ちびタンクのひとりごと -7ページ目

ちびタンクのひとりごと

大好きな旅のこと、心理学・スピリチュアル・ヨーガのこと、日々の気づきなどをつぶやいています♪

長くなったので2話に分かれています。


ーーー

【Day86 2025.11.28 タリファ→アルヘシラス 33km】


早く起きねばと思うと脳が早く覚醒してしまう。

時間はまだ早い。

身体はまだ寝たいと言う。

微睡の中、一つの問いが浮かんできた。


”私は誰?“


すると真っ暗な宇宙空間に放り出されたような不安定な感覚に陥った。

答えは出ないまま、浅い眠りが続いた。


午前5:30

目を覚ますと荷物を外に運び込んだ。

歩くつもりはなかったので、ベゴの住む町の朝市で大きなお皿を2枚も買ってしまっていた。

今日歩く道の途中に町はない。

買い込んだ食料を詰め込むと、バックパックは一際大きく、重くなった。


ウェイストポーチの一番外に入れたアクセサリーを身につけているときに、ピンバッチのキャッチが2つ転がっていることに気づいた。

一つはベゴがくれたカミーノ・モサラベのものだ。


まさか。


そう思ってウェストポーチの表を見ると、サラマンカでサイモンとお揃いで買った小さな黄色い矢印のピンバッチが失くなっていた。


もう一度ベットルームに戻り、ピンバッチが落ちていないか、ヘッドライトで確認する。

しかしそこには何もなかった。


はああ。

サイモンからもらったバッチ、ペンダント、ベゴにもらったカミーノ・モサラベのピンバッチ、サラマンカで買ったピンバッチ。

矢印を失くすのはこれで四つ目である。


なんでこんなに大切なものを失くすのか。

サイモンのことを言えた義理ではない。

あるいは、私は私が来た証として、各地に矢印を置いておきたいのだろうか。


タトゥーを入れたことに感謝した。

この矢印が失くなることはない。


出発しようというタイミングで、日中パソコンに向かっていてお兄さんが起きてきた。

私の格好を見て、”カミーノを歩くの?“と聞かれる。

”1日だけね”と答えた。

“アーリーバードだね。Buen viajeh(良い旅を)”

そう送り出されて宿を出た。


アーリーバード、他の人にも言われた言葉だ。

歩き旅以外ではことごとく怠惰な私は、そう言われると思わず否定したくなる。


午前6:15

外はまだ真っ暗だった。

町を抜け海岸と山の間くらいを抜ける。

外は満天の星空。

海の向こうにはアフリカ大陸の夜景が地平線を煌々と彩っていた。

アフリカ大陸はあんなに栄えているのか。

向こうからこちらを見るとどう見えるのかが気になった。


午前8:15

日の出を迎えた。

海から昇る日の出である。

それは夕日と同じ大きさのはずなのに、何故かとても大きく感じられた。

オレンジ色の強くて丸い光が徐々に姿を見せる。

しかし全部が姿を見せる頃には直視できないくらいの明るさになる。

あんなに暗かった空はもう、青くて美しい、清々しい様相を見せていた。

ついさっきまで見ていた星々も太陽も、こんなにはっきり存在を感じられるのに、それは想像を絶するほど遠くにあるのだと考えると、とても奇妙に感じた。

日本から見ればアフリカ大陸も地中海のこの海も遠い存在である。

しかしその距離の比較にならないほど遠くに月や星や太陽は存在するのだ。

私たち一人一人はいかに小さな存在であることか。

今朝、“私は誰?”という疑問が浮かんだことを思い出した。


午前9:00

12kmほど先の灯台のようなところで休憩を取る。

ここまでは一昨日も歩いてきた道である。

ここから先は山に入り、また海に出るというルートだ。

カミーノとしては逆走になるので、道を間違えないように気をつけたいところだが、この辺りは携帯の電波が入らない。

標識を頼りに歩くほかないだろう。


途中、犬の散歩の人や自転車の人に会うと、この道はアルヘシラスへ続くのかと確認した。

多少わかりづらいところはあったが、それを抜けると概ね一本道の道路になった。

歩きながらこの旅のいろいろなことが想起される。

もう終わるのだと思うと胸がギュッと痛くなることが何度かあった。

泣ければ良いのにと思うが、こういう時に涙は出ない。


午後3:00

チェックイン開始の時間と同時に宿に着いた。

アパートメントタイプのセルフチェックインの宿である。

オーナーとWhatsAppでやりとりして部屋に入ると、シャワーを済ませ下着と靴下だけ手洗いして部屋に干した。

歩き旅のルーティーンもこれが最後だ。


身支度を整えると外に出た。

アルヘシラスは思いのほか大きな港町だった。

位置的にはタリファの方がアフリカ大陸に近いが、船はこちらから出ているのか、黒人の人、そしてムスリムの人が多かった。


この町で私はどうしても行きたいところがあり、まずはそこへ向かった。

“Plaza Alta”

教会に面した町の中心にあるその広場は、ムスリム文化が影響していると思われる鮮やかな色調のタイルで彩られた椅子や塀に囲まれていた。

ここのどこにあるのだろう?

教会を目の前にするとその壁に、私が探していたものを発見した。


“PLAZA ALTA”と書かれたプレートの下に埋め込まれた青字タイル。

そこにはホタテ貝のカミーノのシンボルマークを囲むように上部にCAMINO DE SANTIAGO 、下部にVIA DE ESTRECHOの文字が刻まれている。

そしてその下には「KM 0」の文字が書かれた同じく青色のタイル。


それは思っていたより随分高い位置にあった。


私はそのタイルの写真を撮って、それから通行人にお願いして私がそのタイルを指差している写真を撮ってもらった。


そしてその2枚の写真を旅の家族たちに送った。

”My next starting point, maybe”と添えた。


ーーー

つづく