「…で、なんで今まで 教えねーんだよ。」



斗真に 連絡を取ると、会社を出たというから
風間の店に誘った。


病み上がり…というより、まだ微熱はあるかもしれないけれど、、

酒は頼まず、体に良さげな野菜スープだけ頼んだ。



「いや…だって、、翔くん 聞かないから…」



楠と斗真が 幼なじみだという事実を 
今、、知った。



…聞かないから…って、、聞くかよ 普通。

新しい秘書とおまえの関係性は? …って?

聞かねーし。



「…風磨が おまえの知り合いだって 言ってはいたけど…プライベートな知り合いなんて 思わなかったし、楠も…一言もそんなこと言わないしさ。」



「楓は、、なんか…色々あったみたいでさ。ちょっと…プライベートな話、したくないんじゃないかな…」




楓…     呼び捨てかよ!


……って、、幼なじみ…か、、




「…色々って?」



「…… オレも詳しくは 聞いてないんだけど…って、、何? 翔くん、、やたら楓のこと気にしてるよね? っていうかさ、ホントに 二人、付き合ってるとかじゃないの? 猫拾ったから、世話してるとか よくわかんないこと 楓が 言ってたけどさ〜」



気楽に、、付き合う とか…言うなよ!




ちょっとまて……



斗真は、、旦那に… 会ったことあるのか…?




「…斗真さ、、楠の…旦那…って、、会ったことあるのか?」 



思いっきりさり気なく、
なんてことないように聞いたつもりが、



「………翔くん、、マジ  なの?」



「…は? ………なにが?」



「…楓に、惚れてんの?」



「…いや、、、まさか……楠は、結婚してるんだからさ…」




こういう時、上手く嘘が付けない自分が情けない。動揺しまくってるオレをみて、斗真が呆気にとられた顔をしている。




「…超現実主義の品行方正の翔さんがね…道ならぬ恋しちゃったんですよ。ね?…翔さん。」




突然、背後から 聞き覚えのある声がして…
振り返ると…





ニノが …いた。



「…たまたまメシ食いにきたら、風間が 奥に翔さん達来てるって、教えてくれたからさ…って、斗真、最近 全然 店 こねーじゃん。」



ニノは、斗真の隣に スッと…座った。


斗真とニノは 知り合いだ。

というより、斗真は 前は オレより「にのあい」の常連だったはず。



「あー。忙しくてさ〜。元気してたか?」



「んー。まあね。…それより 2人で 集まって、作戦会議? 楠さんの鉄壁を打ち砕く…」




「ちょっと待て! えっ? ニノも 楓のこと 知ってんの? 」




「ん。翔さんが 店に連れてきたし。」




「…店って、、じゃあ…やっぱり、、 翔くん、マジで 楓のこと…」




「いや、オレは 別に…」
「惚れてるんだよ、もうずっと。」




「ニノ!」




ニノを 睨むと



「…話をややこしくするのは、翔さんの悪い癖ですよ? 」




それ、おまえに言われたくないぞっ!!




「とーま、、楠さんって本当に結婚してんの? 翔さん、ずっーと、それで悩んで胃に穴あきそうになってんのよ。」 




斗真が 神妙な面持ちで



「…翔くん、、ごめん。……楓は 独身だよ。結婚してるって 嘘つくように話したのは、オレなんだ。」 




「…」
「…」





ニノと 顔を見合わせる。



ニノは、やっぱりね…と、でも言うように
口角をあげて 微笑んで…



「…でっかい 壁が、崩れましたね?  もう誰にも遠慮しなくてもいいし。というより、抑え…効かなくなってきてたんじゃないの… 翔さん?」 



おっしゃる通り…な、ニノの言葉も耳を通り抜けてく。



頭が 真っ白になって…る


結婚   して ない?



はあ?   




