適応障害関連の話をもう少し。 

 

 深田恭子さんの件ではさらに、通院中の患者さんから、「芸能人のニュースを見ましたが、私も適応障害ではないでしょうか?」との質問を受けた。

 

 その方は30代の女性で、離婚後に2人の子育てをしながら不動産会社で働いていた。情報処理能力も高く、責任感の強い人なので、頼りにされるタイプ。ただ人に任せるのが苦手な上、頼まれると自分の仕事でないのにやってしまう。気を遣いすぎるタイプで、上司や同僚のふとした一言にも「自分が(仕事上)迷惑かけたからかも」「もっとやらないといけなかったかな?」と悩みやすい。ということで必要以上の忙しさや木の遣いすぎで疲労しやすかった。

 

 子育てでは、上の子供は小学校低学年でかなりやんちゃで(ADHD傾向?)育てるのに労力が要り、自分もかなりいらついてしまうし、もう一人はまだ3歳で手がかかる。保育所や学童保育などを利用しつつも、かなり苦戦していたようだ。

 

 さらに一番よくないのは、あれこれしつこく彼女に要求する実家の母からのストレス。子育てと家事、仕事だけでも大変なのに、それを助けるどころか、毎日のように電話をしてきて、ネガティブなこと、面倒なことを言ってくる。父親についての愚痴を延々聞かされる上、やれ腰が痛いから病院に連れていけ、食品の買い出しに行ってくれ、さらに高価ものを買ってくれ(マッサージ機とか!)と言うことも。1日に何回もかけてくる日もあり、つい真面目な彼女は、嫌々ながらも母の期待に応えるべく無理をしていた。

 

 エネルギーのある人なので、抑うつはありつつも、何とか持ちこたえていたが、いよいようつ状態となりダウンしたのが1年半前。子育て支援センターの人に伴われて来院した。不眠と疲労感が顕著で「家事も子供の世話も満足にできない」「仕事も周りに迷惑かけて情けない」と自責的な訴えが強かった。食欲低下に加え、吐き気もあり、体重はこの3か月で7㎏も減少。経過としては適応障害の重症化であるが、DSM-Vでも、十分“うつ病”(大うつ病:Major Depression)の診断基準を満たすため、そのように診断書を書き、まずは2か月程休職をするように勧めた。

 

 薬物療法として、以下を処方。

 

 サインバルタ20㎎ 

 クエチアピン25㎎

 

 不眠やイライラは軽減し、話を聞く余裕ができてきたので、アドバイス。自分でいたずらにあれこれ抱え込むのは、生育的、性格的、それまでの経験からライフスタイルになっている。この考え方を少し修正するのにシンプルな精神療法が有効であった。

 

 具体的には

 

 ・母親からの電話はなるべく取らないこと

 ・復職するなら、仕事は今までの半分以下にして、「それは自分は無理です」と断るようにすること。

 

 つまり、母の過剰な要求や、無理に頼まれる仕事など、断るのは正当であるということ! そういう対処ができれば、精神的にも身体へも過剰な負担がかからず、楽に生きられるようになるということ。

 

 この人は、頭がよく素直な人なので、母からの連絡は日に1回までで、聞き流せるようになり、母も諦めたらしく、こちらは比較的スムーズに解決。サインバルタ40㎎として、子育てや家事には余裕ができてきた。そして予定どおり2か月で復職となった。

 

 つづく