【Day83 2025.11.25 ベレス・マラガ→タリファ】
11月24日
パッキングをする私に、ベゴがこれはなに?と聞く。
それはカミーノのシンボルであるホタテ貝と一緒に、バックパックの脇につけたグッズについてだった。
一つは去年のfrancigenaでもらった小さな布切れ、一つはカーリーンがくれたお遍路の鈴。
それはカーリーンにとって大切な物だからと断ったのだが、どうしても持って行けというので、受け取ったものだった。
そしてもう一つは伊勢の猿田彦神社の一歩守だ。
彼女が興味を示した一歩守をベゴにあげたかったが、紐が入り組んでいてすぐに外せない。
ベゴは、カモンと言って私を玄関のポールハンガーのところに呼び寄せた。
そこには透明のビニールテープを巻いて紐を繋いだ段ボール辺が二つ、引っ掛けられていた。
段ボールには”just married”と書かれている。
ベゴは新婚旅行もカミーノだと言っていた。
二人はこれを掛けて歩いたのだ。
引っ掛けてある他のグッズたちも説明してくれた。
”これはマルセルにもらったの。“
それは美しいシェルのモチーフのペンダントトップだった。
スカーフにつけたピンバッチにはカミーノ・モサラベのものもあった。
“わー、カミーノ・モサラベね!懐かしい!”
私がそう言うと、ベゴはピンバッチを外して私に渡した。
”モサラベの記念、何も持ってないでしょ?“
タイミングは今だと思い、私はベゴに”私もあなたとマルセルに、ちょっとしがギフトがあるの“と言って、部屋の机にまとめていた荷物を持ってきた。
それはサンティアゴで買ったクレデンシャルと、カサレルで渡したかったトトロのピンバッチだった。
クレデンシャルには最初のページに小さな折り鶴を貼り付けて、Buen Camino from Shiとメッセージを添えた。
ベゴはトトロのことを知らなかったので、私はその説明に必死だった。
ピンバッチのニヤッと笑ったトトロの顔は、マルセルにそっくりで二人で爆笑した。
もう一つのピンバッチは小さな二人のトトロが上下に顔を並べているものだった。
大きなトトロがマルセルで、こっちが私ね。
そう言って、ベゴは嬉しそうにそれをしまった。
その時、もう一つベゴに渡したものがあった。
それはタバラの宿代を入れた封筒だった。
タバラって、ザモラの後よね?
来年、私はザモラまでしか行かないの。
そこから先は、サンティアゴまで歩くマルセルに託すね。
バトンリレーのようだね、と私たちは笑った。
ーーー
11月25日
仕事に出かけるベゴとぎゅっとハグをして私たちは別れた。
一足遅れてベゴの家を出る前に、私は一歩守をバックパックから外して、感謝のメッセージを書いた小さなメモと一緒にリビングテーブルに置いた。
今日は三つのバスを乗り継いでタリファまで行く。
今日からまた束の間の一人旅と言ったところだ。
そもそも一人旅だったはずなのに、そんな風に感じる。
それはこの旅で如何に濃い人間関係を築いてきたかということだろう。
ベゴの家を出てバス停に向かう途中、ウェストポーチに目をやるとベゴにもらったカミーノ・モサラベのピンバッチが消えていた。
またかー
本当に、自分で自分のことが嫌になる。
一瞬、戻ろうかとも思ったが、そんな時間はなかった。
あとでベゴに詫びを入れるしかない。
一つ目のバスでマラガまで行き、二つ目のバスでアルヘシラスという町まで行く。
マラガからタリファまで直接行けるバスが日に一本あったのでそれに乗りたかったが、ベゴにこの方が早いとおすすめされ、そのままチケットを取った。
それぞれ一、二時間バスに揺られて私はジブラルタル海峡の少し先、タリファに着いた。
どこまでも続くと思われるような美しい地中海の沿岸に面した町だった。
その向こうにはアフリカ大陸が大きく捉えられる。
泳いで行けそうな距離だ。
こんなすぐ近くに全く別の大陸が向かい合っているだなんて、とても不思議な気がした。
サイモンにはペンダント、カーリーンにはクリスタル、ジョンにはブレスレット、マルセルとベゴにはピンバッチ。
この旅で、私は大切な人にギフトを贈ることができた。
それは私が良い人だからとかそんなんじゃない。
ただ、私のことを忘れてほしくないだけだった。
この旅のこと、そして私と出会ったことを。
夕方、ベゴからカミーノ・モサラベのピンバッチの写真が届いた。
部屋の中に落としていたのだ。
キャッチャーは私のウェストポーチの中だ。
私たちは、またいつか会わなければならないね。
バルでビールを飲みなら、私はそう、ベゴにメッセージを送った。