ミスった...

完全なる大失敗...



「.....はぁ」


「.....もう少し、いっとく?」


カラになったグラスに冷たいビールが注ぎ込まれてく。白い泡と黄色い液体が シュワシュワ音を立てながら、絶妙な割合でグラスを満たす。


「.....まだわかんねぇじゃん?」


潤はそう言いながら、オレの背中にぴたりと自分の背中をくっつけてきた。


...どんな距離感なのよ?って、気持ちを言葉にする前に、触れてる面積から潤の体温が伝わってきて、なんだか心地いい。これが潤の慰め方なんだ。きっと。



グラスの中の泡が だんだん減っていくのをみつめながら、何も聞いてこない潤に、ただ素直な言葉がでてくる。



「.....眼中に無いって、顔されたのよ。」


「いやいや、びっくりしただけじゃない?」


「この人、なに言ってんの?って、顔よ?」


「...葵ちゃんもさ、テンパっちゃったんじゃない?まさか、社内のアイドル二宮さんに告白されるなんてさ。」


オレの顔を覗き込むようにして隣に座り、全力で慰めてくる潤をホント優しい奴なんだって思う。

このヒト、女の子だったら 絶対惚れてたなオレ。

潤の長いまつ毛を横から見ながら、グラスの中の液体を全て胃に流し込んだ。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


ホワイトデーのプレゼントを渡しながら、今度ご飯でもどうかと誘うつもりでいた...

それなのに、渡すタイミングがなくて 遅くなってしまったことに加え、声をかけた時のあんまりにもびっくりした顔に...焦ってしまった、、


さいあくだ...


「はあ...」


なんで抱き寄せたの?
バカなのオレ?

好きでもない奴からそんな事されたら、気持ち悪いしかないじゃない?

あげく彼女は 警戒心丸出しで...
オレの胸を押してきた。

まあ、、当たり前だ...


それから酷く頑丈なバリアをはられたみたいだった。今 そのバリアを壊さなければ、もう2度と彼女に話しかけることも出来なくなりそうな気がして...



そっからは、なに話したんだか...
全く覚えてない。


テンパってたのは、オレの方だ...



なんか カッコつけてウィンクした気もするし...
(自己嫌悪) 

なんか カッコつけて オレを見ろよ…とかなんとか、、ああ。マジ最悪だ。



明日 会社休んでいいかな。
(中学生か、オレは...)


でも...


「耳が真っ赤で 可愛い  って、どーゆーこと?」




思わず口からでてきた言葉に、潤がニヤニヤしだした。



「え♡ おい、なんだよ その最新情報は。そんな事、嫌いな奴に言うわけないじゃん。脈アリでしょ、どーかんがえても。」 


「ん、、ちょっと違う気がする。あれは多分、その場を切り抜ける為の優しい社交辞令。」


「そんな社交辞令あるかよ。」


「あんのよ。あの子、天然入ってんのかも...」


「.....にのぉ〜 葵ちゃんのことになると、どーしてそーもネガティブ思考なわけ?」



「.....ポジティブになる理由が、どこにもないのよ。悲しいくらい いっこも思い浮かばないんだから。」




この数ヶ月、彼女にさりげなく 好意を示しても、気付きもされず。その視界に留まることすらなかった。

彼女は 全くオレには興味ないんだろうと思ったけど、それと反比例するかのように 彼女を知れば知るほど オレの想いは募っていった。

もう...遠くからみているだけでは、足りないほどに。




潤がまた、背中に背中をくっ付けてきた。

なんとも言えない居心地の良さ。
ずっとこうして、潤に甘えていたくなる。



不思議な感覚だった...


潤の体温に癒されて、瞼をとじていた。




なんか、すげー懐かしい...

ん?懐かしい...?



なに.....が?



答えを探し出すより先に、溶けるような安堵感の中に落ちていった。