諭から難聴可能性を指摘され病院受診。ビタミン注射継続するが途中通院中断。
大学卒業、一般枠採用。右耳に耳かけ型補聴器着用するが、就労や日常生活に支障なし。
↓
その後、昭和○年、障害者手帳4級交付受ける。
↓
平成○年、両耳90db
↓
人工内耳手術
裁決
「医学的にも当該傷病は、治癒することはない疾病であるから、
聴覚の障害は継続していたものと考えるのが相当であって、
医療機関で治療を受けることなく、就労や日常生活に支障なく生活できた一定期間があることをもって、
いわゆる社会的治癒を認めることは困難である」
感想
裁決より、平成を初診日として裁定請求していることから、
両耳90dbのところを初診日としたのかな、と思います。
裁決書の、治癒することはない疾病だから・・・の理屈が気になりますよね。
これ言われたら、社会的治癒の成立が難しくなる疾病多くなってしまいます。
原処分に対する不服の主張がないため不適法却下
概要
更新で3級停止処分(先行処分)。その後、
物価・賃金の変動による支給停止の年金額が改定(原処分)。
原処分に対する、不服申立て。
裁決
「再審査請求人の主張が、不服の対象となる処分の違法事由や不当事由に全く関係のない事項に関するものであるなど、処分の有効性あるいは妥当性に全く影響を及ぼさない主張である場合には、その再審査請求は、審査の請求としての適格を欠くものとして、本案の審査を行うまでもなく、不適法としてこれを却下すべきもの」
とし、
請求人の主張は先行処分についてであり、
原処分の取消しの理由となる違法・不当事由に全く関係なく、
補正の余地もないから、却下。
なお、先行処分に対しては不服申立て期間徒過なので審査はできない。
としました。
感想
代理人社労士であればこのようなことは生じないかな。審査官はどんな理由で棄却したか気になるところ。
うつ病・社会的治癒→棄却
概要
「再発防止のための維持的投薬で経過観察を受けていたものの、特に症状はなく、
通院間隔 も1、2週間に1回程度から、3週間に 1回、4週間に1回と次第に長くなり、
約3年もの間、同職種の同僚と変わりなく通常勤務をし、
時間外勤務もするなど 完全に社会復帰しており、健常者と変わりない社会生活を送っていたが、
平成◯年◯月から症状が再燃し・・・」
「投薬も継続され、特に抗うつ薬のサインバルタは 治療量の40mgを投与され・・・
請求人が主張する社会的治癒期間に投薬 の調整がされていることがうかがわれ・・・
上記の約3年余りの期間をもって、いわゆる社会的治癒を認めることは困難」
「健康保険法上の傷病手当金と国民年金法及び厚生年金保険法上の障害給付の支給要件の解釈適用において、同じ社会的治癒という救済のための法技術上の概念が用いられていても、各制度の趣旨に照らし、後者よりも前者において比較的広く救済を図る実務であり、本件については、本件に即して判断すべきものである。」
感想
健保の傷病手当金の方が、年金法の障害年金よりも広く救済図る、ということは、
つまり、健保の方が年金よりも短い期間での社会的治癒が成立、ってことかと思います。
腎疾患・初診日→容認
概要
①②③番目受診の病院は、カルテがないため、
「信用性のある資料により受診の事実を確認することはできない」として、
カルテがあるもっとも古い病院である④番目に受診した病院の受診状況等証明書を持って、
当該初診日を障害年金上の初診日とし、加入・納付要件を満たす。
また、厚生年金資格取得より前や喪失中に
糖尿病または慢性腎不全で受診したことをうかがわせるものはないとしています。
感想
具体的な年数は伏せ字なのでよくわからないですが、
厚生年金被保険者資格の時期が長かった、喪失していた時期が短期間であったのが
良かったように思います。
躁うつ病・初診日→容認
概要
病院の患者登録画面(診療科まであり)、第三者証明2名により、本人申立て日を初診日と認められました。
感想
請求人の職業が心理士であり、証言の友人1名は心理士であり、
もう1人も「学会参加」ということから心理士なのかと思われます。
本人とご友人の職業的に、精神の不調を相談しやすい状況にあったのかなと
(精神状態の悪化を第三者の誰にも相談しないという人も一定数いるかと思いますので)。
そしてそれが良かったと思いました。
今回は、厚生年金だけ。国民年金は後日書きます。