怪句 その10 | 笑福亭純瓶オフィシャルブログ Powered by Ameba

怪句 その10

「おかしいな? えているのは… 自分だけ??」


 地下通路での一句。

 

 その通路は地下鉄の改札から地上に出る為に張り巡らされたもので、

利用者それぞれの都合に合わせてあちこちに出口が設けられている。

 

 自分にとって滅多に利用しない場所ではあるが、たまたまその日は

そこを使う事になった。

 

 ただただ長い通路で、お店が立ち並ぶような事も無く、単に殺風景な

直線である。最終駅から二つ目の駅で、昼過ぎの今は人通りも少ない。

 

 出口へと向かう人と改札へと向かう人が、目測で6~7人しかいない。

そんな状況の中、派手に着飾った女性が前からやってくる。

 

 他の人は地元のごく普段着程度の服装の人たちばかりの中で、

おそらく今から繁華街へと繰り出すのか、厚化粧で髪も服装も派手に

仕上げ、ひょっとすると夜のお店へ出勤するのかもと思える姿の女性で

あったので、否応無しに目立っている。

 

 さてその女性とすれ違う瞬間に驚いた!


 その人の真後ろに!ベッタリと男が張り付いているのだ!

女性との距離は無い、ピッタリと言うよりベッタリ張り付いているのだ!

 

 「気持ちワル!」 正直、それが見た瞬間の心の叫びであった。


 男の姿は、野球帽に汚く伸びた髪、長袖のTシャツは水色のズボンに

入れていて、オタクっぽい姿とも違う独特のセンスの無さで、頭から

つま先まで、申し訳ないが、薄汚れていてとても汚い、というものだ。

 

 そんな男が、その派手に着飾った女性の真後ろにベッタリ張り付いて

シャカシャカと歩いているのだ!

 

 自分は呆然と立ち止まり、その様子に目が釘付けになった!


 目の前を女性が悠々とすれ違って行く…その後ろでシャカシャカと

その男が張り付き歩いている、悠々と歩く女性に比べ、シャカシャカ歩く

その男の動きはまるでビデオを早送りしているようで、二人の動きは

時間の流れがまるで違って見える、それが一番異様な光景であった。


 呆然と、すれ違いながら目が離せない…その瞬間いろんな事が頭を

過ぎった…。

 ①女性は気が付いていないのか?だったら何か有ったら助けねば!

 ②いや、あれを気づかない筈が無い!だったら嫌がったり助けを

  呼ぶはず、それをしないと言う事は受け入れているのか?身内か?

 ③身内にしては余りにも身なりに違いが有り過ぎる、とても一緒に

  出かける雰囲気ではない…

 

 そして周りを見回した、自分の疑問を誰かと共有したいのだった、

が、周りの歩行者は誰一人その光景に関心を持っていない。

 

 むしろ自分だけが挙動不審で、逆にそれが浮いている!

 ④ナゼみんな不思議がらないんだ?ひょっとして彼は(申し訳ないが)

  障害か何かあって、いつもの事でみんな慣れっこになっているのか?

 ⑤それにしても女性の方は少しは嫌がるだろう…?

 

 そして、ナゼみんな無関心なんだ?と思った時、ある結論に達した…

「見えているのは…自分だけ?」



【小噺・物語】 <見えているのは自分だけ?>


A: 「ちょっとすいません!」

B: 「はい?」

A: 「あれ…おかしくないですかっ!」

B: 「何です?」

A: 「ほら!女性の後ろに男が張り付いて!痴漢だったら助けないと!」

B: 「どこです?」

A: 「いや!ほら、あそこ!あの派手めの女性の!真後ろに!」

B: 「…あの派手な女性の後ろ?…誰も居ませんよ…」

A: 「えっ…?」

B: 「男なんて見えませんが?」

A: 「ええっ!…じゃ…見えているのは…僕だけですか…?」

B: 「え?…え~、そ、そうかなぁ?…僕は霊感がまったく無いんで…」


C: 「おいB!、Bって!」

B: 「何?」

C: 「お前…さっきから…誰としゃべっとんねん?」

                                デンデン/