イギリスにある海辺の町ブライトン。「フレッド」と名乗る記者チャールズ・ヘイルはその仕事中に「愚連隊」によって殺害されてしまう。物語冒頭で語られるこの事件は、ブライトンにおける悪漢たちの人間関係も不明である上、彼らとチャールズの関係も未だ分からないために筋を追うことが幾分難しい。

 

 しかし、亡きカイトから「愚連隊」のリーダーを引き継いだ17歳のピンキーが次第に物語の中心に浮かび上がってくる。カイトを殺された仇討ちにチャールズ・ヘイルが殺されたのである。元リーダーのカイトが死んだ後、「愚連隊」のまとまりが崩れていく中、実業家コリオニによって一帯が仕切られていく。なんとか対抗しようともがくピンキーだが、そもそものチャールズ殺害の隠蔽工作が非常に困難である。加えて、チャールズが死ぬ直前までそばにいた女性アイダが尻尾を掴もうと嗅ぎ回る。

 

 興味深いのは、ピンキーが名前ではなく「〈少年〉」と語り手によって示されることが多い点である。ピンキーという名前も明らかに愛称であり、一度も彼の本名が示されることはない。貧しい地域にあった家を出て、カイトに拾われる。いわば、貧困から生まれた誰かである。そんなピンキーには貧しい出自、両親(特に彼等の夜の営み)から逃れて自由になりたいという強い欲求がある。しかし、チャールズ・ヘイル殺害の隠蔽工作としてローズと結婚するが、彼女は奇しくも同じ地域の出自である。二人はそこで培われたカトリックの価値観をも共有する。

 

 ピンキーは悪漢として最後まで描かれるが、しかし、ふとしたときにローズへの愛情の萌芽のようなものが現れることがある。それはこれまで悪行に手を染め、愛情に接してこなかったピンキーには理解しがたいものである。結局、彼はこの感情を最後まで理解しないままだったのだろうけれど、それは彼が終始「〈少年〉」のままであったからなのかもしれない。「〈少年〉」ピンキーが成長し、愛情を理解することなく終わる悲劇がここにある。

 

(2024/05/15読了)