以前、たまに近所で見かけて話をしていた男性Aさんがいる。

酒の飲み方が尋常でなく、本人になにか嬉しいことがあると、一週間ぶっ通しで飲み続けるのだそうだ。
普段は全く酒を飲みたいと思わないにも関わらず、嬉しいときだけ飲みたくなるのだそうだ。
その際、ひどい酩酊状態と体調不良に襲われるのだが、やめられないのだと言っていた。

ある時、Aさんとばったり会ったとき、顔面蒼白で瞳孔も白っぽく、眼球は黄色みを帯びていてびっくりした。

その時、Aさんが言った。
「飲むと気持ちよくなって、気付いたら包丁を首に当てていることがある。このまま死んでもいいなあと言う気持ちになって。でもすぐに我にかえって、こんなことはイカンと思い留まるんだ。」と。

僕は、これはAさん自身の邪気がやっているのではないかと思い、酒をやめて、他の楽しみを変わりに当て替えればいいのではと提案した。
Aさんもその時は「それはいいですね」と乗り気で、それで行こうとなってその場は終わったのだが・・・。

それ以降、Aさんとあった時の態度が著しく険悪になった。
上のことがあった数日後だったので「調子、良さそうで良かったです」と言うと、なぜか怒り出し「いや、普段通りだから。いつも飲んでるわけじゃないんだから。」と言い出す。

どうも、周囲の人たちは自分のことを酔っ払いのように思っていることに、ひいては、自分が正確に理解されていないということに怒っているようだった。

普段飲んでないのはわかってるけど、前に会ったときに酷い状態だったから体調が元に戻ってよかったと言ったのだと伝えても、何だか的を射ていないようだ。

自分が思うにAさんは、寂しいのだと思う。
それを拗らせた結果、会う人や話す人に対して粘着質になる。自分を理解していないと思うと過剰に反応する。

それは前から薄々かんじていたので、避けるようになっていたのだが。
それ以降、彼の表情は別人のように変貌し、暗澹としていた。うつ病を発症した人の顔に似ている。態度も威嚇的になっていた。

そのことについて考えを巡らせているとき、ふと分かった。僕が酒をやめさせようとしたからだと。Aさんの邪気を怒らせたのだと。

自分的には、このままだと彼はいつか自殺するのではないかと思い、酒でなく別の喜びに移行するように勧めたのが氣に障ったようだ。

要らぬことをしてしまったのだろうか。
もう酒のことは止めまいとすると、Aさんの邪気は納得したようだった。