中村錦之助主演『沓掛時次郎 遊侠一匹』 | shoの映画部屋

中村錦之助主演『沓掛時次郎 遊侠一匹』

任侠世界の中で、煉獄への道を、浄化されない魂が往復を繰返すが如き渡世人の生き様を、情感たっぷりに描く監督加藤泰の名作。

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やくざ渡世に身を置く旅烏の沓掛(くつかけ)時次郎こと(中村錦之助)と、それを兄貴と慕う農民上がりの身延の朝吉こと(渥美清)は、一家の娘お葉から賭場での度胸を買われ、一宿一飯の恩を受け、敵対する一家への討入りの助太刀を頼まれる。

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旅烏の命なぞ虫けらのようにしか思われていない、ということを身にしみて感じている時次郎は巻き込まれる前に、あっさりと草鞋を履いて旅立ったのだ。
しかし渡世人家業に強い憧れを抱く朝吉は、その態度は不義理であるとなじり、ひとり助太刀に引き返してしまった。
結局時次郎は、人の良い朝吉が心配になり、後を追ったが、悪い予感は的中し、朝吉はたった一人で斬り込みに送り出されていたのだった。

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鴻巣一家にわらじをぬぎ、助っ人を頼まれた。相手は落ち目の中ノ川一家を守り抜く代貸の六ツ田の三蔵(東 千代之助)であった。
勝運は時次郎にあった。
三蔵は死にぎわ時次郎に女房おきぬと太郎吉の二人を、伯父のもとに届けてくれるよう頼んで息をひきとった。

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時次郎はおきぬに自分が三蔵を殺したことを打明け三人の苦難の道中が始まった。おきぬも憎みながらもいつか時次郎のやさしさにひかれ、時次郎も秘かに愛の炎を燃やした。

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だがそのうち、おきぬは過労から労咳で倒れた。
時次郎は、金をつくるため馴れぬ仕事に精を出した。やがて病も癒えおきぬ母子が沓掛の叔父のもとへ旅立つ日が来た。
だが旅立ちの日、親子の姿はどこへともなく消えていた。
そして一年が過ぎた。時次郎ははからずも高崎宿でかど付けをする母子に再会した。複雑な気持のおきぬは、雪の上に倒れた。木賃宿におきぬを置き、時次郎は薬代をかせぐため、土地の八丁徳一家と聖天一家の喧嘩を聞き助っ人を買って出た。医者に行くといつわって出る時次郎を送るおきぬには、死相がただよっていた。
時次郎の働きで八丁徳一家は勝利を治めた。金を手におきぬのもとへかけつけた時次郎だったが…

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物語前半は渥美清を絡ませて、渡世人の義理を打ち出している。
剽軽な渥美が渡世人は何であるかを時次郎に問いただすが
世の中の仕組みが分かっている分、朝吉の純粋さが切なすぎて遣り切れず、その悲しさが溢れ出すように鯉口を切る時次郎の男ぶりに涙である。
前半は「動」の演出でスピーディーに流れていくのだが、後半は一転して心理描写を中心とした「静」の世界になっていく。

おきぬの池内淳子がいい、「関の弥太っぺ」でも、丘さとみや桜町弘子等東映城の女優は使わなかったが、池内淳子の女の性(さが)を胸に秘めた哀愁が上手く表現している。

木賃宿の人情味ある女将の清川虹子、そして戦前は大都の二枚目スター、東映時代劇では悪役専門だった、アベクスこと阿部九州男が亭主役で好々親爺を熱演。

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*栄華を誇った東映時代劇にも黄昏は訪れた…
この作品が東映時代劇の事実上最後の作品と言われてる。

それを象徴するかのようにラストシーンで中村錦之助がある演技をする…
そのシーンが以後の東映が時代劇を終焉し現代任侠路線への方向転換する意思の表れだった。