( 52の後、Kaede  side です。)




専務の部屋から秘書課へ戻ると…


秘書課内が ザワザワしていた。




その中心にいたのは、、飯田さんだった。




副社長秘書 吉村
「飯田さん、正直に言ってください。どうして、工藤さんに 会議の場所を抑えたなんて、嘘を言ったの?



飯田「……」



工藤「吉村さん 申し訳ありません。飯田さんは 派遣でも仕事のできる方だと思って 仕事を任せてしまって…私がきちんと確認すればよかったんです。飯田さん、吉村さんに ちゃんと謝らないと。あなたのミスなのよ?黙っているなんて…派遣だからって、責任感の欠けらも無いのかしら。困ってしまうわ。そういう仕事のやり方では…。先方にもどう話をされるつもりなの?」



飯田「工藤さん、私は…」



工藤「あら、怖い顔。まさか私があなたに申し送りしなかったとでも言いたいの? それに私に資料を渡したのはあなたよ。」 




飯田「…資料なんて、私、何も知りません。」




工藤「すごいわ。嘘をつくのが上手いのね。じゃあ、私が 吉村さんに嘘をついてるって言うの?酷いわ。責任転嫁しようとして。」 





傍に来て、状況を話してくれた佐藤さんと、目の前の3人の会話を聞いていれば、すぐにやるべき事は みえてきた。



厳しい顔をした2人に責められて、飯田さんは 今にも泣いてしまいそうだった。あんな責められ方をして、辛い気持ちはわかるが、、

今は、泣くべきではない。


それが例え 
ミスを擦り付けられているのだとしても。


いや、、ミスというより、、
仕組まれたことなのかもしれない。

だとしたら尚更、泣いてはいけない。



でも何故?…飯田さんに?


1ヶ月前に、と話していたから…
専務との事以外でも 工藤さんは 何か企んでいるのだろうか。



工藤「…ちょっと 黙ってないで、何か言いなさいよ。副社長に迷惑をかけているのよ。あなたのせいだと、自覚あるのかしら?それとも、派遣だから 辞めれば済むとでも? 本当にいい加減な人ね。」 



工藤さんの責め立てるような言い方。
…好きじゃない




吉村「…でも、工藤さん…あなた、、」




飯田さんの隣に行って 
2人に向かって頭を下げた。



楠「吉村さん、工藤さん、お話は聞かせていただきました。今 飯田さんには、専務秘書をしていただいてます。代わりに私が飯田さんの仕事を引き継いでおりまして、今回のこと、全く気付かず大変申し訳ございません。すぐにフォローに入らせていただいてもよろしいでしょうか?飯田さんには今日中に 詳しく話を聞いて 今後このようなことのないよう2人で対策を立て、後程 ご報告させていただきます。今は 何より先にしなければ ならない事があると思うのですが…仕事に取り掛かってもよろしいでしょうか?」   



そう話し、吉村さんの顔を見る。

工藤さんが 驚いたような顔で私を睨んでいるのは、気にしないことにしておこう。




吉村「…そうね。でも、任せて大丈夫かしら? 会場に心当たりはある?…明日よ?」



楠「はい。…お任せ下さい。」



自信たっぷりに微笑んだ私を 吉村さんは じっと見つめ、




吉村「分かったわ。じゃあ、報告待ってますね。…飯田さん、直接確認もせずに あなたに任せきりにしてしまって…私も悪かったわ。ごめんなさい。」




飯田「…いえ。そんな…。」




吉村「楠さん、人数や取引先の詳しい資料をすぐにメールで送りますね。」 




楠「はい。至急対応させていただきます。副社長は 今日は…これから いらっしゃいますか?」




吉村「今日は、ずっと会社にいます。私も 明日の会議の資料を見直したりしていますので。」




楠「…わかりました。」




頭を深々と下げる。


吉村さんと工藤さんが 部屋から出て行った。




飯田「楠さん、、わたし…私は、、」


飯田さんが 何を言いたいのか分かっている。
でも この場では…言わない方がいい。

飯田さんの手を 握った。


楠「飯田さん、、分かってます。大丈夫。この件は 私に任せて。早く専務の所へ戻らないと…あなたの仕事があるはずよね?」



飯田「…はい。…よろしくお願いします。」




飯田さんが 涙目になりながら部屋をでて行った。何処かで…泣いてしまうかも…

一緒にいてあげたかったが、フォローする方が先決だ。その方が飯田さんも安心するだろう。




会議と、その後の会食の場所…も。

専務が懇意にしている所から、あたってみよう。それ以外にもいつでも利用できるよう調べて ピックアップしている場所も何ヶ所もある。

吉村さんからのメールを受け、人数や距離、交通機関などを考慮し、場所を決め、すぐに連絡する。専務が懇意にしているからだろうか、急な申し入れにも 快く対応してくれた。



