「ちょっと待ってください!」



ケイスはデッキへと向かう男を呼び止めた。




「ようやく信用してくれたかな」



男は振り返るとその蒼い瞳をケイスへと向けた。



「全部信用した訳じゃありません。ですが・・・・謝っておこうと思って・・・」




「なにをかな?」



「あなたのことが不透明なのは今も変わらない。そしてあなたの言っている事がすべて信用できるわけでもない。でもこうして話し合いの立場にお互い立ったのも事実です。その時は敵味方関係なく、人と人ですから・・・・・」





「年上には敬意を払おうと?」


男はまるですべてを見透かしたような笑みを浮かべて言った。



「その通りです。先の戦闘では申し訳ありません。」


ケイスは軽く頭を下げた。




「いや、かまわんさ。あの時疑りあい、一度争ったからこそ今こうしてられる。そんなわかりあい方もあると思わないか?」



「わかるような・・・」



「君もいずれ理解する。しかし橋渡しの方法を理解したとき、それを使うか使わないかは君次第だ。」




「どういう・・・・」

ケイスは本当にこの男が言ってることがわからなかった。だが、彼が自分なにか特別な感情を抱いていることには、薄く感じていた。



「君とはいい友人になれると思っている。」



「あなたは・・・」



「ああ、そうだな。シャアとは呼びづらいだろう。言った通り私はシャアのクローンのようなものだ。だがそうなる以前の名は知っている。レグラス。そう呼んでもらえないか?」



「レグラス・・・さん」



「ああ。今やあだ名のようなものだ。さて、母艦に合流するぞ。」



レグラスは赤い機体に向けて体を流した。

その後ろ姿をケイスは複雑な思いで見つめていた。





同刻、サラミスは敵の信号をキャッチしていた。

ジンはすでにノーマルスーツを着用しており、艦長席に身を置いていた。




「なにが起こっている?!これはジオンの反応じゃないか!」





「ジン艦長!合流ポイントでジオンとルージュと思われる艦隊が戦闘中です!どうします!?」




「共同戦線を張った以上、ルージュを見捨てるわけにもいかん!総員!第1戦闘配備!MS隊出せ!」



ジンは通信をデッキのMSへとつないだ。

モニターにはケイスとレグラスの顔が浮かび上がる。



「あなた方の母艦とネオジオンが戦闘中です。共同戦線の件はまだ正式ではありませんが、こうなった以上我々も母艦を援護し戦闘に介入します。よろしいですね?」






「構いません。むしろ協力に感謝したい。ケイスくんはまだ新米と聞きました。援護は任せてください。これでもパイロット歴は長い方です。」





「よろしくお願いします。・・・ケイス!聞こえたか?ルージュの艦隊を援護!シャア大佐とネオジオンのMSを迎撃するんだ!」



「はい!デルタガンダム出ます!」



サザビーの巨大なバーニアが火を吹いた。

めまぐるしいスピードでサラミスを後にする。





「速いな、レグラスさんは、このままじゃ置いてかれるぞ。」



デルタガンダムは出デッキ外にで出ると可変機構を使い、ウェイブライダー形態に変形しサザビーの後を追う。





「ケイスくん!君はなにも考えず切り込んでくれ。捌き{さばき}きれないのは無視してかまわない」



「わかりました!」



デルタガンダムはサザビーを追い越す。

先には、ギラ・ズール部隊が迫っていた。


そのギラ・ズールにはオンディ・レグラスが乗っていた。




「あれは・・・・サザビーじゃないか!!!くそ!!後続隊は舐めてかかるな!あれは半端じゃないぞ!」


(かなり見た目が変貌してるがあれは間違いなくサザビーだ。どうやって回収したんだ・・・この得体の知れない連中もいきなり攻撃を仕掛けてきた。しかも今度は連邦と一緒に現れやがった!どうなってんだ!)





