うつ病治療の主役は、何と言っても抗うつ薬である。睡眠薬や抗不安薬は速やかに効果が出るが、本格的なうつ病の治療としてはやはり非力というか、不十分なことが多い。反面、うつ病で治療を求める人にとっては、早くよくなりたいが、抗うつ薬は、効果発現に時間がかかる、ということが一つの問題と思われる。

 

 一般的には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、投与開始してから効果が出るまで2週間くらい、と言われている。そのため処方する際は、「効いてくるまで少しかかりますが、あせらず治療しましょう」などと説明する。逆に初期から副作用だけは出ることも多いので、「最初は吐き気がでたり、眠くなったりするかもしれませんが、できるなら我慢して続けて下さい」と、治療への協力をお願いする。

 

 では実際どのくらいの期間で効果が出るものなのか?

 

 教科書などでは、抗うつ薬の効果出現が2-4週間と一般的に信じられているが、実はこれを裏付けるはっきりした根拠はない。

 

 抗うつ薬が承認されるには、治験でプラセボとの比較試験を行い、うつ病の諸症状を数値化し、統計学的に有意な改善を示すことを示す必要がある。よく使うのがMADRSやHAM-Dといった指標で、MADRSでは抑うつ症状と無快感症の評価を重視し、HAM-Dは,抑うつ気分,罪業感,精神運動抑制,精神的不安,身体症状などを評価している。ただし、けっこう細かい項目で評価がされており、実臨床でこれを全部の聞き取りができるとは言い難い。

 

 どの程度でプラセボと差が出てくるか?だが、治験など単一試験では、投与開始後2-4週間かかることから、抗うつ薬の効果発現が遅いと考えられているようである。ところが、これらをメタ解析すると、わずか1-2週間でプラセボとの有意差が示されている。メタ解析というのは、臨床研究論文で信用できるものを多数集め、大きなデータとして、その効果を比較検討したもの。これは母集団が大きい中で比較してあるので、その分、2つの集団の差が出やすいということでもあるのだが。

 

 そして、いずれの抗うつ薬も改善率が最も高いのは、開始後1-2週間。最も低いのは4-6週間となっている。実臨床でも、簡単な観察で、抗うつ薬の効果は早ければ数日、遅くても2週間以内で得られる、という自分の感覚とも合致する。比較的早く得られる効果としては、悲しさ(抑うつ気分といっても、落ち込みというよりは悲しさ)、不安緊張などである。

 

 さて先のデータからすると、4週間使っても改善がない場合、それ以後は同じ抗うつ薬を継続してもさほど効果が期待できないということになる。

 

 そもそも普通にうつ病を治療していて、3-4週間経っても少しもよくならない、というのは、かなり治療が上手くいってないといえる。先に述べた抗うつ薬のメタ解析では、純粋に抗うつ薬単剤とプラセボの比較という厳しい条件だが、臨床の場では、初期には睡眠剤や抗不安薬を使うこともでき、それだけで十分な人も多いし(中等症以上のうつ病でも)、単に受診して精神療法や休養でよくなる人もいるから(プラセボに近い)。

 

 では初期の治療で何らかの改善がない場合はどうするか?

 

 づづく