吉村さんに場所を抑えた事を電話で報告し、確認をとってから、取引先 数社へ連絡をし、遅れたことへの謝罪と会場の詳細を告げ、メールで送った。



関連業者全てに連絡をいれ、席を立った。


時間にして、30分は 経っていない。すぐに副社長に謝罪と吉村さんに報告しに行こう。


立ち上がると、上田さんが私をみた。


「副社長の所へ行ってきます。すぐに戻ります。」



「…行ってらっしゃい。」




部屋を出る時、佐藤さんが 携帯片手にアイコンタクトを送ってくる。



…笑って頷いた。


飯田さんに連絡して、安心するように言ってくれるはずだ。







副社長の部屋に行く。


吉村さんが、すぐに出て来て



吉村「…楠さんって、やっぱり凄い人ね。」



楠「いえ…そんな。こちらは 会場の資料です。それと先方にも全て電話連絡とメールを送りまして、ご了承いただいてますので、ご安心ください。」



吉村「えっ。。まさか …それを全部? こんな短時間で…」



楠「はい。あと、その後の会食の場所のリストです。和洋中、お好みがあるかと思いますので、それぞれ調べてあります。」



吉村「……ありがとう。これから やろうと思っていたの。助かります。」 



 奥の部屋のドアが開き、



副社長「楠さん、今回のこと吉村から聞きました。いや、それにしても、びっくりしてるよ。君は凄い人だね。…楠さん。」




楠「いえ。そんなことは。。副社長、この度は、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」




副社長「…いや、お陰で君の手腕を拝見できたからね。それにしても…あの櫻井が べた褒めするだけあるね。とんでもない仕事の速さだ。ハハハッ〜」 



楠「//////////えっ。。」



副社長「そうだ。君にお願いしなければいけないことが、もう一つだけあってね。」




楠「はい。」




副社長「もうすぐ派遣の契約が切れるみたいだけれど、正社員として 櫻井の秘書になってもらえないだろうか?君が契約満了で辞めてしまったら、櫻井がまた前のようになってしまうような気がしてね。だから説得して欲しいと、生田くんに頼もうと思っていたんだが。…僕の方からもお願いしておこうかな。」




楠「…ありがとうございます。身に余るお話、よく考えてからお返事させていただいてもよろしいでしょうか。」




副社長は にこにこ笑いながら、
「 ああ、もちろん。よく考えてくれ。…櫻井には、君が必要なんだ。彼の顔をみていれば、わかる。」




楠「///// 」 



…恥ずかしくて言葉がでてこない。副社長は、まるで、専務と私の関係を知っているかのようで…



まさか。専務!

副社長に 話を…?



副社長「…じゃあ、吉村さん。ちょっと社長のところへ、行ってくるよ。」



と 吉村さんに言うと、足早に行ってしまわれた。



吉村「…副社長は 以前から…。楠さんが専務の秘書になってから、専務が会社でも笑顔が増えたと同時に仕事でも 取引先にも柔らかな対応が出来るようになったと喜んでいらっしゃってたんですよ。だから、楠さんには 派遣ではなく、社員としてずっといてもらえないかと …専務にも話されてました。」




そんな話は聞いたことがなかった。

それに、私が知っている専務は ずっと…優しい。
誰に対しても。



私の考えていることがわかったのか、
吉村さんは


「…私は専務がまだ営業にいらした頃から知っていますけど、、いつもとても厳しい顔をして、自分一人で完璧に仕事をこなして、いつも営業成績はダントツの一番で。でも…個人プレーっていうのかな…他の社員なんて 足でまといみたいな…だから 部下に対してもだけど、、取引先も仲のいい方以外には、、冷酷な方で。…みんな常に専務の顔色を伺っているような雰囲気でしたよ。3秒でキレるドSの櫻井って…」




「……全く、今の専務とは違うので…想像が出来ません。それに、、私が来てから…ということではないのではないかと…何か他にきっかけが…」




吉村さんは 首を横に振った。



「楠さんが来てからですよ。…社長も副社長も、そう話してますし。私もそう思います。それに、、取引先でも有名みたいですよ。櫻井専務は 人が変わったようだって。楠さん、私も楠さんに辞めて欲しくないと思っています。専務の秘書が務まるのは、楠さんだけだわ。前の方が どんどん辞められてしまったのは 聞いてるでしょ?」




「……それは、、辞められた理由は、専務の厳しさのせいだったのでしょうか?」




「えっ。…うーん、、それだけではないかもしれないけれど…私が辞める理由を聞いた方は、専務の秘書はもう辛くて出来ないって…言ってたかな。あと……」



「…あと?」



「…工藤さん、、なんだけど。。」




「…はい。」




「 …今回のこと、詳しく話しますね。工藤さんに会議の場所を抑えるようお願いしたら、飯田さんと一緒にやりますって返事をしてくれて。それで、飯田さんが 場所を予約したって話を 2週間前位にしていたの。でも なかなか具体的なことを報告してこないから、聞きに行ったら、工藤さんから場所の資料を渡されて、飯田さんが 各所に連絡しているから任せて大丈夫って話をしていたの。」 




「…え。では、、」




「それが、今日になってクレームの電話がきて。確認しに行ったら、飯田さんは何も聞いてないって言うし。工藤さんは、飯田さんが 自分に全部嘘をついていたって言って。。」 




「そんな! 飯田さんが 嘘をつく理由がないと思います。」




「……私もそう思うわ。でも、どちらが嘘をついているかなんて、証拠は何処にもないでしょ?こういう事が起こって、疑われるのは派遣の方なのよね。なんの証拠もなく、副社長に相談するわけにもいかないし。」




「…そんな。……でも、確かに 客観的に見れば、工藤さんにも嘘をつく理由なんて、、ないんですよね。」




吉村さんは 困った顔をして、頷いた。







秘書課に戻る廊下を歩いてく。



工藤さんの やり方に腹が立った。

どんな理由があるにしても、自分の立場を利用して、人を陥れるなんて許せない。


吉村さんは、工藤さんのこと…
何か気付いているようだったけれど。

それ以上何かしようとは、思っていないみたいだった。



工藤さんは、今までの専務秘書や派遣の人達にも、同じようなことをしていたのだろうか。


それに、専務自身の厳しさが加わって…
辞める理由に繋がったのかもしれない。



でも、私が 知っている専務は…「冷酷」なんて言葉が当てはまるような人ではない。


私の知らない専務がいるのだろうか?



うーん…
どんどん 分からなくなってきた。






私には…
可愛らしい専務の顔しか

思い浮かばなかったから…