ホームセンターの中にある ペット用品売り場にいくと、多種多様なものが置いてあった。

今までは 目にしていてもまるで脳内に入ってこなかったモノたちが、急に興味深いモノに変貌するんだから人間なんて 勝手な生き物なんだと思う。



…棒の先にひも、、ひもの先にネズミがついてる?…釣竿みたいな…? なんだ?コレ?




「猫じゃらしですよ、猫と遊ぶ時に使うんです。」




楠が すかさず 解説してくれる。



「ほおー。じゃ、、コレは?」



「…トイレの砂です。」 



「固まる…って、書いてあるぞ?」



「…オシッコした部分が固まって 後処理しやすくなってるんです。」



「へー」



「…専務、、あ…櫻井さん、、やっぱり呼びづらいな…」



『専務禁止令』を また 出していた。


そうすることで楠の中から…
『専務』が消えればいいって気持ちが

……何処かにあった。




…諦めの悪い自分に、我ながら呆れてる。



結婚してる女性を 好きになってどうする?

楠を 旦那から奪い取れば 満足するのか?

いや、、違う。




ただ、、楠と…一緒にいたいんだ。



会社だけじゃなくて、、
こうして 休みの日に一緒に買い物したり
メシ食ったり…同じ時間を共有していたい。



オレをみて…笑っていて欲しい。

そして一緒に 笑っていたい。







だから それが   



 …ムリなんだって…




楠の隣にいるべきは   
…オレじゃないんだから





思考が 渦を描いてく。


否定して  …望んで

望んで   …否定して  と、、



「 はあ…」




大きな溜息をつくと、楠が心配そうな顔でみてくる。




「…すみません。。猫…やっぱり負担ですよね。ごめんなさい。何から何まで 専…いや、櫻井さんに任せるようなかたちになって…」



オレの溜息を勘違いした楠が 謝ってくる。



「…んなこと、考えてねーから。気にすんなよ。もうとっくに 飼い主になる準備は できてっから。」



「…えっ、、猫のことじゃないんですか? じゃあ、、、あ…片思いの…」



楠から視線を逸らした。
…認めたようなものだ。




「…」 



「…」




ふたりで 暫し無言になった。


そのあとは、猫を飼うのに必要なモノを
楠に選んでもらい買い物を終了させた。



車に戻り 病院に電話をすると、念の為 診察時間ギリギリまで点滴をしたいから 20時くらいに迎えにくるように言われた。どうやら オス猫の方も 落ち着いたらしく、2匹とも ご飯も食べたと聞いて 安堵した。



「よかったですね。」



「ああ。…まだ時間あるし、、夕飯 一緒に食わねーか?」



「…あ、はい。じゃあ…」



「 『にのあい』に 」




ふたりの声が重なって、、思わず顔を見合わせて笑った。



「…気に入ってくれたみたいで よかったよ。」



と 言うと…




「…ええ。なにより、二宮さんと相葉さんといる時の専務が 楽しそうですし。」



「…『専務』!」



「…今は 誰もいないじゃないですか。」



「…会社以外は 禁止な。」



「…はい。」




『にのあい』 に着くと、結構混んでいて、
カウンターの隅に 案内された。



「楠さん、また来てくれてありがと〜」



ニノが 楠に 営業スマイルを浮かべ
オレには ニヤニヤしながら、ヒジでツンツンツンツンツンしてくる。



「なんだよ?」




「…今 忙しいんで。翔さんの相手出来ないから、オーダーの時だけでも相手しとこうと思って。…飲むの?」



「いや、車だから。」



「ん。じゃ、テキトーにね。…楠さんは、好き嫌いはある?」



「いえ。特には…」



「じゃ、お任せってことで。」




ニノは すぐに 行ってしまい、厨房の雅紀に何か言っているようだった。



「…いつもお任せなんですか?」



「忙しい時は オレ、客扱いされねーんだよね。食べ物の好みも把握されてるし。」



「ふふふ…本当に仲がいいんですね。」



「…だな、、、ん…なんか食べたいもんあった?」



「大丈夫です。…逆にお任せは、何がでてくるのか楽しみです」



柔らかく微笑む 楠をみて、
胸がキリキリと…悲鳴をあげる。




この幸せな時間も もうすぐ終わりだ。


あさって、、月曜になれば 
いつも通りの楠に なっているんだろう。




仕事関係なく、2人きりで 食事をするのは 
最後になるかもしれない。



そう思ったら、
この時間を大切にしたいと心から思っていた。