うたを しらないの

うたっているけど しらないの

だれかわたしに うたをおしえて

なにかをうたいたい 

なにをうたいたいのか わからないけど



この世のものとは思えないほど、美しい歌声だった。

気が付いたら辺りは真っ暗になっており、いつのまにか眠ってしまったようだった。

誰が歌っているんだろう?

美しいメロディーなのに、歌詞が不思議だった。

そして更に不思議な事に、その歌声は段々勇吾に近づいてきた。少しずつ、少しずつではあるが音量が増していく。


うたを おしえて

うたが しりたいの


暗闇の中から段々近づいてくる歌声…

畏怖を覚えるとともに、とても惹かれてしまった。

怖いもの見たさとでもいうのか、勇吾の足は歌声の方へ吸い寄せられていった。波の音にもまれても、その歌声は澄み通って耳へしっかりと届く。不思議な声だと思った。


パシャン、と水音が跳ねる。大音量の歌声の先には、なんと人魚がいた。

暗がりで光るような美しい白肌、透き通るような深く青い目、水に濡れて体に張り付いている漆黒の長い髪、そして水色の鱗に覆われた下半身。エラまで透き通って見えた。年の頃は人間を基準にすればまだ十代半ばくらいだろうか。

美しすぎる、と勇吾は思った。

人魚は醜くつくられたのではなかったのか?この人魚は美しすぎる。

それに何故ここで歌っているのだ?この人魚はシンガーか?


「こんばんは」

人魚が喋った!

勇吾は驚きを隠せなかった。人魚の事ばかり考えていたから夢でもみているのであろうか。


「こんばんは、というのが人間の挨拶じゃないのですか?」

少し変わったイントネーションだった。たどたどしいというか、話すのに少し慣れていない、そんな感じだった。


「こんばんは…」

人魚は満足げににっこり笑った。とても可愛らしいと思った。歯も持っているようだ。シンガー養殖場で見た人魚は歯と言うより牙を持っていた。


人魚は何か言葉を必死で探しているらしい。話しかけようと口を開いては、声を出す直前で止める。何か花したいのだろうか。


「君は、どうしてここにいるの?君はシンガー?」

「シンガーって何?」

小首を傾げて不思議そうにじっとみつめてくる。

「シンガーを知らないのか」

「こっちへきて。いいものを見せてあげる」

普通に会話しているだけなのに、人魚の声は頭に直接訴えかけるような…優しく透き通った声だった。