「…なんで?  そんな嘘を…?」




絞り出すようにしてだした声は、掠れて…
ニノが 心配そうな顔して、オレに代わって質問を続けた。




「…斗真が、嘘つくように言ったってことはさ…もしかしたら、、翔さんの今までの秘書達が辞めたことと関係あんの?」





斗真は ニノをじっと見て、それからオレを見た。そして、周りを気にしながら、声を潜めて話し出した。




「…ああ。楓が来る前、翔くんの秘書が辞めていったでしょ。あれ、イジメが原因かもしれないんだ。」 




「…イジメ、、、」 




「…やってる奴が誰なのか、分からないんだけど。最後に辞めた秘書が少し話してくれて…」 




「辞めた…5人、全員か?…オレは、理由聞いたけど、そんなことは 誰も…」




「…全員かどうかは わからないけど、、口止めされてるんだって言ってた。もし会社の人間に話せば 辞めた後も、、狙うって。オレも色々調べたんだけど、誰なのか全然わからなくて。その彼女曰く、何人かで用意周到にヤルらしくて…防犯カメラの位置まで把握してて 誰がやってるのか特定が出来ないようにしてるらしいんだ。」




「…辞めてまで、報復を恐れるって…余程だよな。生田、なぜそんな大事なこと、今まで オレに話さなかった? 」




語尾を強めた。
いくらなんでも、報告されて然るべき。




「…オレが聞いた秘書は一人だけだし。…証拠もないし、色々調べたけど、誰がやってるのかも結局わからなくて。だんだん、その話に 信憑性あるのかすらわからなくなってきて。で、、その後、月ごとに秘書 交代させたら、誰も辞めなくなったからさ。ますますわからなくてさ。このままで いいかと…思ってたら、翔くんから 月替わりは 嫌だと…」





はぁ…


溜息しかでない。


今までの秘書達が イジメを受けて辞めたのを知らずにいただなんて、、、情けない。



でも、、待てよ。それなら…




「…で、楠さんを既婚者ってことにして、秘書にさせたってこと? 」




「…専務秘書にだけイジメがあるなら、明らかに 翔くんに対する女の嫉妬だと思ったから…結婚してるといえば、狙われないかと…思って。それに、」





「待て。斗真。」




「…」




「今の話なら、今までは 大丈夫だったってことだろ?おまえの狙い通り。」




「…そう。」





「…じゃ、先のメールを送ってきたのが、そのイジメをしてた人間なら…」




「…マズイよね、、オレもそう思った。」




「…まずいじゃねーよ!」




楠に なにかあったら…


それに、、なにかあっても…
楠は オレには絶対に 言わないだろう。




「…楓は、結婚してると嘘をついて 油断させて、誰が首謀者が調べるって 言ってた。けど、楓自身がなにもされなくて…調べようがないって…色々探りはいれたみたいだけど、、」




「斗真、おまえ 幼なじみの楠を よくそんな悪の巣窟みたいなとこに行かせようと思ったな。心配にならなかったのか? 逆に めちゃくちゃヤラレてたら、どーすんだよ!」



「…オレも最初は反対したんだ。でも…楓がさ、どうしてもやりたいって言ったんだ。」




「…楠が?」




「…楓、前の職場、、嫌な事があって…辞めて実家に帰ってきてて。秘書のこと話したら、自分が 辞めたことと、重なったんじゃないかな……出来ることがあるなら…力になるって言ってくれてさ。秘書課で 本当にイジメがあるか調べてみるって。正社員を断って、契約社員になったのも、その方が動きやすいからって…あいつ、昔っから正義感強くてさ〜」




楠が、菜月が屋上に閉じ込められた時の対処の機敏さを思い出した。


あれは 森村の女で、秘書課のヤツじゃなかったけど…


楠は、菜月を 常に見守ってるみたいだった。


秘書課の誰かに ターゲットにされて、
いじめられないように 監視してたってことか…


オレの恋人だと思って…
守ろうとしてくれてたんだ…よな



ふぅ…




「…翔さん、溜息ついてる場合じゃないよ?…で、、とーま。そんなことをオレに聞かせたのには、何か理由があるの? それに、メールって なに?」





ニノが つまみを口に運びながら、斗真に聞いた。