オンディが状況に混乱していたが、そんな余裕も与えないほどの間にガンダムは変形し10メートル手前でサーベルを振りかざしていた。




「いやあぁぁぁッ!!!」


ケイスが叫ぶ。



「やろおおおお!!!」



ギラ・ズールもサーベルを繰り出しなんとか、ガンダムのビームサーベルを受け止めた。

しかしガンダムはそのままオンディを置き去りにし、後続隊へと突っ込んでいく。




「くそ!狙いは後ろの連中か!アイミ!気をつけろ!!!」




遠くので後続隊のギラ・ズールが爆発した。

ガンダムのサーベルはギラ・ズールを真っ二つに割り、一機目を速攻で破壊した。

ケイスのガンダムが次々とMSを撃破していく。



そして最後の一機になった。

一番奥にいたその機体は新型ギラ・ズール部隊の中に混じって旧型のギラ・ドーガで出たアイミ・ミラ・ティーダだった。


鮮やかなオレンジ色の角突きといったデザインのギラ・ドーガがケイスの行く手を阻む。



アイミはレバーを強く握りしめ、武者震いを起こしていた。




「さぁ・・・さぁおいで・・・坊や。戦いってのは才能やセンスだけじゃやってけないってことを・・・教えてあげるよッ!!!」



ギラ・ドーガは持っていたビームマシンガンを振り捨てた。

なにも持たないその状態で左右の手を大きく広げかまえる。




「あいつ!隊長機だ!子供だと思って舐めてるのか!」



ガンダムはビームサーベルを二刀流で持ちマウントしていたクレイバズーカに自動発射をインプットしてパージした。



「5・・・4・・・3・・・」


ケイスは数を数える。




ガンダムは2本のサーベルを振り下ろした。


アイミはここぞとばかりに身を乗り出し目を大きく開いた。



「そう来ると思ったよ!ガキ!」


ギラ・ドーガの腕がガンダムの両腕をがっしり掴む。

同時にガンダムめがけ膝蹴りをかます。


ケイスは素早くガンダムの片足を上げギラ・ドーガの膝とぶつけた。


金属が疲弊にガタガタとうねりを上げる。



「2・・・1!!」




クレイバズーカがインプットした時間を迎え散弾を発射する。

ギラ・ドーガにそれは命中せず、その時はすでにガンダムはもう片方の足で蹴りを入れられて体制を崩していた。

瞬時にガンダムの体制を崩すことと散弾を交わす動作が同時に行われるその様は、まるで本物のヒトが動いているかのような滑らかさがあった。



「はっ!こんな子供騙しに!」




「まだぁああああああ!!!」




両者共々サーベルを抜きあい幾多の剣が交じり合う。



「アンタ!本当に覚悟して戦争してんのかい!」


「コイツ・・・・強い!なんていう反応の速さだ!」




アイミはどんどんと周りが静かになっていくことを感じた。

きっとあれだろう。

命を懸ける戦いのなかで起こるっていう脳内のアドレナリンが出て・・・・・


なんてことが起こってるくらいにしか思えない。


そしていつしか音は消え、完全に目の前の光景それしかしか見れなくなっていった。

心が安らぎ、自分がすごく安定していくのがわかる。

波打つ心拍数がゆっくりと、少しずつ、戻っていくように、アイミは精神が穏やかになっていった。


まるで、”自分で自分を操作できるような間隔”がそこにあった。



(なんだこれ・・・すごい楽になっていくわ・・・・・今私殺し合いしてるのよね?なのに・・・)












