第十四章 死闘の末に 2 | GOLDSUN SILVERMOON

GOLDSUN SILVERMOON

西洋占星術 紫微斗数占星術を使って運勢を観てゆきます。

ステラはフィレーンと話をした後、
自分の使っていた客室で少し休むように言われていた。

ヴィーニーのところに戻るのに少し休んでからのほうがいいと
フィレーンが勧めたのだ。
シルサへ帰るのに魔法力が要るのもあるが
先程の一件で心身的な疲労があるとフィレーンの計らいで
少し横になりなさいとのことだった。

一人にもなれるし、コウとメイは先に客室棟で休んでいるので
もし気持ちが落ち着かなかった場合
彼らと話せば気がまぎれるだろうと判断した結果だった。
 
言われた通り、ステラは気疲れをしていたし
数刻休んでから魔導書を受け取って
(王女がゾリアに部屋へ届けさせるとのこと)
シルサへ戻ろうと…そう考えながら一人客室へ向かう。

この階は客室のみのフロアのせいか
城の人の通りも少なく、ステラはほっとした。

―リーディに、どんな顔して会えばいいんだろう?

あんなことの後で
突きつけられた事実は変わらないし

少し沈痛な面持ちで突き当りの廊下を
曲がった時、




 
その彼がいた。
 
 

ステラは動けなかった。

何故ならリーディはステラに気が付くや否や
駆け寄って急に抱きしめたからだ。

息が止まりそう。
抱きしめられているので顔は見えないけど
切ない気持ちがまた、ぶり返してきて・・・。

体温が温かくて。
・・・思えばここまで密着したのも初めてで。



「・・・辛い思いさせていたら、ごめん。」



耳元で低く 掠れた声で囁かれた。
 
そっと腕から解放される
碧い瞳には困惑した自分の顔が映る。

抱擁からいったん離されるや否や、腕をひかれすぐ横の部屋にステラは
連れて行かれた。あまりの早い展開に何が起きたのかわからず、
 
 
徐にベッドに座らされた。
そう、ここは彼が自室として使っている客室だったのだ。


リーディは、一旦ドアの前に戻ると鍵をかけ、それから
座っているステラの前にしゃがんで、彼女の手を取った。

そして
「離さないって決めているから。」

そう言って
初めて唇と唇が触れるキスをした。
びくんと身体が反応する。

―なんか、身体に力が入らない・・・。

「やっとだな・・・。」
今度は両手を彼女の両肩に回し、優しく笑う彼に、ステラは恥ずかしさで頷きつつ俯いた。
しかしステラの中には未だ先ほどの確執における懸念があった。


―やっぱり私でいいのだろうか・・・。


けど、ただこの目の前にいる彼が好きだということは
真実だ。


「嫌じゃ・・・ないよな?」
気遣うような言葉にステラは静かに首を振り、顔を上げてリーディの顔を
見つめた。

切なげな眼差しの中には、何か熱いモノを瞳の中に滾らせていて…
胸が痛くなる。そしてその表情は再び緩んで、リーディはステラの両肩を掴んでいる
手を離してから、彼女の背に装備されている槍をゆっくりと外した…。




            *               *




シルサではヴィーニーの午前の修行が終わって
ヴィーニーと一緒に昼食の準備をしているプリオールがスープを温め直している
トマトベース初夏のシルサで採れる夏野菜をふんだんに使ったスープで、
ナスやズッキーニがたくさん入っている。ステラが3日分作り置きしておいたものだ。

いい香りが厨房内に漂う。
ふとプリオールは、パンを焼いている老師の様子を何気なく伺うと
老師の顔が物思いに耽っているのに気が付いた。

「いかがしました?老師…?」
「…いや、ステラがまだ帰ってこないので遅いなと思ってな。で、嫌な胸騒ぎがするんじゃよ…。」

―この感覚は4年前に起きたスフィーニの惨劇の時と酷似している…。
しかし結界は、ゴードンの奴目が護っているはず…。

でも、気になるな…。

「プリオール、昼食が済んだら儂もちぃと城へ出かけようと思う。」
「ステラのことで何か…!?」
「うむ・・・それもあるがそれだけじゃない気がしてな?」
「・・・私も付いてまいります!」

プリオールは即座にそう言っていた。
ステラの身に何かあったらと思うと、居てもたってもいられなくなったのだ。


*              *                *


コウは自分に割り当てられた客室に戻り
ベッドに横になった。

流石に洞窟から帰ってきてから、ただでさえも疲労困憊の中
一悶着あり。どっと疲れが出てきたのだ。

手にしたエターナル・メタルの欠片を持ち上げて見つめながら・・・コウは呟いた。

「姉さんが・・・生命力ギリギリまで使って砕いてくれた・・・」

これだけじゃ何も役に立たないかもしれない・・・。
けれども、どういう性質の鉱石なのか研究ができるし、可能性が少しは拡がる。

それよりも姉さんが、かけがえのない姉が・・・
嬉しさよりも心配で、胸が張り裂けそうだった。

そんな姉はいつだったか言っていた。
リンデルに向かう途中の船旅で、具合が悪い時だったか。
あの時、既にステラとリーディの想いに気が付いていたのだと思う。

「あのくらい真摯に、人を好きになれたら・・・。」と
甲板で夜の海を眺めていた二人を見てそう呟いていた。
決して寄り添うわけでもなく、甘い雰囲気があったわけではないけれど。
心から想い合っているのが伝わってきたのだろう。
恥ずかしながら僕は、リンデルの洞窟で二人の様子がおかしいのに
(特にステラ)気が付いてやっとわかったのだけどね・・・。

僕としては二人が想い合っているのは全然悪い気はしなかった。
逆に見ていて、徹底したストイックぶりで。好感が持てたほどで。

売れっ子の芸妓である姉さんには、常に男の影があった。
朝帰りも仕事に支障が出ない程度にあった。それにもかかわらず
求婚をしてくる地位の高い人もいた。

僕は、嫉妬で辛かったが、笑顔で見守って
身体によい食事を作って待っているしかなかった。

嫉妬で辛かった一方で、姉さんは誰にも本気になれないと知っていたから
耐えられたし、待つこともできた。それにこの状態をなぜか壊したく無かったから。
僕の元には絶対帰ってくる、この関係を。

僕らの使命が動き出し、エストリアを出て旅立つことができてホッとしたのも事実。
姉さんのそう言う部分を見なくて済むようになったから・・・。

そしてコウは微睡みながら、エターナル・メタルの鉱石を握りしめた。