大メジャー作家の偉大なるリスペクト漫画!!高橋留美子先生の笑う標的 | きたがわ翔のブログ

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2018年初っ端の漫画コラムは今や日本を代表する大巨匠のひとり、高橋留美子先生でいっちゃいますよっ!!!!

 

 

 

読み返しすぎてさすがにボロボロですが....

 

 

私が高校生の頃、同年代の主に少年漫画家志望者の恐らくほとんどすべてが留実子先生のファンだったのではないか?というくらい、彼女は特別な漫画家でありました。

御多分に漏れず私も大ファンでありましたが、あまりにもまわりに好きな人が多かったために逆に漫画家としては影響を受けるのをためらったくらいです。(なにそれ)

特にうる星やつらのラムちゃんの存在感はものすごいものがありました。当時の可愛い漫画のヒロインはほぼタレ目に描かれておりましたが、その全く逆を行くルックスでありながらも一般読者からオタク、男子からも女子からも圧倒的に支持されるその振り幅の広さときたらそりゃもう!!だいたい男女両方からまんべんなく好かれるヒロインって描けそうでなかなか描けるものではないんですよ!!双璧をなすのは再ブレイク真っ只中のはいからさんが通るに出てくるヒロイン紅緒さんくらいではないでしょうか?

 

その振り幅が広すぎるあまりに初期のコミケではラムちゃんの裏本(うひゃあ!!)までもが大流行!!まさか表の人気にとどまらず、う....裏世界までも制覇してしまうとはっ!!(こらこらこらっ!!)

 

 

そんなわけで(どんなわけだっつの)今回は私がその昔繰り返し繰り返し読んでは素晴らしさにため息ばかりついていた、るーみっくわーるどの中から留実子先生が最も趣味に走っているであろうと思われる佳品であり、私が好きすぎる笑う標的について語ろうと思います。

 

 

おおお!!シリアス!!

 

 

突然ですが、現在活躍中の漫画家の中で一番石ノ森章太郎先生の後継者に近い漫画家って一体誰だと思いますか?

 

独断と偏見で言わせてもらうとするならば、ひょっとするとそれは高橋留美子先生ではないかと思うのです。

 

確かに彼女のデビュー当時の絵柄は石ノ森先生に近かったし、デビュー作の勝手なやつら(名作!!)からはじまる”やつら”タイトルが石ノ森先生の気ンなるやつらをリスペクトしているのも明白な気がしますが、私が指摘したいのは正直そこではありません。

さーてさて、彼女の一体どこが石ノ森先生的なのか?

 

 

それを説明するにはまずここから。私は手塚治虫先生後期の大名作、ブラックジャックの大大ファンでありますが、青年誌に発表された高橋留実子劇場等を読むたびに毎度毎度その構成力の完璧さ、コマやセリフの無駄のなさにほとほと感心し、こ...このレベルはまるでブラックジャックのそれではないかっ!?と叫びつつ同業者として自分の才能のなさにほとほと落ち込んでばかりおりました。えっ?それじゃ留実子先生は手塚先生の継承者なのかって??

 

ノンノン。(ムーミンか!!)

 

 

今更私が言うまでもなく手塚先生ときたらそりゃもう稀有な大大大天才でありますが....

右の天才を手塚先生とするならば、左の天才は恐らくつげ義春先生。

右をメジャー、左をマイナーと言い換えても良いかもしれません。

手塚先生が緻密な構成力で無駄なく読ませる漫画家の最高峰だとするならば、つげ先生は詩的なセリフ、感覚的な表現で読ませる最高峰の漫画家であるということに異論はないかと思います。そして石ノ森先生はその両方の作風からバランス良く影響を受けた(両方に果敢にチャレンジした)まるでダ・ヴィンチとミケランジェロをうまくミックスさせたような作風で知られたイタリアルネサンス期の三大巨匠の一人ラファエロのような漫画家だと思われるのです。

COMに連載されたジュンなどはまさしく石ノ森版ネジ式と言ってもよいのでは.....(強引ですかね??)

 

高橋留美子先生はメジャー作家として完璧なる手塚的構成力と省略法を操りながらも、一方でとある偉大なマイナー漫画家(マイナーと言い切るには語弊があるかも?)の大リスペクトをちょこちょこされているのです。その漫画家とは....かのミュージシャンズ・ミュージシャンであられる諸星大二郎先生。えっ?それじゃ留実子先生は諸星先生の後継者なのかって??

 

ノンノン。(しつこい)

 

実際留実子先生が諸星先生の大ファンであり、うる星やつらの諸星あたるが諸星先生の苗字から取られているというのは業界内ではかなーり有名なお話であります。

 

留実子先生はサンデー誌上でメジャーな作品をガンガン発表しつつ、一方ではマイナーな諸星イズムを爆発させた読み切り作品を次々と発表していたのでした。炎トリッパー、闇をかけるまなざし(これは大友先生の童夢っぽかった?)、忘れて眠れ等々.....(ああもうタイトルを並べただけで号泣しそうですよ!!)そういったあくまで”流れ”を踏まえて考察すれば留実子先生が手塚先生よりもどちらかというと石ノ森先生寄りなのが多少はお分かりいただけるかと思います。(まあ、手塚作品にも黒手塚と呼ばれるブラックなものがありますが....)

