東京大学などの研究グループが、森林で樹木が生息している土壌に微生物叢(微生物の集まり)が落葉を効率よく分解していることを実証したそうだ。

森林生態系では、地面に落ちた葉が土の中の微生物に分解され、そのプロセスでできた栄養分を根から木が吸収して成長するという循環がある。そして、落葉の分解スピードは、「温度が高い方が微生物が活発になる」「柔らかく栄養がたくさん含まれる葉だと分解されやすい」など、エリアの気候や落葉の性質次第で変わると考えられていたという。

一方で、樹木が生息している場所は他よりも落葉を効率よく分解するという仮説があるそう。ところが、微生物と落葉分解の関係性について、気候や土壌・落葉の性質などをすべて揃えた状態で野外で実証をするのはこれまで困難だったようだ。

埼玉県秩父市にある山では、高い標高のところでは常緑樹のコメツガ、低いところでは落葉広葉樹のイヌブナが生息しているという。東大大学院農学生命科学研究科の平尾講師らは、これらの土壌や落葉を交換して分解速度を調査すれば、部生物と落葉分解の関係性がわかるのではと考えたそうだ。

実験では、落葉や土壌の条件が可能な限り揃うよう、高標高と低標高の土壌をそれぞれ18か所から取り出し、1日の内に入れ替え移植を行ったとのこと。また、入れ替えと同じ分だけ取り出したものをその場に移植したそう。各土壌に乾燥させたコメツガとイヌブナの葉を置いて、117日後、376日後、527日後に重量を測り、軽くなった分だけ分解していると判断。

結果、コメツガとイヌブナの両方とも移植後に置いた環境と比べて、樹木が育っていた土壌であることが分解を促すと判明したという。
さらに、コメツガとイヌブナの落葉分解率の関係を調査したところ、各標高地に特有の菌がたくさんいればいるほど分解率が上昇することがわかったそうだ。

天然林では、シカが増えて下草が食べ尽くされ土壌が丸見えになったり、病気で枯死が拡大したりといった状況があるという。これらは、微生物叢に影響を及ぼし、落葉分解の進行を邪魔して循環に支障をきたす可能性もあるそう。
平尾講師は、「今後研究を進めていき、微生物と落葉分解の関係性が土壌の炭素蓄積に与える影響なども調べ、土壌微生物を含む森林保全を目標としたい」と話しているようだ。