昼も大分過ぎた頃、斗真が来た。
他には客が一組だけ。

よかった。
…ゆっくり話せる。



和「いらっしゃい。」



雅「おっ!斗真。久しぶり〜」



斗真「相葉ちゃ〜ん。ご無沙汰しちゃって…オレ、メシまだでさ。…雅紀スペシャルいい?」



「…その裏メニュー、もうやってないのよ。」



「えー。オレ楽しみにして来たのに!」



「いいよ、いいよ。作るよ、オレ。…久しぶりの雅紀スペシャル、腕ふるってつくるから 待ってて。」





まーくんは、斗真に甘い。

あの裏メニューは、斗真の好物てんこ盛りなんだ。雅紀スペシャルというより「斗真スペシャル」だ。



「…で、、」



「…持ってきたよ。個人情報だから、コピーは出来ないから。今見て覚えてくれ。」




データを送ってくれと頼んだのに、やっぱり個人情報だから、それは無理だと言って今日こうして持ってきた。


つーか、同じことじゃん?


ま、客商売してるから 人の顔と特徴を覚えるのは得意だから いいけど。



ファイルには9人の書類。 
楠さんのもあった。




「…派遣は 楠さんを除くと3人。このうち 楠さんより前からいたのは…ゼロ? 」



「ああ。楓より前にいた人は 契約満期で全員辞めてるから。」



「…じゃあ、この派遣の3人…飯田、佐藤、林 は、除外ね。でも 飲み会には 来るんでしょ?」



「幹事に確認した。派遣は全員くるって。社員は、みんな保留にしてるらしい。当日にならないとわからないって…」 



「…なるほどね。」




楠さんを除く、8人の顔と名前と趣味、特技なんかを頭に入れてく。



「…問題は 社員か。ん?…この2人は 社長と副社長の秘書なの? 」 




「そう。2人とも長いよ。もう5年以上じゃないかな。」




「…んー。この2人は、外して考えよっか。ずっと社長とかの傍にいるんじゃないの? 翔さんと楠さんみたいにさ。」




「うーん、、でも 打ち合わせとか 仕事の振り分けの話とかで、秘書課には よく行くんじゃないかな。一人で手が足りない時は、他の社員に頼んでるから。」




「んー。でも確率は低いね。多分。」




「え? なんで?」




「…この2人は 『専務秘書』より上のポジションにいるわけだから、翔さんの秘書をいじめて辞めさせても、自分が翔さんの秘書になるわけじゃないじゃん。でも、、嫉妬なら、、わかんないか……加担してるかもしれないし、、じゃあ、保留ね。この2人は。」




「…」




「…残りは この 工藤、馬場、永岡の3人か。すげー絞れてんじゃん。つーか、複数犯なら 3人でやったんじゃない?」



 
「んー。あ、工藤は 営業部長の秘書だから、、除外でよくないか? 2人、付き合ってるみたいだし。」  




「…ん、、工藤って人が 営業部長の秘書になったのって、いつから?」




「……うーん。確か、、翔くんが 専務になった時は、最初工藤が秘書だったんだ。少しして、、翔くんに、、秘書を変えてくれって言われてかなり無理に変えたんだったなぁ…」




「…翔さんが? …無理にって、理由は?」




「うん。…なんか、、嫌ってたな。やたら誘ってきて、ウザいって。」





はぁ…
能天気なやつ。

逆に なんで今までわかんないわけ?


おまえのその端正な顔立ちは、頭脳とは連携しないわけ? 翔さんみたいにさ。


空腹なのか コップの中の氷を口に含み ガリガリ齧る唇が濡れて赤く光っている。




オレの視線に気付くと…



「ん? なに? どした?」



「………斗真、ドンピシャじゃん。この『工藤』って奴だろ。」



「へ? なんで?」



「…やたらと誘ってくるってことはさ、翔さんのことが好きなわけじゃん。でも、翔さんにはウザがられて、相手にもされない。挙句の果てには 秘書外されたんでしょ。恨んでんだろーね。翔さんのこと。…逆にこいつ以外考えらんないじゃん。あとの4人は 手 貸したか、貸してないかだけだろ?」




「…いやいや、でもさ〜ニノは工藤さんを知らないからさ。…虫も殺せないような可愛らしい女の子だよ? 大学までずっと女子校で 最初は男の人怖かったんです…って、言ってたし。」  




「……そんな奴が 男誘うのかよ?…騙されてんのよ、おまえ。」




「そんなことねぇよ。翔くんのこと初恋とかでさ、真剣に告ってたのかもしれないし。翔くんには それが重くて迷惑に感じただけかもしれないじゃん。工藤はさ、いつもニコニコしてて 結構人気なんだぜ。可愛いって。営業部長とのことも誰かが聞いたら、顔真っ赤にして 否定も肯定もしないって。それがまた可愛いってさ〜」




何回 可愛い 言うのよ?
外見の綺麗さは写真を見ればオレにもわかるし。




「…彼女と話したの、いつよ?」




「 会えば軽くは話すけど、、会話っていう会話したのは…前前回の飲み会の時だから…一年前くらいか。楓が来る少し前…」




「…それって、いじめ事件 調べてる真っ只中だろ? …完璧探り入れてきてんじゃん、おまえに。」




「……マジで?……いや、ないない。んなわけ……」 




いきなり顔を曇らせて 考え込む わかりやすい奴。斗真からなら 聞き出しやすかったよな。
…工藤も。




「…心当たりあんだろ? その沈黙はさ。」 




「は〜い。お待たせ。斗真の好きなものセット。久しぶりだったから、材料なくて ちょっと変えてるけど。」



まーくんのあったかい笑顔が添加された 
あったかいメシが 運ばれてきた。



斗真は、、パッと笑顔になると…



「おーうまそー。いただきまーす。」



パクつきだす…





「…… はぁ。」



思わず漏れた溜め息に、斗真が口をモグモグさせながら話し出す。



「ニノ〜。すげ〜わ〜。頼りにしてるよ〜。でもオレ、全然気付かなかったわ! ちょっと今日 探り入れに行ってみるよ!」




「あーー。ダメダメ。絶対やめて、それ。」



「え?なんで?」



「却って 警戒しちゃいそうだから。」



「大丈夫。上手くやるから。」




「はい、無理。…マジでやんなよ。飲み会来なくなるぞ?」




「…わかったよ。…なんか、オレも手伝いたいのにさ。」





「それなら、楠さんとなるべく一緒にいた方がいいんじゃない?帰りとか 一人にしない方がいいよ。って…翔さんが 一緒か!」




「いや、今 楓、翔くんとは離れて 秘書課に行ってるんだけど…それがさ〜聞いてくれよ!翔くん 楓にボディガード雇ったんだよ〜」




「へっ?」
「えっ?」



斗真が 楠さんが秘書課にいるワケと、翔さんがボディガードをつけた話を楽しそうに話していた。





でも…
翔さんが、そこまでするってことは…



危険だ…と

判断したんだろう。




工藤舞香



彼女の裏に何があるのか…
ただの、女じゃない気がした。