菖蒲理乃 オフィシャルブログ「しょーぶどき」Powered by Ameba
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あこがれの下町、北千住


東京の西側で育った私は、ずっと下町への憧れを持っている。

人情味あふれる粋なビートたけしさんや、
美女に弱くて惚れっぽい寅さんや、
面倒ばかりかけるのに愛される両津勘吉や、
そんな下町の人たちが愛おしかった。

高校の同級生に、生粋の下町っ子がいた。
彼女はいつも目がなくなるくらいクシャクシャに笑う。
その笑顔には嘘のない優しさがたっぷり詰まっていて、周りには常に人がいた。

私も下町で育っていたら、もう少し素直に生きられたのかしら…
なんて、ひとり窓際の席に座りながら羨ましく眺めていた。



大学生のとき、ひとり暮しをすることになり、すぐに日暮里の不動産屋さんに行った。

はじめてのひとり暮しだ。
スタッフさんは当然のように治安の良いエリアや、セキュリティが充実したマンションを勧めてくる。

しかし私が気に入ったのは、
北千住の飲み屋街を抜けた先にある築40年のぼろアパートだった。

スタッフさんと内覧に向かうとき、
飲み屋街を歩きながら
「少し遠回りですけど、あっちの大通り側を歩けば安心ですからね!」
と言われたが、
私は昼から酒を嗜むおじさまたちに心を躍らせていた。


家賃6万5千円の小さなアパートには大きな窓が7つもあって、
すべての窓を開けるとふんわり優しい風が畳の香りを運ぶ、気持ちの良い部屋だった。


ここで憧れの下町暮らしがはじまった。



ある日、パチンコ屋の2階にある喫茶店で大学のレポートを書き上げ、清々しい気分で店を出ると、
赤提灯の向こうで賑わう人たちが目に入った。

キリッと背筋を伸ばして大きなジョッキを傾ける姿が美しくて、
吸い込まれるように入っていったのを覚えている。

広島カープが25年ぶりに優勝した夜だった。

スマホで速報を目にした私は、
となりで飲んでいた60歳くらいのおじさまに
「カープ優勝したみたいですね!」と話しかけてしまった。

驚きながらも相手をしてくれたその人の笑顔には、
やはり嘘がなくて、下町っていいなと思った。


数日後、飲み屋街を歩いていると、
またその人が立ち飲みカウンターに向き合っているのを見つけた。

毎日のように北千住で飲み歩いているらしい。

目があうと店内から手招きされ、当たり前のように一緒に飲んだ。

まるで待ち合わせをしていたかのようだった。



それから3年ほど北千住で飲んでいると、
そんな飲み友達が沢山できた。

あの街で飲めば、誰かいる。



子供のころ、学校が終わると意味もなく地域交流センターに行って、
そこにいた同級生と駄菓子を食べていたのを思い出す。

当時は携帯電話も持っていなかったので、
誰かと約束をしているわけではなかった。

それでも行けば誰かいる。
そんな溜まり場があったのだ。


大人になって地元から離れてしまうと、
偶然会って一緒に遊ぶなんてことはなくなった。

会ったとしても向こうの都合もあるだろうし、
気軽に声をかけることもない。

大人って、気を遣ったり、相手のことを思いやったり、案外孤独だなと思う。


しかし北千住では、
ひとりひとりが自由に飲み歩き、
顔なじみがいれば杯を交わし、
好きなタイミングでお会計をして、
また次の店に行く。

この距離感がすごく心地よかった。



あの人たちは、今日もジョッキを片手にカウンターに向かっているのだろうか。

また一緒に飲みたいな。

北千住の友達に想いを馳せるとき、
私はいつもより素直になれる。




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