 

 

閑話休題。

 

 

笑う標的は少年サンデー増刊号1983年2月号に掲載され、87年にはOVA化もされているホラー作品であります。

初出で初めて読んだときは色々な意味でものすごい衝撃でしたがややストーリーが分かりにくく、留実子先生自身もそれを思ってか単行本収録時にセリフやシーンの追加など、かなりわかりやすく手直しがされています。

 

 

以下簡単なあらすじをば。

 

主人公志賀譲の元にいとこであり自身の許嫁でもある志賀梓が田舎からやってきます。

 

幼少期の譲と梓。そういえばこの2コマ目の梓等、当時の留実子先生の女の子の描き方にどこか

大島弓子先生の影響を感じるのは私だけ?

 

成長して美しくなった梓。

 

 

譲には現在里美という同じ弓道部の彼女がおり、梓との婚約も過去のことだと無視していたのですが、美しく成長した梓は幼少の頃から一途に譲だけを想い続けていたのでした。

 

譲の心が里美にあると知った梓は彼女に憎悪を抱き、邪魔者を排除するべく魔の力を借りて里美を消し去ろうとします。そして.....

 

 

魔をあやつる梓

 

 

留実子先生の作品の中では珍しい、女の情念がテーマのホラー作品であります。梓が譲を思うあまりにいつしか魔と手を組んでしまい最終的には消滅してしまうという切ない物語。クオリティもさることながら私がこの作品を猛烈に大好きな理由のひとつはこの作品から感じる異様なまでの濃厚な諸星イズムにあります。ほら出たクソオタならではの角度!!

 

 

私といえば授業中に寝ぼけておらもぱらいそさいくだ!(妖怪ハンター生命の木より)と叫んでしまったくらいのイタすぎる諸星マニアではありますが、留実子先生はこの笑う標的のなかで少なくとも私が探す限り3作品、緻密に組み合わされた諸星作品がまるで私のようなクソオタにどうぞ気づいてくださいといわんばかりに見事に挿入されております。それは諸星初期の名作である赤い唇、袋の中、不安の立像の3作品であります。

 

梓のファムファタール(魔性)なキャラクターはそのまま赤い唇の月島令子であり、彼女が与えたものを何でも食べてしまう魔的なものは袋に入った謎の生き物であり、不安の立像に出てくる影法師(餓鬼)であるのです。こう言ってもほとんどの方がわからないと思うので....以下画像付きで細かく説明していきますね。

 

 

幼少期、自分にいたずらしようとした少年を石ころで殴り殺してしまう梓。

その時あらわれたネズミのようなもの(魔)が少年の遺体を食べつくし、

証拠隠滅の手助けしてくれる。

 

それ以来梓は自分にはむかうものを次々と殺しては魔に後始末をさせるようになる。

 

諸星先生の袋の中より。袋の中に潜む魔的な生き物にエサを与えるとガツガツ

何でも食べてしまう。与えるエサはどんどんエスカレートしてゆき....

 

梓があやつる魔はおそらくこの作品からヒントを得ていると思う。

 

梓にまとわりつく魔に対し、屍肉を待っている餓鬼だと言い放つ母親。

 

諸星先生の不安の立像より。線路で轢かれた死体の屍肉を貪り食う影法師を見て主人公がつぶやいた一言。

.....餓鬼.....

 

譲の放った矢が刺さり、梓の口から魔の正体であろうものが抜けて行くシーン。

 

 

諸星先生の赤い唇より。月島令子を操っていたものの正体、赤い唇が彼女から離れて行くシーン。

 

 

ど....どうですか!?この絶妙なリスペクトォォ!!!!

 

 

その昔キャンディキャンディを読み、原作者の水木先生がこれを書くにあたり世界児童文学の名作であるハイジと小公女セーラと足長おじさんと赤毛のアンを片っ端からぶち込んでゆくその強引な手腕とサービス精神にむちゃくちゃ驚愕したことがありましたが、すでに大メジャー作家であった高橋留美子先生が別のフィールドでこういった遊びをさりげなくしているところが何とも嬉しいじゃありませんか!!どこか先生の余裕が感じられ、なおかつ大好きな漫画家への愛情たっぷりのリスペクト精神は当時の私を強く勇気付けてくださり、そのスタイルを真似て私も週刊連載をしつつ読み切り作品で趣味に走ったマイナーセンスの作品に挑戦したりなんかも....まあ少しだけですけどね。

 

それからしばらくして留実子先生はこれまた名作人魚シリーズを描き始めます...が、読んでこれまたぶっ飛び!!(死語)人魚の肉を食べ不老不死に変化する際、細胞の組織変化に耐え切れず化け物化してしまったなりそこないの悲しい姿は、諸星先生の暗黒神話に出てくる不老不死の泉に浸かって餓鬼になってしまった大神美弥の姿そのものじゃないですかっ!?ここにきてまたしても諸星パロディ行きますかっ!?っていうかその設定をさりげなく拝借してこれほどの素晴らしい名作を次々と描き上げる留実子先生のあっぱれな力量と一途なモロ☆愛の深さ(ここ重要)がまったくもって凄すぎです!!サイコーです!!でもって留実子先生や宮崎駿氏のようなどメジャーお二人にパロられる諸星先生もサイコーすぎです!!ああもうそれぞれのファンで本当に良かったぞ私!!ハアハア....(興奮しすぎ)

 

 

最後に紹介するこちらは高橋留美子展において彼女が愛してやまない諸星先生が描きおろしたというラムちゃんでございます!!も....もうここまでくると私、偉大なる天才二人の関係性に対し様々な思いがまるでBL好きの腐女子のごとく私の中で交差してしまい、涙なしにこの絵を見ることができません。あうう.....

 

 

素敵すぎます!!