第十四章 死闘の末に 6 | GOLDSUN SILVERMOON

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西洋占星術 紫微斗数占星術を使って運勢を観てゆきます。

 
一方・・・
 
 
ヴィーニーとプリオールは移動呪文でシルサから
すぐさまスフィーニ城に着いたところだった。
 
 
「老師様、ここは・・・」
「城壁の上じゃ。ここを北と南に下ると結界を統治している石碑にたどり着く。
プリオール、急ぐぞ?」
 
ヴィーニーは小柄な体躯を素早く動かして南へ向かった。
あわててプリオールもついてゆく。
 
しばらくして、誰かが倒れているのが見えた。
 
「・・・まさか!!」
 
ヴィ―ニーは血相を変えて倒れている人物に駆け寄る。
 
「ゴードン!しっかりしろ!!」
ヴィーニーはすぐさま脈を診て、息があるか確かめる。
瀕死の状態だが、命の灯は消えてはいない。
ふと彼の懐を見ると、何かが光っている。
 
 
プリオールも倒れていたもう一人の若い家臣の状態を見て
すぐさま回復呪文をかける。
家臣の方は重症ながらもまだゴードンよりかは傷は浅く
しばらくして意識を取り戻した。
 
「・・・わたしは・・・あ!老師様・・・!」
「すぐに起き上がってはなりません・・・」
 
癒しの光を施しながら、プリオールは微笑む。
しかし家臣はゆっくりと途切れ途切れに言葉を紡いだ。
 
「ゴードン様の仕事の一つで、結界の石碑の管理があります・・・老師様は・・・
結界の限界をご存じで・・・ほんの一瞬脆弱になる隙間ができる時間帯に必ず
見回りをされるんです・・・。私は王女に言われて・・・老師様を呼びにここに赴くと・・・」
 
「なんですと・・・?」
 
 
「大臣が・・・老師様と闘っていて・・・大臣は恐ろしいほどの魔力を手にしていた・・・!!
老師様は大臣よりも・・・はるかに強い魔力をお持ちなのに・・・歯が立たず・・・やられてしまい・・・
大臣は石碑を割って・・・そして・・・その背後に・・は・・」
 
そこまで言うと再び気を失った。恐ろしい目に遭って精神的にショックだったのだろう。
ただ傷は癒えたのでプリオールは治療の目途をつけて彼を静かに横たえらせると
ヴィーニーに呼ばれて駆け寄った。
 
「家臣殿は?」
 
「傷は癒えているので、生命の心配はないです。で、ゴードン様は・・・」
 
「瀕死の状態じゃ。とりあえずプリオールはこやつにも治療を施してくれ。
儂は少しここを離れる。案ずるな?数分で戻る。」
 
「え?」
 
見るとヴィーニーの手には光るナナイロマキガイが握られている。
 
「キャロル殿がこちらの世界に戻ってきた。滋養薬もたんまり手に入れたと。
恐らくそれがあればこやつも大丈夫じゃろ・・・。」
 
ちらとゴードンを一瞥するや否や
ヴィーニーは呪文を発動して空へ舞いあがった。
 
 
 
*                     *                    *
 
 
レオノラにまるで人では無い何かが憑依したかのように
一向に凄まじい魔力を感じさせる氷攻めを止めない。
 
 
―いつもの通り。卑怯よね・・・。
関係ないものを操って、闘わせるなんて。
 
ステラは辟易として、唇を噛んだ。
 
リーディも迂闊に攻撃できず歯痒い思いをしているようで
しかし一方で彼は策を練っているようだった。
セシリオが炎や吹雪を防ぐ光のヴェールを仲間たちに
包み込ませる。

レオノラからの執拗な攻撃を防ぎつつ
ステラは魔性の横にもう一人誰かがいるのに気が付いた。
魔性よりはるかに背の低いずんぐりとした体形の中年の男だ。
 
・・・大臣?

彼の瞳も濁りきっている・・・。大臣は何やら魔性に耳打ちして
それに対して魔性は頷いてその大臣を下がらせようとした。
 
しかし・・・そこにコウが立ちはだかる。
 
「通さない。石碑に向かうんでしょ?」
手には銃が握られている。
 
「・・・小癪な」
 
ググゲルはにやりと嗤うと両目を瞑り何やら唱えた。すると
複数のググゲルの姿が・・・現れたのだ。
 
「何!」
 
思わず足元を狙い引き金を引いたがそれはまやかしで
王の間の柱をぶち抜いた。
 

そしていつの間にか王の間から逃げ出した・・・。
恐らく石碑へ向かったのだろうか。
 
コウは追いかけようとするが、術を使ったのか?
彼の姿はもう無い。
 
 
 
その間もレオノラは相変わらず前衛二人に執拗な攻撃を仕掛けていた。
彼女が杖を一振りすると、氷の刃や吹雪が襲いかかってくる。
魔力も尽きる気配はない。
メイがレオノラのも動きを封じ込めようと、背後から
羽交い絞めにしようとするが何度も失敗してしまう。
 
膠着状態が続いた。
疲労の色は皆、隠せない・・・。

額の汗を拭いながらリーディはふと思った。
 
―待てよ?
 
彼は思考の先に何か行き着いたようだった。
そう確信すると後ろにいたセシリオにそっと指示をする。
 
「今かかっている呪文の効果が無くなっても、
防御の呪文を俺にはかけなおすな。」
「・・・今何と?」
「頼む。」

 
しばらくしてセシリオの呪文の
効果が切れた。
 
各々を包み込んでいた光のヴェールが消えたのだ。
 
セシリオは再び皆にかけ直しはじめたが
その間もレオノラが容赦なく前衛の攻撃を止めようとしない。
 
しかしリーディはこれを好機といったように正面切って吹雪を受けた。
ヴェールが切れた彼の体はあっという間に氷柱の中に閉じ込められた。
 
「リーディ!!」
 
ステラは思わず声を上げた。

―早く氷を溶かさないと・・・。心肺停止をしてしまう!!
 
彼女がリーディに近寄ろうとした矢先だ。
 
「待って。」
 
…それをセシリオが止めた。
 
「少し様子を見てみましょう。王子も何か意図があって自ら
氷漬けになった気がしてならないのです・・・。」
 
ステラは少し怪訝そうな顔をしたが、セシリオの
静かだけど譲らない声色に、最終的には従った。
その刹那、
 
「ステラ!見て!!レオノラさんが・・・」
メイが声を上げた。
 
見るとレオノラが正気に戻ったようで
瞳の色が澄んだ鳶色になっている・・・。
 
 
 
「私・・・??」
 
 
 
レオノラの手から杖が滑り落ちる。

レオノラは今まで自分がやってきた行いも覚えていて
ワナワナ震えているようだった。そして
 
 
「嫌ぁぁーー!!王子!!」
彼女は氷漬けになった彼を見るや否や
叫んだのだ。
 
 
―そうだった。私も操られたとき
こんな感じで正気に返ったんだ・・・!
 
その様子を見てステラは再び
自分が操られた時のことを憶い出したのだ。
 
 

それから何かにヒビが入る音がした。
音のした方を一瞥すると氷漬けにされたリーディの
身体全体からじっくりと熱を出していて、
(これは呪文の熟練者じゃないと難しい)
氷を内側から溶かしていたようで。
 
 
 
バリン!とカチ割れる音がしたかと思うと
両手にしっかり握ったブロードソードで氷を薙いで
完全に脱出した彼がいた。
 
 
そのブロードソードからも焔が生じている・・・。