MacDiarmid, Hugh. ‘Annals of the Five Senses’, Annals of the Five Senses and Other Stories, Sketches and Plays, edited by Roderick Watson and Alan Riach, Carcanet, 1999, pp. 1-91.

 

 スコットランド作家Hugh MacDiarmidによるモダニズム作品。謝辞の中で述べられているように、心理の動きを捉えるための1つの手法として様々な文献からの引用に溢れている(4)。その結果、散文と韻文の別を問わず構成された物語は、断片の寄せ集めというべき代物で読解にはかなりの労力を要する。

 

 主要な登場人物はフリーランスのジャーナリストであるフレッドとモーガン夫人という女性である(2人の間になにがしかの関係性があるのかという点に関しては疑問である)。物語はときに緩やかな結びつきを見つけることすら難しい12のエピソードから成っているが、その多くがこの2人の意識に上る関心事の描写に費やされている。

 

 フレッドの脳裏に上るのは多く戦争のこと、さらには戦争文学の可能性である。テッサロニカの前線に従軍していた経験があるらしき彼の脳裏にはその頃の回想も立ち現われることからも明らかなように、彼にとって第一次世界大戦は忘れ難いもののようである。

 

 モーガン夫人の思考では息子の婚約者に対する理由の判然としない反感がその中心を占める。彼女の取り留めの無い思索の中を通じて、(身体的かつ社会的な意味での)女性性というものや、息子に対する近親相姦的な愛情などが露わになっていく。とりわけ、その中で彼女が自身の裸体を鏡の中に見つめていることは、自己と向き合う思考と並び合い示唆的である。

 

(2024/05/06読了)