「最高な気分だッ!!!」






ギラ・ドーガはサーベルを巧みに操り、ガンダムの両腕を切断した。




「しまった!駆動系がやられた!」



「なんなのこれ・・・!?相手の動きがとてもスローに見える!いや、違う!私の反応が早くなってるのか!?」



アイミの体は心とは裏腹に落ち着かなった。

瞳が赤く染まっていく。涙が出そうになる。

なぜか体がすごく熱かった。

しかし、そんな不調をもろともしない気分の上昇が彼女を奮い立たせた。


ギラ・ドーガはガンダムのコクピット目掛けて、ビームサーベルを突き立てた。


「コイツで最後だァァァ!!!!」



「やられる!」





ケイスがそう思った途端に機体のモニタに”EASY/HEAT"の文字が浮かんだ。


ダランと糸が切れた人形のように浮かぶガンダムから、緑色の光が溢れ出したのだ。

その光を浴びたギラドーガは完全に動きを止めた。







光は2機を静かに包んでいく・・・・・。








一瞬とても眩しかったそれは落ち着いていく。





まるで自分の心に入ったような感覚がした。





そこでは嘘はつけない。





自分には嘘はつけないからだ。





まるで、着ていた衣服を全部脱いだような、開放感があった。

同時に新しい自分を知ったような気がして少し嫌な気分にもなった。





遠く、遠く忘れていた記憶が蘇っていく。

もしくは、忘れようとしていた記憶も蘇っていく。








『愛した人』


『燃え上がる炎』


『楽しかった日々』


『葛藤した自分』


『別れの日』






とても他人事には思えないこの記憶が相手のものだと2人は気づく。










そして初めて顔を突き合わせたのだ。





少し恥ずかしいとい思った。


だが不思議と敵対心が湧いてこない。


お互いの表情が少し切なく見えたからだと思う。







「なんでそんな優しい人なのに、なんでそんな風に振る舞うんだ」


「私は・・・・自分が誰より弱いのを知ってる・・・・だからどこかで人を拒絶してるんだよ。また誰かを愛することがないように・・・」


「ヒトがヒトを愛するのはごく自然なことだ!そうやって交わって離れてを繰り返して人は成長していくんだよ!」



「わかってる!わかっていながら・・・・最愛の人を失った悲しみってのは自分が思っている以上に重たい!それがわかるのかいアンタに!」



「わかる・・・わかるよ・・・アイミさん・・・あなたは僕と一緒だ。」



「だけど・・・だけど!!」



「ああ、そうさ。多分、納得はできない。きっと・・・真実を知ったところでなにも変わらないかもしれない・・・だけど知るんだ!知らなきゃ・・・知らなきゃ前に進めないじゃないか!」



「前に進む・・・」




「そうだ!僕たちはどんなに苦しんでも生きている!」




「だがお前もその復讐にかられて生きているじゃないか!お前も前に進めていない!」




「違う!僕は知りたい!父さんと母さんが死ななきゃならなかった理由を!」



「お前も私も!復讐なしでは真実を追えない!お前と私は相反する運命だ!」



「アイミさん!聞いてくれ!!」




「気安く私の中に入るななァッ!!」




「違うんだァァッ!!」





ケイスが手を伸ばした先にはもう彼女の姿はなかった。




光は徐々に落ち着きを取戻し、やがて消えていく。

2機のMSが沈黙を破ったのはその後だ。




ギラ・ドーガがモノアイを光らせ、唸る起動音と共に、ガンダムを突き飛ばした。

アイミは気を失っていたような感覚にさいなまれていた。



「なんだ・・なんだったんだ今のは・・・・」




ケイスも同様だ。

ただ違ったのはケイスにはなにが起きたか理解できていた。





「アイミさん!待ってくれ!」




「なんだよこのガキ・・・」




「今わかったはずだ!僕たちは、わかりあえるって!」





ケイスはコクピットのハッチを開けて、そこから身を乗り出した。




「おまえは・・・いったい誰だ!ケイス・ケラ・デッセイ・・・・」

(なんで私は名前を・・・・・知っている?)



「アイミさんこんな戦いは終わりにしよう!僕と一緒に来るんだ!」



「だから何の話をしているおまえは!」

(なぜ私は今コイツを殺さない?!)




「あなたがジオンで地球に復讐することを・・・旦那さんは望んでないよ!」




「・・・・・??!!なんで貴様!!」




「離れろ!ケイスくん!」




コクピットから聞こえてきたのは、シャア・アズナブルことレグラスの声だった。

サザビーはビームライフルを放つ。

デルタガンダムにサザビーが接触した揺れが起こった。


その揺れでケイスはコクピットに転げ落ちる。




「レグラスさん!彼女は!」




「ケイスくん!彼女は危険だ!」


サザビーのバックパックからファンネルビットが飛び出す。



ハッと気づいたアイミはすぐさま操縦に戻り、バーニアを下方に向けて全開にした。


彼方へ消えていくアイミをファンネルが追撃するが、射程距離の外へ出たターゲットを追うのをあきらめたビットはすばやく帰ってきて、もとのコンテナに収納された。






ケイスは泣く。

あとほんのちょっとで届くはず、それが悔しくて泣いた。




「くそおおお!!!」






その様子を見ていたレグラスは不敵な笑みを浮かべる。





(いいぞ・・・すべにこの段階に来たか・・・・やはり君は・・・・・)



















つづく