第十六章 約1年ぶりの帰還 3 | GOLDSUN SILVERMOON

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西洋占星術 紫微斗数占星術を使って運勢を観てゆきます。



ちょうどブランチの時間に
メイは戻ってきて一緒に食事をとり、昼前まで
数刻ほどカフェでくつろいだ。

メイは冬用のファーでできたスカートに
革のケープマントを羽織って雰囲気が違う
昨日ステラが褒めた服装だ。

「はは。寝坊しちゃった」

そう言いながらケープを脱ぐと
大胆にホルタ―ネックのファーのトップスだ。
首に傷のようなものが見える。

リーディも気が付いたようで
メイに目配せして自分の首のその場所に
あたるところをトントン指差す。
メイはえへへと笑い持っていたショールで
首元を覆った。


「買い出しとかはもういいの?」
「あー昨日終わらせた。」
「もしかして昨日より分けていたもの?」
「うん。」
「あとはそれぞれの防寒対策だな。」

それぞれ防寒着は購入済みで、
午後は進路の確認をして・・・最後のゲランでの一泊である。


*                    *                    *



そして夜


リーディは再び彼女の部屋を訪れてしまった。
身体が厳しいのでやめておこうと思ったのだが

明日からしばらく馬車泊・野宿の生活である。

だからか、身体が酷でも、一緒にいられたらという気持ちの方が
勝ってしまった。


彼女の部屋に入ると温かい。
いつもより良い1人部屋を取ってあるのでもったいないのだが・・・
さすがに、ベッドの大きさを変えたいとは仲間の手前言いにくい。
そう思いつつ、彼は扉を閉めた。

燈心草の燭台の横にはマグカップが並べられている。
「もうこのようなあったかい部屋で眠れる時は・・・しばらくないのよね。」
ステラがハーブティを注いだ。

二人の空気は、馴染んだものに変わっていた。
しかしながらまだほんの少しの緊張感も、ある。
ステラの横に腰かけて、マグカップを手に取りながらリーディは答えた。

「ステラの住んでいた北東の方はもっと寒いんだって?」
「そうよ。吹雪くときもあるのよ。」

ステラはハーブティを啜りながら頷く。そして、呆れ口調で
リーディの襟足に触れる。

「それなのに・・・髪切っちゃって。寒そう。」
「あー、切ってほしくないって前に言ってたな。ラナンキュラスの花畑で。」
「うん。だってあのしっぽ便利だったしー。」
「俺なりのケジメ。これからのさ。」

ハーブティはカモミール。
この馨しい香りを嗅いで、リーディは微笑んだ。

「それよりも・・・何度も訊くけど、お前平気なのか?」
「何?」
「家に戻るの・・・。」

ステラはそう問われて少し考えてから、答えた。

「まったく大丈夫とは言えないけど・・・でも先に進めないし。
何かのヒントが得られればいいんだけど・・・・。」

冬の時期に山を登って家に向かったことは無い。
ましてや山を下ったことも。
冬支度をしたら母と二人、冬ごもりしている動物の様に
日々の鍛練と生活の営みの他に無駄に動かなかったので。

無事に帰れるのだろうか?
それがうまく行きたどり着いたとしても・・・

もしかしたら、魔性に家も破壊されているかもしれない。
もしかしたら、スザナの街から急きょ越した関係で私物があまりない
家だったので・・・何も得るものが無いかもしれない。

さまざまな懸念が浮かんでは消えて、キリがない。

でもリーディは別のことを心配している。
彼と同じように私が母を亡くしたことは、おそらく知ってる。
簡単には話したから。

「皆がいるから、平気だよ・・・。」
そう言いながらステラは想い人の肩に、こつんと頭を乗せた。
そしてゆらゆら揺れる燈心草の焔を見つめ、二人は黙っていた。

「・・・そろそろ寝ようか?」

もたげていた頭を起こして、ステラは沈黙を破った。
リーディは頷く。

―なんか、そっけないな・・・。

ステラはふと思った。けれどさほど気にせず
燭台の火を吹き消し、ベッドに入る。リーディもその後に続いた。
少し彼女はホッとした。

しかし、

「おやすみ・・・明日早いからさ。」
そう言って彼はステラの額に軽くキスをして背を向け毛布を被ってしまった。
その態度にステラは再び戸惑う。
彼女は期待していたのだ、その腕に温かく抱きしめられることを。

「リーディ?」
「・・・何?」
「・・・くっついて良い?」
「背中なら。」

そのそっけない言い方に少しステラはカチンと来たようだ。

「急にそんな態度取られると・・・!」
声が少し荒くなったので、リーディはすかさずこう言った。
「あのな・・・俺の身にもなってくれ。」
「え・・・?」
「正面切って抱きしめたら、抑えが利かなくなりそうだから。」
「抑えって・・・?」

瞬間彼女は両手首を押さえられて
真っ直ぐ碧い瞳に見下ろされていた。
「ちょ・・・!」
構わず首筋に甘噛みされて、彼女は甘い吐息を漏らす。
「ぁ・・・。」
もう一度彼を見ると切なげな目線だ。
「俺は構わないけど・・・まだステラはそんなつもりないだろ?」
「・・・っ。」
「そう言うことだから。」

リーディはそう言い捨ててステラを開放し、再び背を向け毛布に潜り込む。
ステラは意味がようやく分かり、「・・・わかった」と呟き
そっと背中に寄り添い、両手を彼の胸の方に回した。

リーディは苦笑しつつも回されたその手を取る、それから
ずっと二人は黙っていた。


じれったくお互いのぬくもりを感じながら・・・
夜は更けていった。