第十五章 The Second  departure 2 | GOLDSUN SILVERMOON

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西洋占星術 紫微斗数占星術を使って運勢を観てゆきます。

彼は墓地で一人佇んでいた。

この日も穏やかに陽の光を浴びて、
墓石は真っ白く眩しいくらいであった。


やっと…魔性を倒したのだ。

しかしこの手で討つことは叶わなかった…。ずっとずっと自分を支えていた
憎しみの対象が無くなり
それは自分が魔性の最後を討てなかったところでどこか不完全燃焼となり…
複雑な思いだった。

ムヘーレスに移住する前、ヴィーニーに師事していた時に
言われた言葉。

「負の感情に支配されぬよう・・・。」

そう、志を得た時に・・・こういう風になることが彼女は見えていたのだと
彼は今更ながら痛感する。

・・・それに、あの魔性が倒れたことにより、
俺はどこかで…冷静に考えればそんなこと絶対あるわけないのに・・・
死んだ家族が帰ってきそうな気がしていたのだ。


―でも、これが現実だ…。死んでしまった者は・・・二度とこの世に戻ってこないのだ。


彼は天を仰ぎ陽光を感じた。
すると瞳から熱いモノが流れてゆく。

数年ぶりに流す・・・涙。

誓っていた。敵を討つまでは泣くものか、と。
彼女の肩で泣いてから、彼は自国に帰って
床に投げつけたペンダントを拾い上げた時に
そう決めていた。







その姿をステラは少し離れたところで見ていた。


初めて出会った4年前の、あの男の子が
リーディだと確信が持てた今、私はやっと解った。
彼があの時、どうして悲しみと怒りが混じったような瞳をしていたかを。
ちょうど彼は何らかの理由でスザナに来ていて・・・。
今の私と同じように家族を亡くしたばかりだったんだ。

彼はあの時、私の肩で泣いた。
今まで抑えつけていた自責の念と哀惜を慟哭に代えて。

ああ・・・それで私。言ったんだ。
何がそうさせているのか原因までは解らなかったけど
自分自身を責めていたのは解ったから
「自分を赦して欲しい」って…。

あの頃は、まだ母さんも生きていて
無邪気だった私は、分かり合えることは決してできなくて…
ただ、寄り添うことしかなす術が無く。

でも私も同じように母を亡くした今なら、解る。
私も自分を責めたもの…。母さんが殺されたのは私のせいだと。
キャロルに出会うまで・・・ずっと一人だった。


近寄らずに見守っているつもりだったが
堪らなくなって彼女は彼の傍らに立ち、そして、そっと彼の手を取った。
彼の方はあえて見ずに。

―たぶんリーディは、泣いている。今すぐ抱きしめたかったけれど、そうすると何故か
私は彼を傷つける気がした。だから、ただせめて黙って傍にいてあげたかった。
自己満足かもしれないけど…。抱きしめる方がなんというか、薄っぺらい慰め
のような感じがするから・・・。

ステラはそう思いつつ、彼が静かに泣くのを
見守っていた。

繋がれた手はゆっくりと絡み合う。


しばらくして、小さな声でリーディは
「悪い・・・。」と呟いた。

「大丈夫…。」
「どこかで、両親や義兄やレイラが帰ってくると思ったんだ。」
「…うん…。」
「でも、前を見ないといけないんだよな・・・。」
「…そうだよね…。」


すると、やっと彼はステラの方を向いて
淡々と訊いた。

「皆は?」
「みんな元気よ。ただこれからどうするか一度整理しないと
いけないって。」
「だな…。」

少しだけ涙の痕が彼の頬に残っていたけど、何も触れず。
ステラは頷いた。


「行こう。心配かけた。」

リーディは繋いだ手を離さずに、微笑んだ。






*              *              *




休む間もなく、王の間の復旧作業の傍ら
皆が一堂に会した。


ヴィーニーの修業の成果はまずまずと言ったところで
ステラも自分の魔力が上がってきたことを実感したと告げ、
ヴィーニーもそれは認めている。プリオールも閃光呪文を
マスターできたことに感謝していた。

「僕はここに来て、いろいろ勉強になりました。
無理言って同行させていただいて本当にありがとうございます。」

こういう時も礼儀正しい彼は、やはり海の神の守り人だ。

「ううん。修行もプリオールと一緒にできて為になったし、それに・・・」
「そうよ、石碑の復活の時の人命救助もあなたの回復呪文があったから
助かったのであって、あなたも功労者よ。」

ステラとフィレーンが口々に彼を
讃える。

「僕はもう数日したらリンデルに戻ろうと思います。それで…」
「レオノラのことね?」

フィレーンは心得たように言った。
ゾリアが伝えた内容がセシリオからフィレーンに話が通っていたらしい。

「レオノラの意思も尊重したいし魔導師の教育等のこともあるから、昨夜
彼女と話し合ったの。そしたらしばらく休みたいので同行したいって。
なので誰か侍女を付けてプリオールの島でお世話になってもいいかしら・・・?

確かにあの島は神が復活してから
海もたいそう穏やかになり、もともと長閑な島だったので
人々も温かいし、静養するにはもってこいの場所だ。

「わかりました。きっと良くなりますよ。」
プリオールも快く承諾した。

「そして、エターナル・メタルの件は?」
「そうだった…!!帰ってきた時、色々あったから」
メイが思いだしたように言う。

「インバー神のところまで行ったのだが、誰もその神の力を
受け継ぐ者はいなかった。だから考えられるのはキャロルか
まだ見ぬ最後の一人だな。」リーディがそう嘯き、
「エターナル・メタルの鉱脈も見つかりましたが、とても硬く特別な道具がないと
採掘できなさそうでした。」コウもため息交じりに答える。

「…じゃぁ・・・またその洞窟に行かないといけないの?」
ステラが少し困った顔をする。
「それは大丈夫。魔方陣でこの城と繋いだから。」
「そっか…。」
「キャロルも妖精さんに無事会えたようだし、
滋養薬もたくさんもらってきたしさ?おまけにうちらの分まで!」
ね?とメイがキャロルに問いかけると、キャロルは相槌を打った。

・・・しかし、ほんの少しだけ彼女の表情も強張っていた気がしたのだ。

リーディはふとそう感づいた。けれども一旦それは頭の片隅に追いやって
彼は今度はゴードンに問うた。

「そうだじぃ、風の塔にも神がいるって・・・」
「いかにも。一度そちらに行ってみると、どの者がどの神に対応したペンダントを
持っているかわかるかもしれん」
「とりあえずキャロルをインバー神のもとに連れてゆき、
風の塔へ行けば俺かキャロルのどちらかのペンダントは復活するだろう。」

皆、納得したように頷いた。