291.贅沢な選択。選択は贅沢。 | しづりん絵日記

しづりん絵日記

もがけばもがくほど深みにはまる。世の中を斜に構えつつ、平和に生きよう。


278

息詰まった時にはブレストするに限る。

こないだの日記にも書いたけど、アンモナイト曲線を描く会話とはつまりブレストなんじゃないかと思う。


そんなわけで今日はKクンとブレストタイム。


「建売住宅よりも、なぜローコスト住宅の方がクレームが起こりやすいのか?」


先日、友人が建売住宅を購入したので、施主検査に立ち会った。「なんでこの納まり?」という箇所もある。けどまぁ、たいした問題じゃない。都会の一等地だから敷地は狭いけど、「うまくまとってるなぁ」と思う。日当たりもいいし、気持ち良さそうだ。収納もたっぷりある。ドキっとする斬新な空間も無いけれど「変な場所」が無い。ここに住めるか?といわれれば「もちろん」という感じ。


建築家の作ったオープンハウスを見に行く機会が多い。ローコスト住宅という「馬鹿げたコンセプトの住宅」の出現により、庶民も建築家に家を注文できる時代になった。だから、敷地が15坪しかないとか、坪60万しか出せない、という家も結構ある。「なるほど、うまいこと解いたねぇ」とうなる家もある。これは建売じゃ出来ない芸当。しかし、金が無いものだから「どこかでバランスをとっている」のが基本。つまり「何かを実現するために何かを諦めている」わけだ。収納が全く無かったり、坪庭を作らんがために傘をささなきゃいけなかったり、というのは住吉の長屋。けどまぁ、とにかく「ローコストで、緊張感のある空間体験をしたけりゃ、ちったぁ我慢せい」という箇所が少なからずある。しかるに「この空間ならガマンするわ」もあるし「あたしゃここには住みたくないよ」もある。

さて、ここからが今回の話の本筋だ。


狭小建売と狭小ローコスト住宅を比較してみる。


似たような広さとコストの場合。もちろん出来・不出来の尺度は千差万別だから「一般的」にという乱暴な前提条件において。その場合、施主の「満足度」はどうなんだろう?という話になった。


建売住宅の場合、私にしてみれば「全部決まってるじゃん」そう思う。けど結構、施主が色々決めている。壁紙の色、キッチンの扉の色、間仕切りつけるかはずすか、床を畳にするかフローリングにするかとか。建築家にしてみれば「最後の3%の決定事項」でしかないけど、施主にしてみれば実に「大量のものを自分で決める」ことになる。その、いろいろなものを「決めさせられる」ことによって、施主は疲れ果てると同時に「自分で決めたという行為に満足し」「いかに家を作ることが大変かを理解する」のではないかということになった。そして、それが「満足」に繋がるのではないかと。


一方、建築家にローコスト住宅を頼む場合を考えてみる。何しろ金が無い。「出来ること」は限られる。「壁紙の色よりも吹抜の方が大事でしょう?」の究極の選択をすることになる。すると、誰にでも出来る「3色から選ぶお楽しみ」が少なくなるわけだ。本来なら「大きなところ」で、当然のことながら施主は決断を下しているはずだ。なのに「小さな決める楽しみ」は少ないから、結果「ローコスト」を叶えるために建築家は通常以上に努力しているにも関わらず、何となく施主が満足できない場合があるんじゃないか、と。


この話は実はマーケティング用語で言う「想起集合」と同じだ。人間は「無数の中から選んで決める」ことは出来ない。けど一般的に、人は「3色から決める」のはすきなのだ。だから、「ゼロから決める」ローコスト住宅の方が満足度が高くなりそうなんだけど、「3色から選択」が多い建売の方が皮肉にも、満足度が高くなってしまうんじゃないか、と。


うーん。これは深い、と思いましたね。


「小さな決める行為」の数と「満足度」は比例関係にある、という話。ようするにテクニックの問題なんだと思うんだけど、面白い話だ。(ちなみに、誤解の無いように言っておくけど、この「想起集合」が当てはまるのは「未熟な消費者」に限ってらしい。)


つまり「何かを決める」というのは「贅沢な行為」なのだ。だからこそ、建築家に家を設計してもらうという「ゼロから決める」が「究極の贅沢」になりうる。そして建築家に設計をお願いして「満足」したかったら「それなりの金もってこいや」って話である。

だってね、建築家たるもの、法規の条件、平面、断面からはじまって、外装材、内装材、植栽の種類、その他無数の厚みとか、材質とか、高さを2センチあげるとか、っていう数限りない「無数の選択」をしているのです。「先生、28ミリにしますか?32ミリにしますか?」って聞かれても「ええい、いちいち聞くな!どっちだってええわい!」とは、言わない(言えない)のが建築家なんである。建築とはつまり無数の選択の集合体なのです。そんな安い金で、出来るかっチューの!ちなみにスカルパの設計料は工事費と同額なんだって。なるほど納得だよね。


しづりん絵日記

あーかいぶ2007年03月07日00:02